楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

アメリカのチキンレースはとりあえず終了。しかし、リスクは残る

2013年10月15日の週の株式市場は、前週の地合いを引き継ぎ上値を指向しましたが、後半になって伸び悩む展開となりました。

アメリカの上下両院は、16日夜(日本時間17日午前)、2014年2月7日まで連邦政府の国債発行を認める暫定措置などを可決しました。これで、アメリカ政府の債務不履行(デフォルト)はとりあえず回避されました。また、今月1日から続いた一部政府機関の閉鎖は解除され、政府機能は正常化することになります。チキンレースは期限の17日を前に土壇場で終わりました。

アメリカ議会のデフォルト回避に向けた動きを受けて、9日を底にして上昇してきたニューヨークダウは、16日に前日比205.82ドル高と上昇しました。しかし17日は前日比2.18ドル安と一時急落した後戻したものの、前日比ではほぼ横ばいでした。一部の政府統計は10月分が収集できなくなってしまい、アメリカ経済の把握に支障が出る可能性があります。来年1月から今回のようなチキンレースが再来する可能性もあり、アメリカのデフォルト懸念は株式市場のリスクとして考えておかなければならないようです。

日経平均は、グラフ1で見るように、アメリカのデフォルト回避に向けた動きとともに三角保合いの上限に接近しましたが、17日に前日比119.37円高となった後、18日は前日比24.97円安と反落しました(18日は前日比24.97円安の14561.54円で引けました)。チャートを見る限り、日経平均には一服感がでています。

もっとも、21日の週から本格化する2014年3月期2Q決算を確認すれば、新たな展開が始まる可能性があります。決算発表による安心感が出れば、三角保合いの上限を上放たれて、15,000~16,000円のレンジに移る可能性があると思われます。今後4週間、決算から目が離せません。

なお、10月21日の週は、25日に日本で9月の全国消費者物価指数が公表されます。アメリカでは、21日に9月の中古住宅販売件数、24日に9月の新築住宅販売件数、25日に9月の耐久財受注と10月のミシガン大学消費者信頼感指数が公表されるはずです(ただし、予定が変更される可能性もあります)。発表される統計に注意したいと思います。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 ドル円レート:日足

グラフ3 日米金利差

2014年3月期2Q決算の見所

10月21日の週から2014年3月期2Q決算が本格化します。今回は、重要セクター、重要銘柄の決算日程とその見所を探っていきたいと思います。

自動車

今回の決算で最も重要なのは自動車セクターであろうと思われます。円安メリットも注目点ですが、日本、アメリカで新車販売が好調であること、アメリカでピックアップトラックや高級車が売れていること、日本でも地価上昇の資産効果と消費税の駆け込み需要が発生する可能性があること、商用車ではダンプトラックが好調で、小型トラックも堅調であることがポジティブなポイントです。一方で、アジアでのスローダウンが気になります。

会社ごとに重点地域と車種構成が異なりますので、業績の伸びにも違いが出てくると思われます。特に、日経に好業績の観測記事が出た富士重工業、円安メリットが大きく、かつ新車投入が相次いだマツダ、これも円安メリットが大きく生産台数が上方修正されているトヨタ自動車、1Qは振るわなかったものの、2Qに新型フィットを発売して好調な本田技研工業に注目したいと思います。また商業車の日野自動車、いすゞ自動車、ダンプトラックの新明和工業、極東開発工業、ミキサー車のカヤバ工業にも注目したいと思います。自動車部品では自動車のエレクトロニクス化への対応が進んでいるデンソーの業績を確認したいと思います。

また、トヨタ自動車の海外物流の多くを請負い、アフリカでの自動車販売に強い豊田通商の業績を確認したいと思います。

不動産

不動産セクターも重要です。昨年秋から三菱地所が丸の内、大手町中心にAクラスのオフィスビルの賃料値上げを開始しました。新築ビルの募集賃料で約10%値上げし、既存ビルの既存テナント向けに平均約5%の値上げ交渉を開始しましたが、更新時期が来たテナントから順調に浸透しています。これに三井不動産、住友不動産が追随しており、一応の成果が出始めています。大手3社以外ではまだ目立った動きは出ていないようですが、いずれ大手3社に追随すると思われます。

