楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日経平均は三角保合いの突端に来た

2013年9月2日の週の株式市場は急速に戻す展開となりました。

日経平均は、9月5~6日にかけて、昨年11月14日の安値と今年6月13日の安値を結んだ線を下限、5月23日高値と7月18日高値を結んだ線を上限とする三角保合いの先端部に到達しました。8月20日以降、日米で投資家の「リスクオフ」の姿勢が明確になると、日経平均はこの三角保合いの下限を下回って推移していました。しかし、8月30日公表の鉱工業生産指数(原指数)前年比が6月の4.6%減から7月の1.6%増にプラス転換したこと、9月2日公表の法人企業統計調査でも、4-6月期の経常利益が前年比24.0%増となったこと、特に製造業が51.5%増と大きな伸びを示したことなどを受けて、東京市場でリスクオンの動きが出てきました。

その結果、ドル円レートが円安となり、株式市場でも上げ基調となりました。為替レートは、8月30日に1ドル=98円台、9月5日に1ドル=100円台に入りました。現在は1ドル=99円台後半で推移しています。もともと、円安になる背景にはアメリカ長期金利の上昇と日米金利差の拡大があると思われます(グラフ2)。良好な経済指標と円安を背景に日経平均は、9月2日に前日比184.06円高、3日に同405.52円高と大幅高しました。4、5日も堅調に推移し、4日終値で14,000円台を回復しました。

この間、シリア危機、福島第一原発の汚染水問題などの悪材料が出ており、また、9月4、5日の日銀金融政策決定会合と9月7日の国際オリンピック連盟総会(2020年オリンピック、パラリンピックの開催国を決める)、同じく9月5、6日のG20を迎えるという緊迫した雰囲気の中でした。しかし、これらの不透明要因をとりあえず円安が吸収した形となりました。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ3 ドル/円レート:日足

オリンピック、汚染水、FOMC、消費税、波乱は続くか

一方、9月6日になると一転して前日比100円以上下落し、再び14,000円を割りました。チャートを見ると、三角保合いの先端部で再び下向きの動きを見せています。

再び軟調となった理由としてまず考えられるのが、2020年オリンピック、パラリンピック招致の問題です。福島第一原発の汚染水問題に対して海外メディアが厳しく批判しており、これが当初優勢と伝えられていた東京招致に影響するという見方が出ています。ただち、これについては結果を見なければわかりません。

仮にオリンピック招致が不合格だったとしても、今の円安が続けば株式市場へのショックは円安で吸収可能と思われます。実体経済にとっては、オリンピック、パラリンピック招致は東京圏で新たな投資を呼び起こすため、実体経済、特に不動産と建設に好影響が考えられます。ただし、この分野では既に東京で大規模再開発が進んでおり、広い土地が少ないため、土地保有者が土地を売り惜しんでいる傾向が見られます。このため東京の地価は緩やかな上昇トレンドに入っています。金融機関の再開発に対する融資姿勢も積極的です。オリンピックがなくとも一定の地価上昇が期待できると思われるため、不動産、建設セクターの景気は、ある程度強い状態が続くと思われます。

むしろ、9月17、18日の米FOMCで金融緩和縮小を決定するのかどうか、福島第一原発の汚染水問題が経済にどう影響するのか、安倍首相は10月上旬に消費税増税を決断するのか否かなどがより重要な問題と思われます。

汚染水問題の実体経済、株式市場への影響

汚染水問題は単にオリンピック招致の問題や国際的な環境汚染の問題、日本国の信用問題だけでなく、東京電力の今後の法的地位の問題、原発推進政策、原発輸出政策の是非などに波及する可能性があります。

この問題については、既に国が前面に出て汚染拡大を食い止める姿勢を明確にしています。福島第一原発の処置を東京電力に任せてきた姿勢を転換したことは評価してよいと思われますが、国が言っているのは重要な施策についてのみ国が行うというものです。汚染水問題に対する国の予算は当面470億円ですが、この問題の深刻さを考えると、1,000~2,000億円規模の巨額国費が投入されることになる可能性があると思われます。そうなった場合、国の資金援助で上場を維持している東京電力の法的地位の問題に波及する可能性があります。

