楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日経平均は三角保合いの下限を割った後戻す展開に

2013年8月19日の週の株式市場は、お盆休み明けの動きが注目される中で、週初から週半ばにかけて冴えない展開となりました。

週初は高く始まったものの、アメリカの金融緩和縮小が9月にはじまるという観測が繰り返されたため、アジア各国の株式市場とニューヨークダウが下げる展開となり、これが東京市場にも波及しました。日経平均は19日月曜日は13,700円台でしたが、20日火曜日から下げ13,300円台に入りました。チャートを見ると、三角保合いの下限に沿って動いていた日経平均が、20日には下に放たれました。ただし、23日金曜日は8月のHSBC中国製造業購買担当者景気指数(PMI)速報値において、生産指数が50.6と前回の48.0から改善したこと、22日のNY市場で円安が進み、1ドル=98円台、1ユーロ=131円台に戻り、23日も円安基調が続いていることを受けて、日経平均は大幅に反発しました。23日前場終値は前日比316.23円高の13,681.40円になりました。14時現在では前日比390円以上上げており、三角保合いの下限に下から接近しています。

グラフ1 日経平均株価:日足

9月は重要イベントがある

一方で9月には相場の波乱要因がいくつも控えています。まず、アメリカです。FRBが金融緩和の縮小を決断するかどうかですが、経済状況を見ると、これから悪い経済指標が出ない限り、程度の問題はありますが、金融緩和縮小に入ると考えることは不自然ではありません。

次に、9月から10月にかけてが、日本では来年4月の消費税増税を実施するか否を決断するデッドエンドになります。消費税増税のためには、制度の詳細を決め、システム対応をしなければなりません。

日本の政府債務は既に1,000兆円を超えており、金利急騰要因となることで経済成長の阻害要因となっていると思われます。従って、金利急騰→景気後退を防ぐために財政再建の道筋をつける必要があると思われるのですが、アベノミクスを唱導する論者の間でこのことはコンセンサスになっていないようです。アベノミクスの論者達が経済成長によって1,000兆円の政府債務を克服できると考えているならば、それは政府債務の大きさが理解できていないためと思われます。増税の問題は債券市場と株式市場にとって大変神経質な問題です。

また、TPPも本格的な交渉に入ってきました。基本的にTPPは、経済的な問題だけを取り上げると、日本にとっては得るものよりも失うものの方が大きいと思われます。しかし、もし日本がTPPに加盟しなければ、日本の頭越しにアメリカと環太平洋の各国で新しい経済秩序が決められてしまうことになります。これは経済だけでなく、安全保障の問題にも絡んできます。TPP反対を主張する勢力は与野党内に多いため、安倍政権にとっては難しい交渉となると思われます。

このように、国際金融、国際経済、国際政治の各分野で9月から秋にかけて重要イベントが相次ぐことになります。盆明けの19日の週の下げは、波乱が予想される9月相場に対処するための、予防的な売りがあったと解釈することもできると思われます。

表1-1:日本の国債・借入金残高の種類別内訳

表1-2:国債発行額と借換債発行額(当初ベース)

日米金利差が拡大中

一方で、株式市場にとって、今後プラス要因になるかもしれない現象が現れています。日米金利差の拡大です。

グラフ2を見ると、10年国債利回りの日米差は、5月中旬以降のアメリカ金利の上昇と日本の長期金利の緩やかな低下に伴い急拡大しており、現時点で2011年7月のレベルまで戻っています。アメリカ金利の上昇はアメリカ景気の好調を反映したものであり、通常ではこれは円安ドル高要因となるはずです。しかし今は、アメリカの金融緩和縮小に備えてリスクオフ(ドルと日米株、新興国株を売って円を買う)の動きが活発になっているため、逆に円高要因となる、あるいは円安にならない現象が起こっています。ただし、アメリカで実際に金融緩和縮小が開始されれば、悪材料出尽くし感から、この日米金利差が注目される可能性があります。要するに、円安転換と円安メリット株(自動車、電機、機械など)が物色される可能性です。これが23日金曜日の相場に現れ始めたのかもしれません。

グラフ3 ドル/円レート:日足

グラフ4 ユーロ/円レート:日足

リスクオフからリスクオンへの流れになるか

23日の日経平均の反発が続かない場合は、チャートが三角保合いを一旦下放たれたこと、9月の波乱に備える動きが今後出てくる可能性があることから、日経平均株価は引き続き調整する可能性があります。この場合、当面の下値の目処は、チャート上の節目がある12,400~13,400円、その下が、200日移動平均線近辺の12,000~12,200円どころとなると思われます。

ただし円安傾向が続く場合は、ここから相場のリバウンドが期待できると思われます(本格回復には少し時間がかかると思われますが)。足元の日米金利差と、9月のアメリカの金融緩和縮小を株式市場がある程度織り込んだときに予想されるリスクオフからリスクオン(ドルと日米株、新興国株を買って円を売る)への変化を考えると、今後円安傾向がある程度続く可能性があります。拡大中の日米金利差が為替相場を円安にするか、円高を食い止めるならば、円安メリットに期待できる輸出・グローバル関連の自動車、電機、機械などの各セクターの企業、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業、マツダ、デンソー、ソニー、パナソニック、小松製作所、任天堂などに、投資妙味が出てくると思われます(為替感応度と業績を比較した表2を参照)。

また、相場全体の勢いがある程度回復するならば、新しい材料へ期待する動きが出てくる可能性があります。例えばオリンピックです。9月7日に2020年夏季オリンピックとパラリンピックの開催国が決まりますが、新興国の政治的騒乱を考えると、2020年東京オリンピックの可能性は低くないと思われます。その場合、施設建設やホテル建設などが期待できます。

これと東京の山手線周辺で実施されている、あるいは計画されている再開発計画、即ち

  • 三菱地所の大手町連鎖型再開発
  • 三井不動産、住友不動産の日本橋再開発
  • 平和不動産・三菱地所の茅場町再開発
  • 東京急行電鉄、東急不動産、東日本旅客鉄道などの渋谷駅前再開発
  • 東日本旅客鉄道の品川駅・田町車両センター再開発
  • 住友不動産の国際自動車教習場跡地(大崎)再開発

などや、消費税増税前のマンションブームが重なれば、中期的な地価上昇と不動産、建設市場の中期的な活況を引き起こす可能性があります。再開発能力の高い三菱地所、三井不動産、住友不動産の不動産大手3社だけでなく、東急不動産、平和不動産のような中堅不動産会社、東日本旅客鉄道、東急電鉄などの大手鉄道会社に好影響が期待できます。建設会社としては、大成建設、大林組、鹿島建設、清水建設などの大手が注目できます。

23日の反発を見ると、株式市場に下値抵抗力がついてきたようにも考えられます。特に輸出・グローバル関連の自動車、電機などのセクターではPER水準が低い銘柄が多くなっています。今後の推移に注目したいと思います。

表2:自動車、電機等の主要企業の為替感応度

表3:楽天証券投資WEEKLY

グラフ5 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ6 日経平均株価:月足

マーケットスケジュール

2013年8月26日の週の日本での注目点は、29日公表の7月の大型小売店販売額(速報)、30日公表の7月の鉱工業生産(速報)、7月の全国消費者物価指数、7月の全世帯家計調査です。

アメリカは、26日の7月の耐久財受注、8月の消費者信頼感指数、29日の2Q(4-6月期)のGDP改定値、30日のミシガン大学消費者信頼感指数です。

日本の30日の鉱工業生産・速報と全国消費者物価指数が注目されます。数字によっては、金利と為替が動く可能性があります。