マンションも消費税前の駆け込みという理由以外に、オリンピック、再開発ブーム、リニア中央新幹線と、地価の上昇要因が出そろっていることから不動産価格の先高観が強く、これがマンション好調の主因といってよいと思われます。

一方で、土地保有者が土地を売り惜しみ始めており、それに呼応して、マンション業者も在庫の売り惜しみを始めています。これも地価上昇要因です。ただし、主要な販売業者を見ると、マンション販売計画の上方修正はない模様です。

仲介、ホテルなどの事業も好調です。この分野が業績の上方修正要因です。

注目企業は、三菱地所、三井不動産、住友不動産、東急不動産、平和不動産、NTT都市開発など。特に、三井不動産がオフィスビル、マンション、商業施設、不動産仲介、物流、ホテルなど多種多様な事業を手掛けています。再開発計画も、三越前、日本橋だけでなく、日比谷、八重洲、新宿など幅広く展開しようとしています。この動きに注目したいと思います。

建設

建設も重要なセクターです。全国で採算の良い工事が増えており、昨年までとは様変わりです。まず、大都市圏、特に東京の再開発ブーム、全国で起きている異常気象による災害対策、道路、橋、トンネルなどの補修などの分野です。それに、オリンピックとリニア新幹線が来年から加わります。工事量は当面減ることはないと思われます。

一方、今年春の緊急経済対策で建設現場の労務費が上昇しており、今期決算にはその影響がでると思われます。ただし、大手建設会社中心に、コストの転嫁と選別受注を始めており、今後はその成果も出ると思われます。

注目企業は、大成建設、大林組、鹿島建設、清水建設、熊谷組、ショーボンドホールディングス、ライト工業、NIPPO、横河ブリッジホールディングス、日本橋梁などです。

建設資材

建設資材の中では、セメントに注目したいと思います。被災地だけでなく、全国で工事が増えているため、セメント需要も増えています。太平洋セメントは上期業績見通しを上方修正しました。注目銘柄は、太平洋セメント、住友大阪セメント。

また、鉄鋼も、建設分野での需要増加、自動車向けの増加などポジティブな材料があります。ただし、中国で在庫が積みあがっている問題がありますので決算を注視したいと思います。注目銘柄は、新日鉄住金、JFEホールディングス、神戸製鋼所など。

建設機械

国内で工事現場が増えているため、建機の国内需要は増加しています。ただし、中国やアセアン、オセアニアに比べると市場規模が小さく、小松製作所や日立建機のような大手の業績は、依然として中国の建機需給動向に左右される可能性があります。その意味では、加藤製作所やタダノのような国内比率が比較的高い中堅建機メーカーの業績に注目したいと思います。また、日本で重要な建機レンタル会社、カナモト(10月決算)、西尾レントオール(9月決算)などにも注目したいと思います。

電機

電機の決算は複雑なものとなりそうです。良い決算と、問題のある決算が混在することが予想されます。良い決算を選別したいと思います。

民生用電機3社(ソニー、パナソニック、シャープ)の決算に差がつく可能性があります。ソニーは、決算で損益を確認する必要はありますが、スマートフォン事業がうまく進んでいるようです。1Qでテレビの黒字転換も実現し、映画、音楽、金融という収益源もあるため、2Q決算も良い方向に向かうことが期待されます。3Qに欧米で発売される「プレイステーション4」の前人気も高いと言われています。

一方、パナソニックはデジタル家電の不振が続いている模様です。白物家電も抱えているため、事業部門の数、従業員数がソニーやシャープに比べて多く、リストラ完了まで来期一杯かかりそうです。プラズマTVからの撤退を決めたことは評価できますが、会社が立ち直るのに今少し待たなければならないかもしれません。シャープも、増資成功は朗報ですが、業績をチェックしたいと思います。

電子部品ではスマートフォン関連の動きに注目したいと思います。村田製作所、ヒロセ電機のようなスマートフォン向け大手の優位は続くと思われますが、年末商戦でスマートフォンがどの程度売れるのかが問題になってきます。

