米国FRBは、5月2-3日開催のFOMC(米連邦公開市場委員会―日欧の中央銀行の理事会にあたる委員会)の議事要旨を5月24日に公表しました。FOMCの議事要旨では、その時の経済情勢を踏まえた具体的な議論や、突っ込んだ議論がどのように展開されたかを知ることが出来ます。FOMC後に発表される声明文では、その議論が凝縮された形で発表されるため、マーケット参加者は、議論の本音や声明文の言外の意味を探ろうとして議事要旨を注目します。また議決に対する委員の賛否や、論点に対する委員の考え方などが記されており、時にはマーケットを動かす材料となっています。

FOMC議事要旨は、FOMCの3週間後(夏時間:日本時間午前3時、冬時間:日本時間午前4時)に公表されます。ただ、議事要旨はあくまで「要旨」であるため、審議の発言が全て盛り込まれているわけではなく、議事をまとめたもの、もしくは一部しか公表されていないということは留意しておく必要があります。議事の全記録は5年後に公表されます。

さて、今回、FOMC議事要旨が特に注目されたのは、4月28日に発表された米国1-3月期GDP速報値が、実質年率で+0.7%と3年振りの低水準となったためです。特に、米経済の約70%を占める個人消費は+0.3%と、2009年以来の低い伸びとなりました。低い伸びは2月、3月の小売売上高がそれぞれ▲0.2%、+0.1%と低水準だったため、あらかじめ減速の予想とはなっていましたが、+0.7%は市場予想+1.0%を大きく下回りました。このGDPの減速については、5月の声明文では「1~3月期の景気減速は一時的なものとみている」としていますが、慎重な意見はなかったのか、利上げペースに影響を与えるような意見はなかったのかどうかが注目されていました。しかし、議事要旨では「労働市場は力強く、景気減速は一時的だ」との見方を示していたことから疑念は払拭されました。また、利上げペースについては、声明文では、「緩やかに調整する」と従来の表現を維持した内容でしたが、議事要旨ではFOMCの大半の参加者が、「経済指標が想定通りなら、間もなく追加の利上げが適切になる」と、判断していたことが明らかになりました。参加者の2、3人は「今回の会合で利上げしてもいい」と強気の見方も示していました。「間もなく」とは6月のことと予想され、6月利上げを前提に議論されていたことが伝わってきます。

ただ、物価については、失業率が4.4%と約10年ぶりの低水準にもかかわらず、物価上昇率が目標とする2%に達していないことについて、数人の参加者から懸念の声が上がっていることがわかりました。マーケットは、この点に反応しました。米国の長期金利は低下し、ドルは売られ、円高の動きとなりました。もし、次の米雇用統計で非農業部門新規雇用者数が10万人と低い水準が発表されても6月の利上げ期待は後退せず、持続するかもしれませんが、物価に影響する賃金の伸びが鈍いと、マーケットの期待は後退する可能性があります。議事要旨から、このようなシナリオを描くことが出来ます。

また、今回のFOMCの議事要旨では、FRBが2008年のリーマンショック後の量的緩和で積み上げた約4.5兆ドル(約500兆円)の資産については、ほぼ全てのFOMC参加者が「年内に資

産縮小を始めるのが適切」とし、次回6月のFOMCで、具体策の議論を続ける考えを示しました。この議事要旨を受けて、マーケット参加者の見方として、FRBは6月、9月と利上げし、12月には資産の縮小を決断するというシナリオが浮上してきています。6月以降のFOMCでは、この資産縮小の議論がどのように展開されていくのかにも注目していく必要があります。

日欧中央銀行の議事録

日本や欧州の中央銀行の議事要旨やその公表はどのようになっているでしょか。今後の相場シナリオを考えていく上で、知識として知っておくと役に立ちます。

日米欧英中央銀行の政策決定会合の議事録公表ルール

公表のタイミング 日銀 米国 FRB 欧州 ECB 英国 BOE
議事要旨 次回会合の
3営業日後
3週間後 4週間後 政策決定と同時
議事録 10年後 5年後 30年後 8年後(※)
主な意見の公表 原則、会合の
6営業日後

※2015年3月以降の議事録(英国BOE)

日銀は、金融政策決定会合の議事要旨を、次回の決定会合で承認のうえ、その3営業日後に公表しています。また、議事録は、各金融政策決定会合から10年を経過した後に、半年分(1月から6月分、7月から12月分)ごとにとりまとめて、年2回公表しています。

欧米と異なるのは、日銀は金融政策決定会合における各政策委員や政府出席者の発言内容を「主な意見」として、その会合の6営業日後に公表していることです。各政策委員と政府出席者は、表明した意見を300字以内に要約して総裁に提出し、総裁が編集を行なって公表するようです。ただし、発言者の名前は議事要旨と同様に明らかにされていません。

従来、会合の内容を把握するには、その次の会合後に公表される議事要旨を確認するしかなかったのですが、「主な意見」の公表によって、次回会合前に前回の会合の議論の内容を把握することが可能となりました。タイムリーな公表によって、議事要旨よりも「主な意見」の方がマーケットの注目度合いが高まりそうです。

議事要旨を最も早く公表するのは英国のBOEです。政策決定と同時に公表します。一番透明性が高いようです。

ECBの議事要旨は日本より少し早い4週間後となっています。また、米英などと異なり、政策判断に賛成・反対した理事の数や、各理事の投票行動は明らかにしないようです。ECBの政策担当者は、出身国で過度の政治的圧力を受ける恐れがあるとして、こうした詳細の公表に概して慎重のようです。議事録の公表も30年間は開示しない方針というのも、このような背景があるようです。しかし、議事録の公表が30年後とは驚きます。公表時点では、ほとんどの関係者はいないかもしれません。今後、ECBの資産縮小が相場の材料になる可能性があるため、ECBの議事要旨にはマーケットの注目が集まりそうです。