また、この問題は日本のエネルギー政策を変更するきっかけになる可能性があります。安倍政権は実質的に原発再稼動推進、原発輸出推進ですが、様々な報道を見ると、汚染水問題が短期間で収束する可能性は低く、逆に長期化する可能性があります。その場合、原発再稼動が政府や電力会社各社が考えているように順調に進むのか、不透明感があります。原発輸出も同様です。

そうなると、代替電力の開発が急務となります。代替電力で最も有力なのが、石炭火力、LNG火力です。日本の電力会社は福島第一原発事故が起こった後も原発再稼動に強い意欲を持っており、一部の例外を除いて全国にある老朽火力発電所の更新や火力発電所の新設を行っていません。LNG設備も、これまで計画され建設中のプロジェクトは継続中ですが、安倍政権が原発再稼動推進政策、原発輸出政策を明確化してからは、新たなLNG設備のプロジェクトが出なくなりました。

政府が考え方を変えれば、この動きが逆転する可能性があります。石炭火力も、LNG火力も最新鋭設備を日本企業が供給することができます。CO2吸着、貯留技術も実現間近になってきました。特にLNG関連投資は、天然ガスの権益、液化設備、LNGタンカー、貯蔵設備、気化設備、火力発電所までのサプライチェーン(いわゆるLNGチェーン)に、1本1兆数千億円かかります。金余りですので、資金調達に苦労はしないはずです。国が考え方を変えるだけで、1兆円を超えるプロジェクトが数本始まる可能性があるのです。

注目セクターと銘柄

再びチャートを見ると、実は、昨年11月13日を起点として8月28日安値を結ぶ線を下限とする新しい三角保合いを描くことが出来ます。今の株価はこの新しい三角保合いの上限にありますが、ここから下振れする気配があります。古い三角保合いでは先端部で上か下かいずれかに行く時期が到来しています。これらチャートと為替レート、各種の材料を勘案すると、株価が一旦下落する可能性はあるものの、自動車、電機、機械などの円安メリット株や好業績の内需株については押し目を狙うことが出来る情勢と思われます。

注目セクターと銘柄は、まず自動車です。8月のアメリカの新車販売台数は、全体で前年比17.0%増でした。7月の前年比14.0%増から動きが加速しています。特にライトトラック(ピックアップトラック、SUVなど)が7月15.4%増、8月18.4%増と好調で、アメリカ景気が順調であることを示しています。年率換算値は7月1,580万台から8月1,609万台に増えました。2012年暦年の実数が1449万台ですから水準の高さが理解できます。個別メーカーの伸びを見ると、トヨタ自動車が7月17.3%増から8月22.8%増、本田技研工業が同じく20.9%増、26.7%増、日産自動車が10.9%増、22.3%増、マツダが29.3%増、26.4%増、富士重工業が42.9%増、45.1%増となっています。

この高い水準が持続可能かという議論もあると思いますが、平均的なインセンティブ(販売奨励金)水準も適正か低い状態で、自動車各社の業績を支援しています。新車効果が見込まれ、円安、販売台数の二つの要因から業績見通しの上方修正が期待できるトヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダに注目したいと思います。

次にエネルギー関連、特にLNG関連です。LNGの世界的取引業者である三菱商事、三井物産、海外で火力発電所の建設・運営事業を積極的に手掛けている丸紅にとっては、原発に対する国の方向性が変わるのかどうかは重要なポイントになると思われます。LNGプラントが得意な日揮、千代田化工建設にとっては、日本と海外でのLNGプラント需要が増えることになります。LNGタンカーのメーカーである三菱重工業、川崎重工業、三井造船、IHI(IHI、JFEの合弁会社で持分法適用会社のジャパンマリンユネイテッドが手掛ける)ではLNG需要の増加に伴い、既に商談が活発化しています。

一方で、もし国の方向性に変化が現れたならば、東芝、日立製作所、三菱重工業の原子炉メーカーと原発を保有する電力会社にとっては逆風になると思われます。

9月6日の日経平均は、結局前日比204.01円安の13,860.81円で引けました。当面は上述の各種材料を織り込む展開となると思われます。警戒は怠れないものの、押し目にも注目したいと思います。

今後の注目スケジュール

当面注目したいのは、9月6日のアメリカの雇用統計です。FOMC前の重要統計であり、金利、為替、株式市場が動く可能性があります。

日本では、9日の4-6月期GDP第二次速報と同日の消費動向調査、景気ウォッチャー調査が注目されます。

1:楽天証券投資WEEKLY