楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
マーケットコメント
日経平均は三角保合いの下限を割った
2013年8月26日の週の株式市場も、前週に続き冴えない展開となりました。
日経平均は前週(8月19日の週)に、昨年11月14日の安値と今年6月13日の安値を結んだ線を下限、5月23日高値と7月18日高値を結んだ線を上限とする三角保合いの下限を割りましたが、その後一旦戻る動きを見せました。
しかし今週に入り、アメリカ政府が、内戦が続くシリアでシリア政府軍が化学兵器を使用し多数の市民を殺傷した確証を得たとして、空爆の準備に入ったと報道されました。これを受けて、日米その他の株式市場が動揺、8月27日にニューヨークダウが前日比170.33ドル下落し、28日の東京市場でも日経平均は前日比203.91円安の13,338.46円となりました。
アメリカのオバマ大統領の演説では、短期間の限定的な空爆を行うことが示唆されています。地上軍の投入はせず、長期間の軍事介入を避ける方向ではあります。また、イギリス下院は空爆反対の決議を行いました。このため、イギリス政府は空爆には参加しない模様です。アメリカ政府の決意は堅いようですが、空爆の実現には流動的な要素もあります。
ただし、実際に空爆が開始されると、それが短期間で済むという保証はありません。9月は株式市場にとって、アメリカのFOMC、消費税増税の可否判断、オリンピックの東京招致の合否判定など、様々な重要イベントが待ち受けている月になりますが、これらに加え、シリア問題が加わりました。株式市場を取り巻く状況は複雑さを増しています。
チャートを見ると、上述の中期的な三角保合いの下限を割った前後の8月20日に、25日移動平均線が75日移動平均線を上から下へ抜けるデッドクロスを示現しています。短期では下方トレンド線も描けるようになっており、日経平均は波を描きながらもじりじりと下値を切り下げる展開になっています。
グラフ1 日経平均株価:日足
9月の相場スケジュール
波乱が予想される9月相場ですが、9月に最も注目されるのが9月17、18日に開催されるアメリカのFOMCです。ここで、金融緩和縮小が決定されるのか否かが焦点となります。
ただし、日本にとっては、9月2日の週がより重要かもしれません。9月4、5日に日銀金融政策決定会合があります。いわゆる「黒田バズーカ」第2弾を期待する声があるので内容に注目したいところです。
続く9月5、6日はG20が開催されます。アメリカの金融緩和縮小に対して新興国から不満が寄せられることが予想されます。これが翌週のFOMCの決定に影響するかもしれません。シリア問題が取り上げられる可能性もあるでしょう。
また、9月7日土曜日はIOC(国際オリンピック委員会)が2020年オリンピック、パラリンピックの開催地を決める日です。東京に決まれば、建設、不動産、建設資材、スポーツ用品など幅広い分野への波及効果が期待できます。特に、東京の不動産市況の持続的上昇が期待できるようになり、それが建設、建設資材だけでなく、自動車、家電などの耐久消費財需要に対してもよい影響が期待されます。
ところで、このオリンピック開催地の問題には注意が必要です。オリンピック招致に成功すれば、景気への好影響が期待できるため、消費税増税はやりやすくなると思われますが、逆に招致に失敗すれば、安倍首相の消費税増税に対する最終判断に影響する可能性があります。即ち、延期や1%刻みの段階的増税を選択する可能性が出てくると思われます。しかし、もしそうなれば、1,000兆円を超える政府債務を抱える日本政府にとっては、日本国債売り、金利急騰リスクという、消費税よりも景気に対してネガティブに作用するであろうリスクが顕在化することになりかねません。9月7日は日本経済が良い方向に行くにせよ、悪い方向に行くにせよ、重要なターニングポイントになるかもしれません。
ちなみに、9月6日金曜日はアメリカの8月の雇用統計が公表されます。その前後の各イベントと合わせて考えると、数字によっては、株式市場、為替市場、債券市場のいずれも動く展開になる可能性があります。
そして、9~10月は消費税増税の最終判断の期限になります。株式市場、債券市場の多数意見は予定通り消費税増税を実施したほうがよいというものですが、実際にどうなるか注目されます。
このように重要イベントが多数控えている9月を迎えます。足元の株式市場の不振は、9月を控えてのものと思われますが、今後はイベントを一つずつ吸収することで、再度の相場上昇の機会をつかむ可能性があります。
ファンダメンタルズが健在なセクター、銘柄も多い
一方で、セクターと銘柄を見ると、ファンダメンタルズが良好なセクター、銘柄も多く見受けられます。
円安メリットとアメリカでの自動車販売の好調に加え、新車ラッシュが続いている自動車セクター(トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、デンソーなど)、リストラ効果により業績が改善中の民生用電機(ソニー、パナソニック)、下期のスマートフォン新製品シーズンに向けて受注増加が期待される電子部品(村田製作所、ヒロセ電機)、世界的なLNGプラント建設ブームの恩恵を受けそうなプラント会社やプラント用制御機器の会社(日揮、千代田化学工業、横河電機など)、東京での再開発ブームやマンション、戸建ての販売増加の恩恵を受けている不動産会社(三菱地所、三井不動産、住友不動産、東急不動産、平和不動産、トーセイなど)などが注目できると思われます。
消費者物価指数は持続的に前年比プラス圏か
8月30日に全国消費者物価指数の7月分、東京都区部消費者物価指数の8月中旬(速報)が公表されました。
結果は、全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)の前年同月比が6月0.4%増に対して7月0.7%増、東京都区部(生鮮食品を除く)が6月0.2%増、7月0.3%増、8月(速報)0.4%増と前年比プラスが続いており、前年比が徐々に大きくなっています。円安による燃料の輸入コスト上昇を背景に、電気代、ガソリン代(自動車関係費)などのエネルギー関係費の上昇が目立ち、これが各分野のコストを引き上げ値上げに導くという「コストプッシュ型」の物価上昇に入った可能性があります。
また、生鮮食品を除く食品がプラス転換しており、外食もプラス幅が拡大しているため、生鮮食品のような悪天候による価格上昇ではなく、燃料価格等のコストアップ等の要因で食品価格が上昇し始めている可能性があります。
今後も消費者物価指数の前年比が持続的に上昇するとすれば、よい影響ばかりではなく、問題も発生すると思われます。消費者物価指数の上昇は、消費者向け製品を製造販売する企業にとっては、高い価格でものが売れる業績改善要因ですが、それを仕入れる企業にとっては業績悪化要因であり、給料が上がらない場合は、消費者の購買力が下がる要因にもなります。
また、消費者物価指数の上昇が続き、足元のように緩やかに金利が低下している状況が逆転して、金利が上昇することになれば、いずれ国債利払い費の増加を通じて政府予算が圧迫される可能性がでてきます。企業と個人にも影響が出てきます。今後の推移に注意したいと思います。
表1:東京都区部の消費者物価指数細目(2010年=100):前年同月比%
グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価
グラフ5 ユーロ/円レート:日足
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