楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

三角保合いの中での上下運動が続く

2013年10月21日の週の株式市場は、前半は前週にアメリカ債務問題が一応の妥協を見たことからじり高の展開となりましたが、後半は大きく下げる展開となりました。

日経平均は21、22日と上昇し、前週末の14,500円台から14,700円台に乗せました。しかし、その後は反落し、23日は急速な円高によってドル円レートが98円台前半から97円台前半に上昇したことから、日経平均も23日は前日比287.20円安と急落し、14,400円台に戻ってしまいました。24日は前日比60.36円高と反発しましたが、反発力は弱く、25日は再び下落し、前日比398.22円安の14,088.19円で引けました。

チャートを見ると、三角保合いの3往復目の上昇局面の上限で今回も跳ね返されてしまいました。今回の下落材料は、強いて言えば22日に発表されたアメリカの雇用統計が市場予想を下回ったことで、アメリカの金融緩和継続の見通しが強くなってきたことです。円高に振れたのも、この理由からと思われます。

一方で、これもチャートを見ると、これまでのところ下値は切り上がっています。現時点では、日本企業の2014年3月期2Q決算、決算見通しともに良好な企業が多いため、三角保合いの下限を下に突き抜ける要因は見つかっていません。三角保合いの下限が現在13,800円近辺にあります。当面の底値は、その辺りと考えてよいと思われます。

また、2Q決算や業績見通しの上方修正に対して、多くの企業の株価が敏感に反応しています。これは相場のプラス要因です。

ただし、アメリカの政府機関が閉鎖されていた間に公表できなかった統計が公表され始めています。ただし、10月の統計の収集が不十分だった統計があるため、10月のアメリカ経済の状況が把握しにくくなる可能性があります。これは、相場の不透明要因です。このように、プラス要因、マイナス要因が混在する相場ですので、三角保合いは今しばらく続く可能性があります。

もっとも、これからは決算を分析して個別の有望企業を見つけることが出来る機会が多くなると思われます。個別銘柄に注目したいと思います。

10月28日の週の主要統計の発表スケジュールを見ると、日本では29日に9月の大型小売販売額(速報)、同じく9月の全世帯家計調査が公表されます。30日には9月の鉱工業生産(速報)が公表されます。

アメリカでは、29日に10月の消費者信頼感指数が公表される予定です。29~30日はFOMCが開催されますので、コメントに注意したいと思います。また、政府機関閉鎖で政府統計の発表スケジュールが変更されています。28日に9月の鉱工業生産、29日に9月の小売売上高、30日に9月の消費者物価指数が公表される予定です。30日公表の予定だった7-9月期のGDP(速報)は11月7日に、11月1日の予定だった10月の雇用統計は11月8日に延期される予定です。28日の週は、日本の鉱工業生産と、アメリカのFOMCのコメントに注意したいと思います。

表1 アメリカ政府統計の発表スケジュール

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 ドル円レート:日足

グラフ3 ユーロ円レート:日足

グラフ4 日米金利差

2014年3月期2Q決算動向

10月21日の週から2014年3月期2Q決算が本格化しています。早くも重要決算が出てきました。

日本電産は、2Q決算発表時に2014年3月期通期業績見通しを上方修正しました。当初予想の営業利益750億円から800億円へ、当期純利益535億円から550億円へ修正しました(2013年3月期は各々176億円、80億円)。同社の懸案となっていた現在の収益源であるHDD用精密モーターから、自動車、家電、一般産業用モーターへの収益源のシフトに目処がついてきたということです。2Qには子会社の日本電産トーソクが本田技研工業向けに新型CVT用コントロールバルブを出荷開始、富士重工業向けに電動オイルポンプシステムの採用が決まりました。モーターの直納には至っていないようですが、大きな前進でしょう。会社側が中期見通しで示すように、HDD用精密モーターが来年か再来年に底打ちして上向くかどうか不透明ですが、自動車、家電、一般産業向け(エアコン向けなど)の出荷増加、利益増加は評価してよいと思われます。特に、市場規模の大きな自動車向けの事業が拡大していることは前向きに評価してよいと思われます。

2Q累計(上期)または2014年3月期通期見通しの上方修正も活発でした。

大成建設は、2Q累計見通しを上方修正しました。営業利益は当初見通し110億円から217億円に、当期純利益は40億円から126億円になる見込みです(前2Q累計は各々157億円、30億円)。2Qになって受注した追加工事の工事採算が良かったということです。2Qの土木の粗利益率は前2Qよりも良くなっており、建築は前2Qより悪いですが、会社見通しよりは改善したということです。特に建築はマンションや医療法人向けで消費税増税前の駆け込み受注がありました。通期予想については、2Q決算発表時に公表するとしていますが、受注環境の改善は明らかであり、おそらく通期予想も上方修正になる可能性が高いと思われます。