また、日本電産は自動車向け、家電向けがどの程度伸びているかに注目したいと思います。HDD向けスピンドルモーターが収益の中心でしたが、前期の事業構造改革によって、自動車向け、家電向けを中心とする新しい収益構造を指向することを明確にしました。その成果を見定めたいと思います。

重工・プラント

重工、プラントセクターの事業環境は良くなっています。造船は、LNGタンカーの引き合い、受注が増加しています。プラントはアメリカのシェールガスに絡んだプラント、天然ガスを使った化学プラントやシェールガスの液化プラントの需要が多くなると思われます。火力発電所の建設も世界的に活発になっており、石炭火力、LNG火力に関連したメーカーの受注が増える傾向にあります。プラントメーカーで日揮、千代田化工建設、東洋エンジニアリング、火力発電所やLNG関連設備、LNGタンカーでIHI、川崎重工業に注目したいと思います。

一方、三菱重工業は、アメリカの電力会社、南カリフォルニア・エジソン(SCE)のサンオノフレ原発2基に納めた蒸気発生器が放射能漏れ事故を起こしたため、同原発2基が廃炉となってしまいました。SCEはこのたび三菱重工業に対して40億ドル(約4,000億円)の損害賠償を求める訴訟を国際仲介機関である国際商業会議所(ICC)に起こしました。三菱重工は、同社の責任の範囲を1億3,700万ドルと反論しています。ICCが4,000億円をそのまま認めるとは思えませんが、判決によっては、三菱重工業の今後の事業展開、特に原子力事業の展開に重大な制限がかかることも予想されます。訴訟の行方に注意する必要があります。

また、このような訴訟がアメリカで認められ、原子炉メーカーの責任が大きくなってしまうと、先進国での原発の事業リスクが大きくなりすぎてしまいます。この訴訟の結果がでるのはまだ先ですが、結果によっては、日立製作所、東芝の原発事業の先行きにも注意が必要でしょう。

エンタテインメント

オリエンタルランド、サンリオの業績好調を伝える日経記事や東宝、松竹(いずれも2月決算)の業績上方修正を見ると、ゲームよりもテーマパーク、映画が活況です。エンタテインメントの世界が多様化している可能性があり、各社の業績に注意したいと思います。また、ゲームの中でも、グリー、ディー・エヌ・エーのようなソーシャルゲームよりも、カプコン、スクウェア・エニックス・ホールディングのような老舗の伝統的ゲーム会社の業績が堅調である可能性もあります。任天堂は、3DSは順調のようですが、Wii Uの売れ行き(良くなさそうです)と業績を確認したいと思います。

通信・インターネット

通信・インターネットではソフトバンクの業績に注目したいと思います。2014年3月期通期でNTTドコモの営業利益を抜くと思われます。買収したスプリントの立て直しが今後の注目点です。また、ヤフーは電子商取引の出店費用と月々のロイヤルティを無料にしました。今後のオペレーションがうまくいくかどうかがポイントになると思われますが、今回の無料化はネット通販のみならず、小売、卸売を含む商業セクター全体に大きな影響を及ぼすことになるかもしれません。無料化発表後の展開がどうなっているのか注目したいと思います。

海運、総合商社

このほか、海運、総合商社に注目したいと思います。海運は、バルチック海運指数が上昇しています。直接には中国での鉄鋼生産が増加していることに伴い鉄鉱石、石炭の荷動きがよくなっているためです。この動きが持続的なものかどうか注視する必要はありますが、昨年に比べれば円安でもあり、日本郵船、商船三井、川崎汽船の業績に注目したいと思います。

総合商社は、相変わらずPERが安いため、業績の変化によっては注目される可能性があります。LNG取引で三菱商事、穀物商社としての丸紅、非資源化が進んでいる伊藤忠商事などに注目したいと思います。

表1 2014年3月期2Q決算発表予定日(主要なもの)

表2 楽天証券投資WEEKLY

グラフ4 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ5 東証各指数(10月17日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

グラフ6 輸出・グローバル関連:10月17日までの株価を2012年11月14日を起点(=100)として指数化

グラフ7 内需関連:(10月17日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)

グラフ8 金融関連:(10月17日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)

グラフ9 素材、情報通信:(10月17日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)

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