楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
マーケットコメント
アメリカの一部政府機関が閉鎖に、NYダウの下落続く
2013年9月30日の週の株式市場は、軟調な展開となりました。
かねてより指摘されてきたアメリカの債務上限問題が、当面解決の目処が立たなくなり、10月1日から一部のアメリカ政府施設(一部の政府施設、自由の女神、国立公園など)が閉鎖されることになりました。統計も一部で発表延期になり、10月4日に予定されていた9月の雇用統計も発表延期となる見通しです。
これを受けて、9月後半から下げ足を早めていたニューヨークダウは、10月3日に前日比136.66ドル安の14,996.48ドルとなり、節目の15,000ドルを割り込みました。
政府機関の閉鎖も、統計の発表延期も深刻な問題です。当面は、民間調査機関の発表だけでアメリカ経済の足元がどうなっているかを探らなければなりません。例えば、9月のアメリカ新車販売台数は、前年比4.2%減の113万9,050台となりました。営業日数が少なかった影響を除くと前年比4.1%増ですが、8月が前年比17.0%増の150万3,151台ですから、アメリカの新車販売が鈍化している印象は免れません。9月の鈍化の理由は、好調だった8月の反動がでたこと以外に、政府債務上限問題が消費者の購入意欲に影響した可能性があります。ただしこれは、民間調査以外に各種の政府統計を見なければ、実際はどうなのか確認できません。
政府機関の閉鎖にまで問題がこじれたのは、オバマケア(中低所得者向けを中心とした医療保険制度改革)の予算案に対して共和党が反対しており、民主党、共和党の双方が妥協しないため、新たな債務上限を設定する法案が通らないことにあります。現時点でも妥協は見えておらず、政府機関閉鎖が長引く可能性もあります。
日経平均は三角保合いの中で下値模索が続く
アメリカの動きを懸念して、日経平均も下げ基調に転じています。日経平均は14,700円台だった9月27日金曜日から10月3日木曜日までに約600円下落し14,100円台になりました。特に、9月30日、10月2日は各々前日比300円以上下げる弱い展開となりました。10月4日は一時14,000円台を割り、結局前日比132.94円安の1,4024.31円で引けました。
為替も円高となり、3、4日と一時1ドル=97円を割り込みました。
日経平均のチャートを見ると、9月24日の週は三角保合いの上限に張り付いていましたが、9月30日の週から下向きに転じています。アメリカの債務上限問題が長引けば、三角保合いの下限である13,500円近辺まで日経平均が下落することも想定する必要があります。当面の下値目処は、三角保合いの下限がある13,500円前後、あるいはその下の200日移動平均線がある13,000円近辺と思われます。
グラフ1 日経平均株価:日足
グラフ2 ドル円レート:日足
日銀短観に見る各セクターの景況感
ただし、アメリカの債務上限問題が解決すれば、あるいは解決への道筋が見え始めるならば、日経平均は再び日本の良好なファンダメンタルズを織り込む展開となることが予想されます。その場合は、再び三角保合いの上限へ向けて戻す動きから、さらに上限を抜けて上放たれる機会を窺う動きが予想されます。
その意味で10月1日に公表された日銀短観(2013年9月調査)は重要です。業況判断DIの「最近」(「最近」の業況が「良い」という回答比率から「悪い」という回答比率を引いたもの)は、製造業大企業が6月調査の4から9月調査の12に大幅に改善しています。非製造業も同じく12から14に高水準で改善しています。グラフ3を見ると、景気が明らかに回復局面にあることがわかります。
また、業種別業況判断の表1から、業況判断の変化幅が大きい業種をピックアップすると、「窯業・土石製品」「石油・石炭製品」「非鉄金属」「生産用機械」「電気機械」「造船・重機等」「自動車」「建設」「物品賃貸」などが挙がってきます。「不動産」「通信」「情報サービス」も変化は小さいものの業況判断の水準が高いので、これらも注目しておきたい業種です。
グラフ3 業況判断の推移
この中で上場企業との関わりを見ていくと、次のようになります。
窯業・土石製品
復興需要だけでなく、全国で工事量とセメント需要が増えており、セメント会社の業績が改善中。太平洋セメント、住友大阪セメントなど。
