楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日経平均は三角保合の下限に沿った動きに

2013年8月12日の週の株式市場は、お盆休みの薄商いの中、三角保合の中で下落する展開となりました。

日経平均株価は週初は下げて始まったものの、安倍首相が法人税減税の検討を指示したという報道を受けて8月13日は前日比347.57円高の大幅高となりました。また、円安に振れたこともあって翌14日は183.16円高の14,050.16円となり、14,000円台に乗せました。

ところが15日に、複数の閣僚から首相から法人税減税の指示はない、あるいは、法人税減税の実効性に疑問を呈する発言があったと報道されると日経平均は急速に下げ、一時300円を超える下げ幅となりました。結局、15日は前日比297.22円安の13,752.94円で引けました。

またアメリカでは、7月の消費者物価指数の上昇や週間新規失業保険申請件数の減少を受け、9月にFRBの金融緩和縮小が始まるのではないかという観測が出たため、15日のニューヨークダウは前日比225.47ドル安の15,112.19ドルに下落しました。これが16日の日経平均に響いています。16日前引けは、前日比174.59円安の13,578.35円で引けました。

アメリカの金融緩和縮小観測を受けて、アメリカの長期金利も上昇しています。一方で、日本の名目金利はこのところ下落しており、アメリカ金利との金利差が拡大しています。これは本来円安要因であると思われますが、実際にはドル円相場は1ドル=96~98円台を往復しており、円安にはなっていません。いわゆる「リスクオフ」、株などのリスク資産を避け、債券に向かう投資家の姿勢が強くなっていると思われます。そのため、円高に振れることもあり、これも日経平均の下振れ要因になっています。

チャートを見ると、日経平均は三角保合相場の下限をやや割れたところにあり、要人発言、各種統計数値、為替と金利などに悪材料が出たならば、下方に向かわないとは限らない相場になっています。お盆明けが注目されます。

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 ドル/円レート:日足

安倍政権の税金=財政再建にコンセンサスはあるのか

要人発言に株価が神経質になっています。アベノミクスの理論的支柱といえる人たちが消費税増税やそのタイミングに異を唱えたり、閣僚から法人税減税の実効性に疑問がでたりしています。税金の問題=財政再建の問題は、約1,000兆円、名目GDPの2倍以上の政府債務を抱える日本にとって避けて通れない問題です。安倍政権にこの問題でのコンセンサスがないと思われることは、安倍政権の経済政策の今後に不安を抱かせるものです。最近の株価の軟調ぶりを見ると、夏枯れ以上に安倍内閣の経済政策への姿勢を株式市場が疑問視し始めたのかもしれません。

割安好業績企業を見出す業績相場か

アベノミクスが株価上昇を期待する上で当てにならなくなったとすれば、投資家が見るべきは業績ということになります。

ドル円レートは1ドル=96~98円のレンジにありますが、2013年3月期平均が1ドル=82~83円だったことを考えると、今は「円安」と言えます。また、11月14日からの株価の動きをセクターごとに見ると、自動車セクター(輸送用機器)のパフォーマンスが相対的に良いことがわかります(グラフ4)。8月12日の週は薄商いの中でも、富士重工業やトヨタ自動車などの自動車株を好業績、割安を理由に再評価する動きが出ました。自動車セクターの主要企業、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業、マツダ、日野自動車、いすゞ自動車、デンソーなどを再度評価してもよいのではないかと思われます。

ファンダメンタルズを見ると、日本では2012年のエコカー補助金の反動が予想よりも少なく堅調に推移していますが、これは新車効果が大きいためです。低燃費でコストパフォーマンスの高い新車が、軽自動車、小型車だけでなく、中型車でも発売されており、これが消費者の購入意欲を刺激しています。またアメリカは好調です。アメリカの新車販売台数を見ると、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車だけでなく、富士重工業とマツダが前年比二桁の大きな伸びを示しています。

一方アセアンでは、タイで2012年の新車補助金の反動が出始めており、インドネシアでも燃料費上昇の影響が出始めています。特に商用車への影響が懸念されますが、乗用車、商用車ともに今のところ全体の業績を下方修正するほどではありません。アセアンの減速を為替リスクのない日本と円安メリットが大きいアメリカで吸収している構図です。特に、2Q以降のドル円レートの前提を1ドル=90円で据え置いているトヨタ自動車、富士重工業、マツダ、日野自動車、デンソーなどは業績上方修正の余地があると思われます。

次に注目したいのが電機セクターです。ソニーはテレビとスマートフォンが黒字転換した結果、企業内容の見え方が従来と違ってきました。映画、音楽、金融も好調です。特に、映画、音楽部門は分離上場を主張するヘッジファンドのおかげで、価値の大きさが明らかになりました。

パナソニックも黒字転換しています。スマートフォンからの撤退、白物家電から自動車など産業用への業態シフトは評価してよいと思われます。

スマートフォン向け電子部品に強い村田製作所(チップ積層セラミックコンデンサ、通信モジュールなど)やヒロセ電機(コネクター)も1Qの好業績を素直に評価してよいと思われます。中国勢の台頭に対抗して、アップルが年末に筺体をプラスチックにした廉価版iPhoneや新型iPadを発売すると言われています。また、アップル、サムスンの2強だけでなく、中国勢やソニーがスマートフォンの有力プレーヤーになってきました。高性能部品は競争上必要になるため、村田製作所やヒロセ電機にとって部品の総需要は増える可能性があります。

このように、自動車のような好業績セクターや材料の多い電機セクターを探れば、投資妙味のある企業が出てきます。お盆明けの株式市場に注目したいと思います。

表1:楽天証券投資WEEKLY

グラフ5 信用取引評価損益率と日経平均株価

マーケットスケジュール

2013年8月19日の週の日本での注目点は、19日公表の7月の貿易統計です。

アメリカは、21日の7月の中古住宅販売件数、7月の景気先行指数、23日の7月の新築住宅販売件数です。

日本は19日の7月の貿易統計が注目されます。アメリカでは住宅関連統計が注目されます。為替への影響が注目されます。