楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

軟調な展開が続く

2013年10月28日の週の株式市場は、週前半は前週後半の急落を埋める形で、前週から始まった2014年3月期2Q決算に期待して上昇する局面がありました。しかし、週半ばからは下げる展開が目立つようになりました。小松製作所(以下コマツ)の通期見通し下方修正、ダイハツの通期見通しが市場予想に届かなかったこと、ソニーの通期見通し下方修正など、いくつかの会社の通期見通しが下方修正されたか市場見通しを下回ったことを反映して、下げる展開となりました。月替わりした11月1日も、前日比126.37円安の14,201.57円で引けました。

ただし、後述のように実際に決算を見ると、コマツ、ソニーの下方修正の一方で、日野自動車、富士重工業、マツダ、パナソニックの上方修正もあります。この中で富士重工業とマツダの上方修正は大幅修正でした。4-9月業績を見てもソフトバンクが好調な業績を達成しており、遂にNTTドコモを業績で抜きました。現時点では、決算の結果は良好と判定してよいと思われます。

また、チャートを見ると、日経平均は三角保合いの中で引き続き上下運動していますが、これまでのところ下値が切り上がっています。

グラフ1 日経平均株価:日足

先行きを見ると、いくつかリスクがあります。5月23日のザラ場高値15,942.60円の信用期日が6カ月後の11月23日に到来します。11月28日はヘッジファンドの締め日と言われています。また、来年からNISA導入に伴い、株式売却益に約10%課税される証券優遇税制が廃止され、約20%の課税に戻ります。このため、持ち株を売却する個人投資家が増える可能性があります(すでに増加している可能性もあります)。

このように、マイナス材料がある一方で、決算を見る限り、ここから投資してよいと思われる銘柄も目立ちます。ファンダメンタルズをみると、割安感がでている銘柄も増えてきたと思われます。特に自動車セクター、電機セクター、これから決算が出る建設、不動産、セメントなどの建設資材の株価の動きに注目したいと思います。

11月5日の週のスケジュールを見ると、日本では6日に日銀金融政策決定会合議事要旨(10月3、4日分)が公表されます。アメリカでは7日に7-9月期GDP速報、8日に10月の雇用統計が公表される予定です。特にアメリカの数字に注目したいと思います。

表1 アメリカ政府統計の発表スケジュール

グラフ2 ドル円レート:日足

グラフ3 日米金利差

表2 楽天証券投資WEEKLY

2014年3月期2Q決算動向

前週に続き、2014年3月期2Q決算の内容を見ていきたいと思います。

建設機械

コマツが通期見通しを下方修正しました。2Q(7-9月期)営業利益は565億円(前年比1.8%増)、純利益は415億円(22.2%増)でした。日本、北米、欧州が好調で中国が回復しましたが、オーストラリアとインドネシアの鉱山機械が引き続き減少しています。下期も回復する目処が立たなくなったため、会社側では通期営業利益見通しを従来の3,050億円から2,100億円に下方修正しました(2013年3月期は2,126億円)。

この下方修正は市場にショックを与えましたが、重要なのは、コマツの経営者がこれまで、執拗に業績回復論、強気論を言い続けたため、業績でも株式市場の認識でもその反動がでたと思われることです。前期までの業績から、採算の良い鉱山機械の変調によって、業績の伸びが鈍化するであろうことは、概ね見えていたと思われます。

ただし、コマツの下方修正をもって建機株に対する投資価値が低下したと考えるのは早計です。日本の建機市場の伸びに注目したいと思います。コマツの日本市場の売上高は835億円(前年比19.6%増、構成比20.2%)でした。一方で、日立建機は日本比率が27.3%(2Q累計(4-9月期))で、日本売上高は特殊要因を除いて実質25%増加しました。コマツの下方修正の要因となった鉱山機械の売上比率もコマツが28.9%なのに対して日立建機は15.6%(いずれも2Q)です。この差が、日立建機の2Q累計営業利益が250億円(前年比20%増)となったという業績の差になって表れたと思われます。復興需要に東京での再開発ブーム、全国の洪水対策、道路の補修などが加わって、建機の国内市場は活況です。

クレーンに強いタダノも国内、北米、中東の好調で、2Q累計営業利益が103億円(前年比2.4倍)になりました。通期の営業利益予想は前回予想の155億円から192億円に上方修正されました(2013年3月期は109億円)。日立建機、タダノや加藤製作所のような、日本比率、北米比率が高く、鉱山機械の比率が低い、建設機械の準大手、中堅企業に注目したいと思います。

