楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

日経平均はじり高した後週末に軟化

2013年7月16日の週の株式市場は、週初は円安傾向、参院選の結果と選挙後の動きに期待した動き、22日の週から本格化する2013年3月期1Q決算に期待した動きがあいまってじり高の展開となりました。スプリントの買収成功を評価してソフトバンクが活況だったほか、1Qの好業績を先取りする動きが、トヨタ自動車、富士重工業、マツダなどの自動車株に見られました。日経平均株価は、16日に14,500円台で始まった後、19日金曜日に14,900円台まで上昇しました。ただし、参議院選挙の結果を気にする動きが出始めたようで、14,900円台に入った後下げ始め、一時14,400円台まで下げる場面がありました。結局、19日は前日比218.59円安の14,588.91円で引けました。

今回の参議院選挙のテーマは、本来「経済」だったはずですが、安倍政権が春先に憲法改正を熱心に議論し始めたため、争点が分散してしまった観があります。各種世論調査を見ると、有権者の多くが自民党を支持しているようですが、その観点は経済政策であって、憲法改正に期待する向きは少数派です。ところが、自民党は憲法改正草案(かなり保守的で統制主義的な憲法草案です)を既に発表し、憲法改正に対する大きな熱意を見せています。ここに民意と自民党安倍政権との大きなギャップがあると思われます。

このギャップがどのように現れるかが選挙後の注目点です。選挙後の株価の動きを考えると、各政党の獲得議席の数がわかり、その結果、各政党が経済政策、憲法改正、原発再稼動、TPPなどの各争点について、改めてどのような態度をとるかを見定めるまでは、不透明感が強いと思われます。勝った政党(この「勝つ」という定義も様々です)が、民意と全く逆方向に進むこともないとは言えないと思われます。金曜日の下げは、この民意と勝つであろう政党の本音とのギャップを気にしたためかもしれません。

22日の週から2013年3月期1Q決算が本格化

一方で、1Q決算には期待したいと思います。22日の週の決算発表予定では、23日日本電産、25日日産自動車、26日日野自動車などがあります。日本電産は、前期の事業構造改革の成果がどう業績に現れているのかがポイントです。日産自動車、日野自動車は、円安メリット、自動車の販売増加の寄与を見定めたいと思います。特に、日野自動車については事前に好業績の観測報道がありました。

29日の週になると、29日に小松製作所、30日に三菱自動車工業、オリエンタルランドなど、31日に、デンソー、アイシン精機、富士重工業、本田技研工業、マツダ、三菱地所、村田製作所、TDK、パナソニックなど、8月1日に、ヒロセ電機、シャープ、ソニー、京セラなど、2日に、三菱商事、トヨタ自動車などがあります。22日の週からの2週間で主要業種の主要企業が1Q決算を発表する予定ですので、選挙結果とその影響とあわせて決算の中身と今後の見通しが株価に織り込まれていくと思われます。株式市場からは目が離せません。

選挙結果が単純に株価にプラスとは言えないだろうが、決算には注目したい

選挙結果の詳細を見るまでは、それが株価にプラスであると言い切ることは出来ないと思われます。ただし、決算に対しては、特に自動車、電機、機械などの加工型製造業でグローバル企業の決算に注目したいと思います。特に、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、デンソーは自動車販売好調に円安メリットが加わっていると思われます。ソニー、パナソニック、シャープは構造改革の成果を見定めたいと思います。村田製作所は、円安メリットと、中国製スマートフォンが多くなっており、必ずしも安い部品を使っていないようなので事業が広がっているかもしれません。

いずれにせよ、選挙の結果が21日日曜日の深夜にわかります。週明けの株価に注目したいと思います。

表1:楽天証券投資WEEKLY

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:月足

グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ4 ドル/円レート:日足

グラフ5 ユーロ/円レート:日足

マーケットスケジュール

2013年7月22日の週の日本での注目点は、26日公表の全国消費者物価指数(6月)と東京都区部消費者物価指数(7月中旬速報)です。

アメリカの注目点は、22日公表の6月中古住宅販売件数、23日公表の5月FHFA住宅価格指数、25日公表の6月新築住宅販売件数と6月耐久財受注です。

日本の消費者物価指数が注目されます。全国ベース、東京都区部ベースともに既に小幅ながらプラス転換しているため、数字が注目されます。数字によっては、株価、金利に影響を与える可能性があります。また、アメリカの住宅関連統計と耐久財受注も要注目です。FRBの金融緩和に対する態度に影響を与える可能性があります。

