楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

相場は引き続き大荒れ

2013年6月10日の週の株式市場も、前週に続き、荒れた相場となりました。

7日のアメリカ雇用統計の内容がほどほどな内容であり、早期に量的金融緩和第3弾(QE3)を縮小するという観測が後退したことから、10日の日経平均株価は前週末比636.67円高の13,514.20円となりました。しかしその後は、アメリカのQE3解除に伴いアジアから投資資金が引き上げられるという観測からアジア通貨、アジア株が軟調となり、対ドル、対ユーロとも円高となりました。ドル円レートは13日に一時93円台に入りましたが、その後戻し、14日午後は94~95円台で推移しています。

日経平均は急激な円高、アジア通貨、株式の下落、中国を含むアジア経済の変調を警戒して、11、12、13日と下落し、特に13日は前日比843.94円安の12,445.38円となり、7日の安値12,548.20円を下回る事態となりました。14日は再びQE3早期解除観測が後退したことから13日のNYダウが上げたため、日経平均も上昇し前場に一時12,900円近辺まで戻しました。ただし、その後は一進一退となり、結局終値は前日比241.14円高の12,686.52円で引けました。

物色されているセクターは幅広く、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業、マツダ、日野自動車、いすゞ自動車、デンソー、アイシン精機などの自動車、日立製作所、東芝、三菱電機、ソニー、パナソニック、村田製作所、京セラなどの電機、三菱重工業、川崎重工業、IHI、日揮、千代田化工建設などの機械・プラント、三菱商事、三井物産、丸紅、豊田通商などの商社、三菱地所、三井不動産、住友不動産、平和不動産、東急不動産、トーセイなどの不動産、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、エイベックス・グループ・ホールディングス、アミューズ、オリエンタルランド、サンリオなどのゲーム、エンタテインメント、ヤフー、楽天、カカクコムなどのインターネットなどが幅広く物色されています。

ただし、大手金融、バイオ関連がふるいません。新興市場株はセクター、銘柄によって株価の動きに違いが目立つようになりました。

日経平均12,000~12,700円にチャート上の節目がいくつもある

下値模索の動きが続くと思われますが、先週指摘したように、下値の目処がある程度ですがつき始めています。即ち、

  1. 「調整」というときの一つの目安である高値(5月23日ザラ場高値15,942.60円)から20%下落した水準が12,754円。
  2. 日銀が「異次元の金融緩和」を宣言した4月4日の始値が12,188.22円、終値が12,634.54円。
  3. 昨年11月14日終値8,664.73円から5月23日ザラ場高値15,942.60円の半値押しが12,303円。
  4. 週足で見た時の26週移動平均線が12,333円にあります。
  5. また、チャート上確認できる重要な節目が12,000円前後にあります。
  6. 仮に、12,000円を下回る事態となったときには、11,000円近辺にある200日移動平均線が抵抗ラインとなると思われます。アジア通貨と株式の大幅下落や円レートの更なる上昇が起こった場合には、ありえないことではないと思われるため、注意が必要です。

主力株のリバウンドがあるか

もし、12,000~12,700円のレンジ、即ち上述の重要な節目が並んでいるレンジで日経平均の下落がいったん止まった場合は、主力株のリバウンドが期待できると思われます。注目してみたいのは、自動車、電機、機械と不動産です。自動車は2014年3月期の想定為替レートが1ドル=90~95円、1ユーロ=120~125円のレンジなので、足元の円ドルレート(1ドル=94円台)が今期の平均レートになる場合は、対ドルの円安メリットは見込めない会社が出てきます。ただし、対ユーロでは足元の1ドル=126円台ならば対ユーロで円安メリットが期待できる会社が多くあります。

また、円安メリットが見込めなくとも、もともとの予想業績変化率が大きい会社が多いのが自動車、電機、機械などの輸出・グローバル関連セクターです。表2に為替感応度の表を掲載しましたが、トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、日野自動車、いすゞ自動車、パナソニック、村田製作所、小松製作所などの、もともとの会社予想業績変化率に注目したいと思います。

また、ソニーは海外のヘッジファンドから映画、音楽部門の上場を要求されており、これに対抗するために株高政策を採る必要があることが注目されます。

このほか、世界的にLNG設備の建設ブームが起きつつあることから、日揮、千代田化工建設などのプラント株も注目されます。

一方不動産株は、輸出・グローバル関連に比べ予想PERが高く(例えば、三菱地所は55.7倍、三井不動産は37.1倍、平和不動産は26.3倍に対して、トヨタ自動車12.9倍、本田技研工業10.7倍、富士重工業15.4倍となっています)、この面からは買いづらい面はあります。ただし、三菱地所の株価が200日移動平均線に接近してくるなど値頃感が出てきたこと、東京都心部で展開されている大規模再開発が続くことから、特に東京を地盤とする大手と中堅に投資妙味がありそうであることを指摘しておきたいと思います。

安倍政権の態度が今後問題になる可能性も

今週の株価下落の主因はアジアですが、ここまで円高になり、株価が下がった原因には、安倍政権の対応と態度も関係があるように思われます。まず、「異次元」と称した金融緩和が効きませんでした。安倍政権の「骨太の方針」もようやく発表されたものの、実行が今年の秋からとマーケットが求めるスピード感と少々異なるものです。安倍政権が春先に長々と行った憲法改正論議を止めて成長戦略に集中すれば、もっと早く「骨太の方針」を発表し、それを実行に移せたのではないでしょうか。つまり、安倍政権の「優先順位」がマーケットが期待するものと異なる可能性があるのです。

安倍政権の支持率が円安と株高に支えられているのは衆目の一致するところだと思われます。今の円高と株安が続いた場合、これまでの円安と株高が国内景気に及ぼしたプラスの影響が逆転する可能性があります。要するに国内景気が再び冷える可能性があるのです。安倍政権が、憲法改正論議を極めて大事な局面で長々とやってしまったことは、安倍政権の存立基盤を揺るがしかねない問題になる可能性があると思われます。

また、安倍政権の成長戦略には原発再稼動の推進が書かれています。円安の要因の一つは、貿易収支の赤字が続いていることですが、この主たる要因は火力発電所で使うLNG(液化天然ガス)の輸入増加です。原発再稼動を進めれば、LNGの輸入は減ることになるため、これは円高要因の一つになると思われます。安倍政権の政策の詳細がわかるにつれて、この政権が何をやりたいのか、例えば、円安にしたいのか、円高にしたいのか、よくわからなくなるのです。これも安倍政権のリスクの一つであると思われます。

 

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:月足

グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ4 ドル/円レート:日足

グラフ5 ユーロ/円レート:日足

表2:自動車、電機等の主要企業の為替感応度

マーケットスケジュール

2013年6月17日の週の日本での注目点は、19日の5月の貿易統計です。

アメリカは、18~19日のFOMCと、18日の5月の住宅着工件数、建設許可件数です。

FOMCに注目したいと思います。アジア通貨、株式と合わせて日本へ影響する可能性があります。