楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
マーケットコメント
日経平均は14,000円台に入ってから一進一退の展開に
2013年7月8日の週の株式市場は前週の堅調な地合いを引継ぎ、14,400円台から始まりました。ただし、持続的な買いが続かず、14,400円台で一進一退の展開となりました。QE3(アメリカの金融緩和第3弾)の早期縮小を示唆する6月19日のバーナンキ発言を受けて、新興国の株式市場が下げ、それが日本にも影響する形が続いています。
ただし、7月10日のバーナンキ講演では、金融緩和継続姿勢を示したため、これが好感され7月11日のNYダウは前日比169.26ドル高の15,460.92ドルで引け、過去最高値を更新しました。7月12日(金)の日経平均はこれを受けて33.67円高の14,506.25円で引けました。小幅高ですが、14,500円台に乗せて引けました。
日本の株式市場は、7月21日の参議院選挙の結果を気にして、あるいは期待して、当面はじり高の展開かもしれません。今回の選挙の争点は、「アベノミクス」ないし「経済」だけだったはずですが、安倍政権の様々な言動がきっかけとなって、「憲法改正」「原発再稼動」「TPP」なども重要な争点になっています。アベノミクスについては、先週の本稿で指摘したように、日銀短観における大企業の景況感が改善しており、7月11日の日銀金融政策決定会合においても、日銀は景気の基調判断を「緩やかに回復しつつある」として2年半ぶりに景気回復を宣言しました。
しかし一方で、7月8日に公表された景気ウォッチャー調査(6月調査)では、景気の現状判断DI、先行き判断DIが、家計動向関連、企業動向関連、雇用動向関連のいずれについても、5月調査から低下しました。現状判断DIは、家計動向関連のDIが3月の56.9をピークとして6月は52.2に低下、企業動向関連は、5月の57.1をピークとして6月は52.8に低下、雇用関連は3月の63.1をピークとして6月は58.0に低下しました。各DIの数字は「横ばい」を示す50より高いのですが、景気の回復具合には一服感も出ているようです。アベノミクス効果による高額消費、低燃費車の販売好調などを指摘する声がある一方で、円安による原燃料費の増加、為替相場、株価の乱高下による先行き不透明感を指摘する声も上がっています。
参院選後にアベノミクスの矛盾、問題が表面化する可能性も
事前の予測では参院選での自公の勝利が言われています。これまでのアベノミクスの成果は、円安による輸出企業の景気回復、1月に政府が閣議決定した事業規模約20兆円の緊急経済対策などによるものです。これらの要因で、株価上昇による資産効果が高額消費の増加などに現れて、長期金利上昇によってマンションなど不動産売買が活発になってきました。
一方、安倍政権の政策には相矛盾するものが少なからずあります。日銀が目標とする2年間で2%の物価上昇を実現したいのであれば、原発再稼動と各分野での規制緩和やTPPは止めておいたほうがよいと思われます。足元で起こっている物価上昇は電気代、ガス代などのエネルギーコスト上昇によるものが大きいのです(先週の本稿で指摘しました)。エネルギーコストの上昇は、継続すれば各分野での物価上昇に結びつくと思われます。電力会社が言うように原発再稼動で電気代が上がるのを抑えることが出来るのであれば、エネルギーコスト上昇による物価押し上げ効果はなくなると思われます。
また、規制緩和を進めると、その分野での価格が低下し、給与は上がらなくなったり、下がることもあるかもしれません。TPPは米や牛肉の価格を引き下げる方向に働くでしょう。要するに、物価上昇を最優先に考えるなら、少なくとも物価水準が十分に上昇するまでは、原発よりも火力発電を選択し、各種規制を残したほうが良いと思われるのです。
あるいは、継続的に積極的な財政政策を採る場合は、長期金利が更に上昇し、それが景気にブレーキをかけることになる可能性があります。
また、「憲法改正」は安倍首相が「戦後レジームの脱却」をスローガンに掲げていることや、自民党の憲法草案が保守色、統制色の強いものになっていることが、もし安倍政権が選挙結果を受けて憲法改正に積極的になった場合に、各分野で問題になる可能性があります。戦後レジームからの脱却は、中韓だけでなく、アメリカのリベラルも刺激しかねない問題です。あるいは、自民党の憲法草案には結社の自由に関する制限条項があることから、事業の自由、起業の自由が侵害される可能性を指摘する声が出る可能性もあります。政治記者の人たちが書いている記事を読むと、安倍首相の憲法改正にかける熱意は並々ならぬものであるとのことですから、安倍政権が選挙結果を受けて憲法改正を最優先と考える可能性はあると思われます。その場合は、株式市場にも悪い影響がでる可能性があります。
既に参議院選挙に関してマーケットの内外で様々な議論が始まっています。各政党の当選者の数の組み合わせによって、選挙後に安倍内閣が採る政策は変化すると思われます。今回の選挙はこれまで以上に一人の当選者の価値、ひいては一票の価値が高いと思われます。参院選までは選挙後への期待から、じり高の展開が予想されますが、本格的な動きは選挙結果を吟味してからになると思われます。
当面は、為替レートがやや円高とは言え1ドル=99円前後になっていることから、自動車、電機、機械等の輸出・グローバル関連に妙味があると思われます。世界販売が堅調なトヨタ自動車、日米での販売が好調な富士重工業、秋に戦略車種の新車を投入し生産能力を拡充している本田技研工業、円安メリットが大きいマツダ、自動車増産の恩恵を受けるデンソー、スマートフォンが好調なソニー、スマートフォン向け電子部品のシェアが高い村田製作所、アメリカのシェールガス革命によって、LNG関連やシェールガス関連化学プラントの事業が拡大しているプラントメーカー(日揮、千代田化工建設、東洋エンジニアリング)などに注目したいと思います。
表1:楽天証券投資WEEKLY
グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価
グラフ4 ドル/円レート:日足
グラフ5 ユーロ/円レート:日足
マーケットスケジュール
2013年7月16日の週の日本での注目点は、17日公表の日銀金融政策決定会合議事要旨(6月10、11日分)です。
アメリカの注目点は、16日公表の6月の設備稼働率、鉱工業生産指数、17日公表の6月の住宅着工件数、6月の建設許可件数、ベージュブック(米地区連銀経済報告)です。
17日のアメリカの住宅着工件数とベージュブックに注目したいと思います。FRBの金融緩和縮小のスタンスを読み取る参考になると思われます。
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