セクター・銘柄分析:エンタテインメントセクター

今回のセクター・銘柄分析では、映画と音楽の分野を取り上げます。

堅調な成長続く世界の映画市場、底打ちの気配がある世界の音楽市場

映画、音楽は我々にとって最も身近な娯楽です。世界の映画市場は、2012年暦年で347億ドル(2012年平均レート1ドル=80.82円で換算して2兆8,044億円)、前年比6%増であり、堅調な伸びが続いています。国別に見ると、最大市場はアメリカ・カナダで2012年108億ドル(8,728億円)、前年比5.9%増、2位中国27億ドル(2,182億円)、同35.0%増、3位日本24億ドル(1,939億円)、同4.3%増と続きます。

地域別に見ると、1位が北米(アメリカ、カナダ)108億ドル(8,728億円)、前年比5.9%増、2位欧州、中東、アフリカ107億ドル(8,647億円)、同0.9%減、3位アジア・太平洋地域104億ドル(8,405億円)、同15.6%増で、アジア・太平洋地域が他の地域よりも成長率が高く、人口と今後の所得増加を考慮すると、成長余地が大きい市場になっています。

音楽も大きな市場です。世界売上高(卸価格ベース)は2012年暦年で164億8,060万ドル(1兆3,155億円)、前年比0.2%増です。アルバム売上高が減ってダウンロード販売や定額配信が増える構図の中で成長率は横ばいですが、実は日本市場が大きな比重を占めています。1位はアメリカ44億8180万ドル(3,622億円)、前年比0.5%減、2位日本44億2200万ドル(3,573億円)、4.0%増、3位イギリス13億2,580万ドル(1,071億円)、6.1%減となっています。日本はアメリカと並ぶ音楽大国ですが、権利収入を除くCD収入と配信収入だけならば、アメリカを抜き日本が世界最大なのです。

表1:世界の映画市場(興行収入総額)

表2:国別の映画興行収入総額

表3:世界の音楽市場

表4:世界の音楽売上高ランキング

少数が支配する世界の映画市場、音楽市場

映画、音楽の世界市場は、ごく少数の企業と、多数の地域会社で成り立っています。映画市場では、映画製作に巨額の投資を行い、グローバルに配給している会社は、「ハリウッドメジャー」と呼ばれるアメリカの映画会社6社のみです。即ち、

  • ウォルト・ディズニー・スタジオエンタテインメント部門
  • ワーナーブラザーズ(タイム・ワーナー・フィルムアンドTVエンタテインメント部門)
  • パラマウンド・ピクチャーズ(ヴァイアコム・フィルムドエンタテインメント部門)
  • ユニバーサル・ピクチャーズ(コムキャスト・NBCユニバーサル・フィルムドエンタテインメント部門)
  • 20世紀FOX(21世紀FOX傘下。2013年6月にニューズコーポレーションが21世紀FOXとなり、TV、映画以外のニュース、出版部門を分離した)
  • ソニー・ピクチャーズエンタテインメント(ソニー映画部門)

の6社です。ハリウッドメジャーには、映画制作と配給だけで独立している会社はなく、TVネットワークやCATV会社の傘下の子会社や、ソニーのように民生用電機会社の一部門になります。

また音楽も、日米欧で活動しているのは、ユニバーサル・ミュージック・グループ(仏ビベンディ傘下)、ソニー・ミュージックエンタテインメント(ソニー音楽部門)、ワーナー・ミュージック・グループ(投資会社傘下)の3社のみであり、この3社以外の会社は国ごとに活動する音楽会社です。

映画市場は先進国では安定成長が続くと予想されます。音楽市場はこれまで減少が続いていましたが、日本中心に底打ちの気配が見えてきました。

また、新興国では、人口が多く、所得が伸びており、かつ、今後TPPなどによって著作権保護が行き渡ることが期待されるため、映画、音楽ともに、先進国に匹敵するかそれを上回る大市場に成長することが期待されています。表2、4を見ると、特に新興国の音楽売上高が低いことがわかります。これがTPPなどで是正される可能性があるのです。ハリウッドメジャー、音楽大手ともに将来は明るいと言えます。

