楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。
マーケットコメント
日経平均は23日木曜日に大幅下落
2013年5月20日の週の株式市場は、大波乱となりました。
日経平均は週初から順調に上げ、5月22日(水)終値で15,627.26円と年初来高値を更新しました。この流れを受け継ぎ23日(木)は高く始まりましたが、前場に中国の製造業購買担当者景気指数の悪化が伝わると日経平均は下げ始めました。また、1ドル=100円台に円高が進み、10年物国債利回りが1%に上昇(価格は下落)しました。中国経済への不安感に為替市場、国債市場の混乱が拍車をかけ、日経平均は後場に入り急速に下落、大引けは前日比1143.28円安の14,483.98円となりました。終値ベースでは5月14日ぶりに14,000円台になりました。
セクターと銘柄の値動きを見ると、23日はほぼ全業種、全銘柄が下落しました。特に、金利上昇に弱い不動産、J-REIT、金融の中に下落率が5-10%以上になる銘柄がありました。三菱地所、三井不動産、J-REIT各社、三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループなどです。PERが高い新興市場銘柄にも10%以上下落するものが目立ちました。ガンホー・オンライン・エンターテイメント、コロプラ、ユーグレナ、タカラバイオなどです。
一方で、自動車、電機などの円安メリット株の下落率は相対的に小さく、概ね一桁台の下落率でした。トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、ソニー、パナソニックなどです。
24日は前場は全面的に反発し、日経平均は前場段階で400円近く上昇しました。ただし、寄り付き後に一時15,000円台を回復しましたが、その後下落に転じ、後場になると一時500円以上下げ14,000円台を割りました。もっとも、引けにかけてさすがに割安感が出てきたため買われ、結局前日比128.47円高の14,612.45円で引けました。
24日の株価の動きは銘柄によってまちまちで、ガンホー・オンライン・エンターテイメント、コロプラは前日比10%以上上昇したところから一桁%の上昇に押し戻されましたが、引けに掛けて再び10%以上の上昇率に回復しました。特にガンホーはストップ高で引けました。リバウンド狙いの資金が入った模様です。ただし、他の新興市場株、例えばタカラバイオ、ユーグレナなどのバイオ関連株は、反発はしたものの反発力は限られたものになりました。
内需、金融緩和関連を見ると、三菱地所、三井不動産は、数%の上昇から前日比下落に転じ、引けに掛けて再びプラスになりましたが、これも反発力は弱いものでした。大手金融(三井住友フィナンシャルグループ、三菱UFJフィナンシャルグループ、野村ホールディングスなど)とノンバンク(アイフル、SBIホールディングスなど)の戻りにも鈍いものがありました。
前日相対的に小幅下落に止まった自動車、電機でも、自動車関連が円高を気にして鈍い動きでした。電機、精密では、京セラ、TDKなどが反発する一方、ソニー、村田製作所が続落しました。
長期金利の問題が顕在化
今回の日経平均急落は、長期金利の上昇リスクを市場がはっきりと認識したために起きたと思われます。もともと今回のアベノミクスないしリフレ政策では、為替市場への口先介入と大幅金融緩和→円安→輸出企業の業績回復と株高→資産効果による景気回復、輸入物価上昇による物価上昇圧力という経路、あるいは大幅金融緩和、日銀による国債の大幅買い入れ→金利低下と物価上昇という経路で景気が回復し物価が上昇すると期待されています。
一方で、物価上昇や景気回復が起これば長期金利は自然に上昇します。長期金利の上昇は行き過ぎれば景気回復を阻害し、また、国債利払い費の増加を引き起こし国家予算を圧迫するため、これを抑えるために日銀は毎月7兆円の国債を買い入れる方針です。しかし、日本の国債残高約800兆円を保有している金融機関、機関投資家、個人の間に物価上昇期待や景気回復予想が根付き、彼らが自然な形で先行きの金利上昇予想を持つようになると、金利が実際に上昇する前に保有している国債を売ろうとするでしょう。買い手が無い場合は売れませんが、今は日銀が買ってくれます。かくて、日本国債の保有者は、毎月7兆円の日銀購入枠に売り物をぶつけようと考えているのではないかと思われます。