自動車

本田技研工業の2Q累計営業利益は、3,564億円(前年比21.6%増)でした。通期見通しでは、一部修正がありましたが、ほぼ期初見通し通りの営業利益7,800億円(前年比43.2%増)となる見込みです。新型フィットが国内で好調に売れており、アジア展開も順調に進んでいます。また、アジアの2輪車販売も順調です。

富士重工業は、フォレスター、インプレッサが北米、日本で好調なこと、為替前提を通期1ドル=92円から97円に修正したこと、原価低減努力が奏功したことから、業績見通しを大幅に上方修正しました。前回予想は営業利益1,980億円でしたが、今回予想は2,780億円になります(2013年3月期は1,204億円)。また、2014年4月以降に国内で新車「レヴォーグ」を発売します。レガシーを発展させた新車です。

マツダも通期営業利益見通しを前回見通しの1,200億円から1,600億円に上方修正しました。円安とCX-5とアテンザ(MAZDA6)の世界販売が好調で、新型アクセラ(MAZDA3)も好評です。

このほか、日野自動車が、タイ、インドネシア市場がスローダウンしているものの、国内市場が順調に拡大していることから上方修正しました(営業利益予想は850億円から1,000億円に。前期は651億円)。日本ではダンプカーの需要が活発で納期が延びています。日野自動車やいすゞ自動車から車体を購入してダンプカーを作っている新明和工業、極東開発工業、ミキサー車を作っているカヤバ工業の決算にも注目したいと思います。

民生用電機

ソニーとパナソニックの明暗が分かれました。パナソニックはデジタルAV機器と白物家電の業績が前上期よりも悪化しましたが、住宅向け、自動車向けが好調で、家電の悪化を埋め合わせました。2014年3月期通期の営業利益予想も、従来の2,500億円から2,700億円に(2013年3月期は1,609億円)、当期純利益も500億円から1,000億円に上方修正しました(同7,543億円の赤字)。パナソニックはプラズマテレビからの撤退、民生用リチウムイオン電池事業の縮小など、継続的なリストラをしていますが、この効果も出たと思われます。

また、シャープは2Qに液晶事業が黒字転換したことから、全社営業利益が1Q30億円から2Q300億円に改善しました。

一方ソニーは、デジタルAV機器の悪化から通期営業利益予想を従来の2,300億円から1,700億円に(2013年3月期は2,301億円)、当期純利益予想を同じく500億円から300億円に下方修正しました(同430億円)。スマートフォン事業が含まれるモバイル事業も1Qは黒字でしたが、2Qは再び赤字になりました。

パナソニックの上方修正もソニーの悪化もサプライズでした。パナソニックの自動車用、住宅用へのシフトを評価したいと思います。

ゲーム

任天堂は1Q、2Qと営業赤字が続きました。通期営業利益予想1,000億円を会社側は変更していませんが、Wii Uは売れておらず、3DSも販売は高水準ながらピークアウトした可能性があります。このまま3Qで大幅な伸びがなければ、通期営業利益は200~300億円の赤字から500億円程度の黒字のレンジになる可能性があります。

ガンホー・オンライン・エンターテイメント(12月決算)も「パズル・アンド・ドラゴン」の寄与で高水準の業績でしたが、売上高、営業利益ともに、7-9月期は4-6月期よりも減少しました。ブームが終焉するサインが出た可能性があります。

日本でも海外でも娯楽はゲームだけではありません。日本では映画とテレビドラマが戦後何回目かの黄金時代を迎えています(東宝や松竹の業績を見ればわかります)。音楽はライブのブームが続いています。映画と音楽の力には注目する必要があります。

また、ソーシャルゲームでは「パズドラ」のような大ヒット作でも、ユーザーの推定90%以上がお金を払っていません。ソーシャルゲームでは、一部のユーザーのみがお金を払って、あとは無料で遊ぶという、商売としては歪んだ状態になっていると思われます。この反動がこれから出てくる可能性があります。モバゲー(ディー・エヌ・エー)、グリーに始まった日本型ソーシャルゲームの大ブームは、「パズドラ」のピークアウトとともに終焉に向かう可能性があります。そして、ゲームは無料でプレイするものという観念が、これからソーシャルゲーム会社だけでなく、任天堂以下の世界の家庭用ゲーム会社をも苦しめることになるのではないでしょうか。

これまでのところ、良いものも悪いものもある決算でしたが、どちらかと言えばよいものが多い決算と思われます。5日の週はトヨタ自動車、三井物産、伊藤忠商事、三井不動産、住友不動産などがあります。引き続き決算に注目したいと思います。

表3 2014年3月期2Q決算発表予定日(主要なもの)

グラフ4 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ5 東証各指数(10月31日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

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