表5:ハリウッドメジャーの業績推移

表6:音楽大手の業績推移

表7:ハリウッドメジャー6社と音楽大手の損益

ソニーにあるヘッジファンドが映画、音楽部門の分離上場を提案した

先進国での安定成長に加え、新興国での高成長が期待される映画、音楽の世界市場ですが、ハリウッドメジャー6社も音楽大手3社も、大手企業の完全子会社なので、直接投資することは出来ません。それらの企業の親会社に投資するしかありません。

ところが、この状況に風穴を開けようとする投資家が現れました。今年5月にサードポイントというアメリカのヘッジファンドが、ソニーに対して、映画、音楽部門の上場を提案したのです。具体的には、

  1. 映画部門、音楽部門を一体化して、その株式の15~20%をソニーの既存株主に割り当てた上で(新株予約権を割り当てる)、上場させる。
  2. 映画、音楽部門の上場で得た資金をソニーのエレクトロニクス部門の競争力強化に使う。
  3. 映画、音楽部門上場とエレクトロニクス部門の収益力向上によって、ソニーの株価は約60%上昇であろう。

という内容です。サードポイントは、この提案を実現させるべく、段階的にソニー株を約7%保有している模様です。

この提案に対して、ソニー経営陣は慎重に検討すると回答しています。

ここで、ソニーの映画、音楽部門のポテンシャルを同業他社と比較してみたいと思います。表5は映画部門、表6は音楽部門の比較です。映画部門はディズニー映画部門、タイムワーナー・フィルムアンドTVエンタテインメント(ワーナーブラザーズ)、ヴァイアコム・フィルムドエンタテインメント(パラマウントピクチャーズ等)の3社と、音楽部門はビベンディ傘下のユニバーサル・ミュージック・グループと比較しました。この2表を見てわかるように、ソニー映画部門、音楽部門の内容は営業利益率では上位会社に劣るものの大きく見劣りしているわけではなく、成長率は他社に比べ遜色ないということです。しかしながら、株価は大いに見劣りします。優良キャラクターを数多く抱えるディズニーは別格としても、例えば、タイムワーナーと比べると、5年間でタイムワーナー株が3倍弱になったのに対して、ソニー株はこの半年間にアベノミクス相場の恩恵で2倍になったものの、5年間では下落しています。他社との比較でも概ねそうなります。

もちろん、タイムワーナー、ヴァイアコムの中心事業がタイムワーナーはテレビネットワーク、ヴァイアコムもCATVなどのメディアネットワークスであり、ソニーの主力事業たるエレクトロニクス事業は不振の極みであったことが株価不振の大きな要因です。しかし一方で、過去5年間で、映画やテレビドラマの需要が増えました。アメリカではHulu(フールー)のような映画、テレビドラマの配信サービスが普及しており、これらのプログラムをパソコン、タブレットPCやスマートフォンで見ることが普及しています。映画などのプログラムの収益源が、従来のような興行、テレビ、CATVだけではなくなって、多様化しているのです。メディア大手は、ハリウッドメジャーを傘下に収めることで、独自の番組で視聴者をひきつけ業績拡大に結び付けてきたのです。

それに対して、ソニーの映画、音楽部門の経営のやり方は、あくまでも各部門の独立経営であり、エレクトロニクス部門との連携はなかったように思われます。映画、音楽との親和性が高そうなゲーム部門でもそうです。下の株価チャートを見ると、ソニーの株主の中でソニーの経営に批判的な人たちがいるとすれば、その批判は正当であるように思います。


(出所:Yahoo!Finance)


(出所:ヤフー・ファイナンス)

映画、音楽部門を上場しなくてもソニーの株価を上げることは出来ると思われる

では、ヘッジファンドが言うように、ソニーは映画、音楽部門を上場させたほうがよいのでしょうか。私はそう思いません。ソニーが適切な経営さえなせば、いずれ映画、音楽部門の業績と今後の可能性を株価が織り込む可能性が高いと考えています。

まず、TPPにおいてアメリカは著作権の保護を訴えています。これまでもアメリカは著作権保護を新興国に訴えてきましたが、TPPが成立すると、新興国での著作権保護に弾みがつく可能性があります。当然、アメリカのハリウッドメジャーと大手音楽会社にとってはプラスになります。つまり、ソニーの映画部門と音楽部門はTPPの重要な受益者になると思われるのです。

第2に、映画、音楽部門は、ゲーム部門とのシナジーが効く可能性が高いと思われます。年末に発売されるプレイステーション®4はこれまでのゲーム機と違い、最初から安い価格(399ドル)で提供します。また、単なるゲーム機ではなく、映画、音楽などの総合的なエンタテインメント機という位置づけになっています。このコンセプトを実現するために、映画、音楽事業のコンテンツが必要になると思われますが、うまくいけば、ゲーム部門、映画、音楽部門のいずれにもプラス要因となると思われます。