内需関連では、NIPPOも上方修正しています。道路舗装の大手です。2014年3月期通期見通しを、営業利益で210億円から260億円へ、当期純利益で130億円から170億円へ修正しました(前期は各々223億円、145億円)。当初見通し工事の進捗が予想より早かったというリリース内容ですが、状況は大成建設と同じで、上期に入って受注した工事が前期までよりも採算が良くなっているのです。採算が良くなった理由は(大成建設も同じと思われますが)、補修、洪水対策などの急ぎの工事(通常は採算が良い)が多くなってきたこと、大型再開発など予算に余裕のある工事が多くなり、労務費、資材費の上昇を工事価格に転嫁できていることによると思われます。

横河ブリッジホールディングスも2Q累計見通しを上方修正しました。営業利益は当初見通しの17.5億円から32.7億円になる見込みです(前2Q累計は16.4億円)。これも工事採算の向上が理由です。

素材関連でも上方修正がありました。中部鋼鈑が2Q累計を赤字見通しから黒字見通しに修正しました。厚板専門の電炉ですが、造船、土木向けの需要が回復しています。

電機では、日立製作所が2Q累計見通しを上方修正しました。営業利益は1,450億円→1,730億円へ、当期純利益は150億円→320億円へ(前2Q累計は各々1,636億円、301億円)。電力システム、社会システムをはじめとして全部門の営業利益が会社計画を上回るということです。

また、村田製作所がスマートフォン向け、自動車向けの両方の増加によって2Q累計営業利益を480億円→670億円へ、当期純利益を330億円→470億円へ修正しました(前2Q累計は各々244億円、151億円)。クリスマス商戦はスマートフォントともにタブレットPCが大きな流れになると思われます。また、来年からはウェアラブルデバイス(眼鏡、時計上のスマートフォンなど)も本格化する可能性があります。今後の動きを注視したいと思います。

自動車では、三菱自動車が上期、通期ともに上方修正しました。通期見通しは営業利益は1,000億円で修正はありませんが、当期純利益は500億円から700億円に修正されました(前期は各々308億円、301億円)。理由は円安と資材費低減です。

富士重工業も、2Q累計見通しを上方修正しました。営業利益は1,130億円→1,500億円、当期純利益は680億円→990億円になる見込みです(前2Q累計は、各々433億円、404億円)。理由は、自動車販売の好調と円安、コストダウン効果です。

新興市場でも上方修正がありました。山田コンサルティンググループが2Q累計と通期見通しを上方修正しています。中小企業、中堅企業のコンサルティングや上場コンサルティングを行っている会社です。通期営業利益は13.5億円→14.8億円になる見通しです(前期は13.9億円)。これまで業績が低迷してきたものが元に戻っただけとも言えますが、新興市場には同社のように実質PER(今期の予想当期純利益は繰延税金資産の計上で嵩上げされる見込み)が10倍台前半の割安株がまだ多いため(PERが数十倍から100倍を超えたり、利益が出ていないのに高騰する情報通信関連やバイオ関連ばかりではありません)、上方修正は株価の刺激材料になります。

一方、下方修正もありました。キヤノン(12月決算)です。複写機などオフィス機器は堅調ですが、デジカメ、カメラの減少が続いており、採算が回復しません。2013年12月期営業利益は当初見通しの3,800億円から3,600億円に下方修正されました(前期は3,239億円)。

28日の週は、決算発表の最初の山になります。自動車関連で、三菱自動車、日野自動車、本田技研工業、ダイハツ、富士重工業、マツダ、デンソー、アイシン精機、豊田通商、新明和工業、スズキが決算発表します。電機では、日立製作所、ソニー、パナソニック、村田製作所、ヒロセ電機など。建設機械では、小松製作所、日立建機など。建設、内需関連では、NIPPO、横河ブリッジホールディングスなど。エンタテインメントでは、任天堂、オリエンタルランド、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、通信・インターネットでは、ソフトバンク、アドウェイズなどです。

これまでの決算発表と業績見通しの修正を概観すると、悪くなる見込みよりも予想より良くなる見通しの会社が多い模様です。株価下落の中で決算は株価底打ちの目安となると思われます。決算から目が離せない展開となりそうです。

表2 2014年3月期2Q決算発表予定日(主要なもの)

9月の全国消費者物価指数と10月中旬の東京都区部消費者物価指数(速報)

10月25日に9月の全国消費者物価指数と10月中旬の東京都区部消費者物価指数(速報)が公表されました。「生鮮食品を除く総合」では、9月の全国が前年同月比0.7%増、10月中旬の東京都区部(速報)が同0.3%増となりました。物価上昇率2%という政府・日銀の目標からすると、伸び率は伸びていませんが、消費者物価指数の急速な上昇は実質所得の減少や長期金利の上昇など弊害もあります。今のトレンドは物価水準が前年を上回っているため、良い傾向と言ってよいと思われます。

グラフ5 消費者物価指数:前年比

表3 東京都区部の消費者物価指数細目(2010年=100):前年同月比%

表4 楽天証券投資WEEKLY

グラフ6 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ7 東証各指数(10月24日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化