非鉄金属
自動車、建材向け需要が伸びている。住友電工、三菱マテリアルなど。
生産用機械
設備投資が復調。
電気機械
産業用電機が好調(インフラ向け、プラント向け)。電子部品も通信向け(スマートフォン向け)が波がありながらも順調で、民生用電機はリストラ効果が出ている。日立製作所、三菱電機、横河電機、村田製作所、日本電産、京セラ、ヒロセ電機、ソニー、パナソニックなど。
造船・重機等
LNGタンカーの受注が増加している。建設機械も中国向けが底入れしつつあり、日本向けが増加。川崎重工業、IHI、三井造船、小松製作所など。
自動車
アメリカで販売好調。日本では堅調で、業界予想よりも販売台数が上乗せされている。日本、アジアでは商用車需要も増加している。円安メリットが最も大きいセクターである。トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、日野自動車、いすゞ自動車、デンソーなど。
建設
復興需要に加えて、建築は、再開発、マンションなどの需要が増加。土木は地方の治山治水(洪水対策など)が増加。そのほか、道路、橋梁の補修が増加している。型枠工、鉄筋工など労務費が増加しており、現場監督が不足しているが、各社とも工事単価への転嫁と選別受注を始める模様。2014年からはオリンピックスタジアムの解体、リニア新幹線の品川駅、名古屋駅が着工される見通しであり、趨勢的に全国で工事量が増えると思われる。大成建設、大林組、鹿島建設、熊谷組、ショーボンド建設、ライト工業、NIPPO、横河ブリッジホールディングス、日本橋梁など。
また、建機のレンタル会社がレンタル建機を増強中。カナモト、西尾レントオールなど。
不動産
短観の業況判断では変化幅が-1になっているが、実態は上向きと思われる。オフィス賃料は東京のAクラスビルから緩やかに上昇中。大型再開発で開業した大型オフィスビルもテナントからの人気が強い。老朽化ビルを数棟束ねた大型再開発が東京圏で活発に計画されている。
新築マンション販売を見ると、首都圏、地方ともに活況だが、特に東京でもともと強かった地価の先高感が、東京オリンピックとリニア新幹線決定後一層強くなっており、用地取得が難航している。土地所有者が売り惜しみしているため、不動産会社もマンションを計画以上に売るつもりはない模様。この結果、地価がさらに上昇する動きとなりそうである。
また、マンション、戸建ての売買仲介も活況で、売り手市場になりつつあり、大手不動産にとって業績見通しの上方修正要因になっている。大手不動産会社が多角化で手掛けている物流施設、ホテルも好調。三菱地所、三井不動産、住友不動産、東急不動産など。
通信
新型iPhoneと、ソニーの新型「エクスペリア」の販売動向に注目したい。ソフトバンク、KDDI、NTTドコモの3社とも、スマートフォンの料金体系を現状維持しており、特にソフトバンクは高水準の利益持続が予想される。
このように日銀短観をみると、セクターによってばらつきはあるものの、日本企業のファンダメンタルズは上向き傾向を維持していると思われます。10月3、4日の日銀金融政策決定会合では、金融緩和の現状維持が決まりました。アメリカで起きている株式から債券への資金シフトによる金利低下に合わせて、日本でも長短金利が低下しています(グラフ10)。アメリカ要因を除くと、投資環境は良好な状態が続いていると思われます。アメリカを注視しつつ、押し目買いの機会を見出したいと思います。
表2 楽天証券投資WEEKLY
グラフ4 信用取引評価損益率と日経平均株価
グラフ5 東証各指数(10月3日まで)を2012年11月14日を起点(=100)として指数化
グラフ6 輸出・グローバル関連:10月3日までの株価を2012年11月14日を起点(=100)として指数
グラフ7 内需関連(10月3日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)
グラフ8 素材、情報通信(10月3日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)
グラフ9 金融関連(10月3日までの株価を2012年11月14日を起点として指数化)
グラフ10 日米金利差
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