第3に、今ソニーが拡販しているスマートフォン、タブレットPCのエクスぺリア™シリーズと、映画、音楽はシナジーが期待できるということです。スマートフォン、タブレットPCには、中国勢がこぞって参入していますが、競争を有利にするために独自コンテンツが有用です。

このような映画、音楽部門の可能性を生かすには、100%子会社にして他部門と一体的に経営したほうがよいと思われます。

ただし、ソニーの経営陣が実際に映画、音楽部門を100%子会社のままにしておいたほうがソニーの価値は上がると考えるならば、そのことをはっきりと株主に説明する必要があります。ソニーのIRはこれまで、映画、音楽部門の詳細を開示してきませんでした。地域別売上比率、映画興行、テレビドラマ、ディスク販売の構成比などの中身が変わらなければ、評価はできません。相手は収益至上主義のヘッジファンドですから、ソニーの経営陣が自らの方針を押し通すには、ヘッジファンド側が考えている以上に株価を上げる必要があります。あるいは、自分がかかわるよりもソニーの経営陣に任せたほうがよいと思わせる材料が必要になるでしょう。

そういう意味で、今回の1Q決算に注目したいと思います。前期2013年3月期の営業利益2,300億円の大半は資産売却益です。今期の会社予想営業利益2,300億円は真水で出さなければなりません。映画、音楽は安定的な利益が予想されますが、スマートフォンの利益貢献、テレビの赤字縮小程度などが注目点となると思われます。

他のエンタテインメント会社:エイベックス、アミューズ、JVCケンウッド

実質的に世界最大の音楽大国である日本には、ソニー以外にも有力な音楽会社や芸能プロダクションがあります。

エイベックス・グループ・ホールディングスは日本トップの音楽会社です。日本人アーティストでは、浜崎あゆみ、倖田來未、安室奈美恵などが有名ですが、最近では、東方神起、スーパージュニア、ビッグバンといったK-POPアーティストの人気が高くなっています。東方神起、スーパージュニア、ビックバンはライブ活動を活発に行っており、エイベックスの業績を支えています。

また、エイベックスで重要なのは、NTTドコモとの合弁会社で手掛けているdビデオとソフトバンクとの合弁であるUULA(ウーラ)です。いずれも映像、音楽コンテンツの月額定額配信サービスです。5月時点でdビデオ+BeeTVで543万人、UULAで41万人の加入者を抱えています。料金は525円、UULA490円です。会社側では2014年3月末までに加入者合計を1,000万人にする計画です。その後、ペイ・パー・ビューを行ったり、1,000万人の加入者対象にJ-POPアーティストの販促活動を行う目論見です。K-POPだけでなく、J-POPのてこ入れを行おうという目論見なのです。成果が期待されます。

アミューズも優良アーティストをたくさん抱えている芸能プロダクションです。5年間休止していた「サザンオールスターズ」が8月から活動を再開します。「福山雅治」もドラマの人気が高く、年末から来年にかけて全国ツアーがある予定です。

また、恒久劇場としてアミューズ・ミュージカルシアターを開設しました。6月から韓流ミュージカルを中心に公演しており、人気上々ですが、いずれ日本人俳優を使った出し物もある期待されます。

このほか、JVCケンウッドも音楽部門を持っています。ビクター・エンタテインメント・グループとテイチク・エンタテインメントで、いずれも日本では老舗の音楽会社です。特にビクターは、SMAP、サザンオールスターズのような大物アーティストを抱えているほか、サカナクション、家入レオなどの若手人気アーティスト、斉藤和義のようなベテラン、ビジュアル系の源流の一つで国内外に熱狂的なファンを持つPlastic Tree、同じくビジュアル系で若手のTHE BAWDIESなど、アーティスト層に厚みがあります。

問題は、エイベックスのようにアーティストマネジメント契約をしているアーティストが大物にいないことであり、これが音楽部門の収益力が今ひとつ強くない要因です。ただし、ハードウェア部門の中で業務用無線事業と放送用機器事業には将来性がありますが、デジタルAV機器の将来には厳しいものがあると思われます。2013年3月期営業利益96億円の中で音楽部門は20億円であり、安定収益源としての音楽部門の重要性は高まっていると考えられます。今後に注目したいと思います。