楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

オリンピック東京開催決定で、日経平均急騰

2013年9月9日の週の株式市場は、オリンピックで沸いた週でした。9月7日の国際オリンピック委員会総会で、2020年夏季オリンピック・パラリンピックの開催地は東京と決定されました。マドリード、イスタンブールに大差をつけた勝利でした。日経平均は汚染水問題が開催地選定にネガティブに働くのではないという懸念から、6日には前日比204.01円安となり終値で14,000円台を割りましたが、東京決定を受けて、9日には前週末比344.42円高となり再び14,000円台を回復、続く10日も218.13円高となりました。11日からはさすがに短期間で急騰したためダレており、13日金曜日は前日比100円以上下げた局面がありましたが、結局切り返し、前日比17.40円高の14,404.67円で引けました。

2020年東京オリンピック・パラリンピック(以下2020年東京五輪)の日本経済と株式市場に与える影響、注目セクター、注目銘柄については、9月10日付けで特別レポート「2020 年東京オリンピック・パラリンピックの関連セクター、関連企業と投資妙味」(※ このレポートをお読みいただくには、ログインが必要です)を出しておりますので、それをご覧ください。今回始まった長期相場は(当然のことながら波はありますが)、言うなればアベノミクス×オリンピックのハイブリッド相場とも言うべきものです。これを概観すると、オリンピックのための様々な施設、道路、鉄道の建設と今後の日本経済に対する人々の「期待」が、今東京の山手線沿線で進行中の大型再開発と、オリンピック開催に向けて始まるであろう様々な経済の動き、道路、橋梁の補修、ホテルや商業施設の建設などと複合して、大型再開発によって上昇しつつある東京の地価を中長期の上昇トレンドに導くであろうと予想されます。

要するに、大型再開発が集中している地域とオリンピックの施設が建設される地域が半分程度重なるため、大型再開発ブームとオリンピックがシンクロ(共振)するであろうと予想されるのです。この地価上昇は株式市場にも波及すると思われますが、地価、株価の持続的上昇による資産効果が自動車、家電などの耐久消費財消費や、高額消費、レジャー消費を刺激し、それらが複合して2020年東京五輪を目指した経済成長に結びつくであろうと思われるのです。

2020年東京五輪に向けて様々な施設と道路、鉄道が建設される

上述の特別レポートに少し補足します。2020年東京五輪のために建設される施設は表1のようになっています。最も予算が大きいのが「オリンピックスタジアム」の1,300億円であり、これは現在の国立競技場を立て替えます。現時点での計画では、工事期間は2014年7月から2019年3月末までです。これ以外には選手村954億円、夢の島ユース・プラザ・アリーナA、B 364億円、オリンピックアクアティクスセンター321億円と続きます。

今の国立競技場は大成建設が受注して建設したものです。オリンピックスタジアムの受注企業は未定ですが、建設したことがある大成建設は受注に有利だと思われます。他の施設は大成建設、大林組、鹿島建設、清水建設などの大手建設会社が受注に有利と思われますが、選手村は大和ハウス工業のような国際会議、国際大会の宿舎建設の経験が長い会社にもチャンスがあると思われます。ただし、選手村の建設は2019年ごろと思われるため、まだ先の話でしょう。

グラフ1は、オリンピック組織委員会の予算で示されている運営費の支出予測です。オリンピックスタジアムなどの施設は国の予算で建設するため、これとは別です。運営費は2014年から各種の支出(広告費など)が始まり、2020年がピークになる見通しです。施設の建設もオリンピックスタジアムのような「大物」が2014年から始まる見通しです。

また、招致委員会の資料によれば、道路建設もすでに始まっています(表2)。建設分野ではオリンピックはまだ先の話ではなく、始まった話なのです。また、建設が集中すると、作業員、職人と建設機械が十分確保できなくなるため、工事をある程度前倒しして分散させる可能性があります。

表1 2020東京オリンピック・パラリンピックの設備投資

 

「補修」が重要になる

これとは別に、道路、鉄道、橋梁の補修やホテルの建設、増設が必要になると思われます。特に補修は重要です。日本のインフラは老朽化が進んでいますが、大勢の観光客が日本を訪れるであろう2020年に、福島第一の汚染水はもとより、道路の陥没、トンネル、橋の崩落など、決してあってはならないことです。補修は細かい仕事が多くなりますが、対象範囲は日本全国になるため、建設需要の底上げに繋がると思われます。個々の工事は短期間で済んだとしても、対象が極めて多いため、早期に着手する必要があります。

道路の補修、整備は、NIPPO、前田道路、大林道路、日本道路のような道路舗装の専門会社、橋梁は、日本橋梁、横河ブリッジホールディングス、川田工業のような橋梁メーカー、トンネルの補修は、準大手から中小の建設会社のほか、ショーボンド建設(補修の専門会社)、ライト工業(法面工事の専門業者)のような各分野の専門業者も動員されると思われます。

大手建設会社から準大手、中堅中小、専門業者に恩恵か

オリンピックだけでなく、東北の復興、原発事故の処理、地価上昇によって予想される住宅(マンション、戸建て)建設やオフィスビル、商業施設建設の増加など、様々な分野で建設需要が増えることが予想されます。最も受注に有利なのは、技術力が高く、作業員、職人と建設機械の動員力の大きい大手建設会社になると思われますが、大手だけでは手が足りなくなると思われるため、西松建設、五洋建設などの準大手から中堅中小まで受注機会が広がると思われます。

グラフ1を見ると、日本の建設投資はすでに大底を打っています。オリンピックを契機に新たな成長トレンドに向かう可能性があります。

不動産会社でも、三菱地所、三井不動産、住友不動産の大手3社だけでなく、東急不動産、平和不動産、NTT都市開発、野村不動産ホールディングスなどの準大手、トーセイのような東京地盤の中堅不動産会社に注目したいと思います。また、都市再開発能力という観点から、東日本旅客鉄道、東京急行電鉄に注目したいと思います。

短期、中期では上昇局面入りか

日経平均日足を見ると、三角保合いを上方にブレイクしています。そのため、短期的には波を伴いながら上値を指向する可能性があります。また、9月17~18日にはアメリカでFOMCが開催されます。金融緩和縮小がどうなるかがわかりますが、同時に住宅関連指標も公表されます(9月18日、8月の住宅着工件数、建設許可件数が公表される)。金融緩和縮小が決まれば、現在拡大しつつある日米金利差が更に拡大する可能性があり、これが円安に結びつく可能性があります。

また長期では、特別レポートでも指摘しましたが、下降しつつある長期抵抗線を今後突破できるかどうかが焦点となります。今回のアベノミクス×オリンピックのハイブリッド相場は、建設、不動産から、自動車、電機まで物色できる範囲が広範囲にわたり、売買代金も増えているため、この抵抗線を突破し、今後大勢上昇波動を形成する可能性は十分あると思われます。期待を持って望みたい相場展開であると思われます。

リスクは、汚染水と長期金利です。汚染水は早期の解決が必要です。長期金利の上昇リスクについては、消費税増税に対してあまり過度な経済対策を行うと財政再建への意欲を債券市場に疑われることになりかねません。この問題には注意が必要でしょう。

グラフ3 日経平均株価:日足

グラフ4 日経平均株価:月足

表3 楽天証券投資WEEKLY