日銀は日本国債の全てを買い取ることはできません。もしそうしようとすると、日銀の「信認の問題」が発生し、歯止めのかからない円安と日本国債売りを招いてしまう可能性があるからです。しかし、一旦市場に金利の先高感が根付いてしまうと、日本国債の売り物が連続して発生するかもしれません。そのとき、日銀には最終的に国債を全て買い取ってインフレを起こす以外に打つ手がなくなる可能性があります。
23日は、株安が国債の買い需要を引き起こしたために、10年物国債利回りは前日よりも下落(価格は上昇)しました。24日も横ばいで推移している模様です。しかし今後、長期金利が継続的に上昇し、10年物国債で1~2%のレンジに入って、それ以上上昇が続くと国債の利払い費が国家予算を圧迫するところが見えるところまで上昇するかもしれません。これは、更なる国債売りと金利上昇をもたらす可能性があるため、株式市場と日本経済にとって大きなリスクです。今回はこのリスクが改めてはっきりと見えました。
少し長めの調整の可能性も
今回の日経平均株価の変動をチャートで見ると、月足で観察できる下方トレンド線に接触した後、跳ね返されたことがわかります(グラフ2)。1996年6月、2000年4月、2007年7月とも、全てこの下方トレンド線で跳ね返されており、この線が強力な上値抵抗線になっていると思われます。
一方で、4月の東証一部の売買代金は過去最高の2007年2月に近い水準になっています。23日の売買代金も大きく、円安メリットで好業績の輸出関連が多くなっていることなどを考えると、ある程度の調整を経て、再び16,000円弱のところにある下方トレンド線=上値抵抗線にチャレンジする可能性があると思われます。この線をクリアすれば、これまでの下方トレンドが転換し、大勢上昇トレンドが形成されることになりますので、相場は重要な局面に入っていると言えます。
ただし、物色の傾向は、少なくとも短期間、変わるかもしれません。リフレ政策の中で金利が急上昇したときに、日銀に出来ることは限られるのではないかという疑問が今回の金利上昇と日経平均急落の中で市場参加者に芽生えてきたことは想像に難くありません。そうであれば、金利上昇に対して弱いセクターや銘柄群は避けたほうが無難だと思われます。具体的には、不動産、J-REIT、銀行、その他金融、総合商社、高PERの新興市場銘柄などです。
一方で、日銀が無理な国債買い入れを続けるならば、あるいは金利上昇に対して有効に対処できないならば、そのことは日銀の信認だけでなく、日本政府の信任をも低下させ、傾向的に円安が続くと思われます。そうなると、円安メリット株に妙味が出てくると思われます。表2に今回の2013/3期決算に基づいた円安メリット関連銘柄をまとめておきましたが、これを見ると、自動車(トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、日野自動車、いすゞ自動車、デンソーなど)、電機(ソニー、パナソニック、村田製作所など)、機械(小松製作所など)の円安メリットとそれによる今期の業績変化率が大きいことがわかります。
2012年11月14日以降、日経平均は調整らしい調整を経ずに11月14日の始値8,660.27円から5月23日ザラ場高値15,942.60円まで、半年間で実に84%上昇しました。10~20%程度の多少大きな調整があってもおかしくない状況だと思われます。週明けもリバウンド狙いの資金が入る可能性はありますが、上値の売り物も出てくるかもしれません。少なくとも短期的には相場の先行きに対して警戒が必要と思われます。
表1:楽天証券投資WEEKLY
グラフ1 日経平均株価:日足
グラフ2 日経平均株価:月足
グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価
グラフ4 ドル/円レート:日足
グラフ5 ユーロ/円レート:日足
表2:自動車、電機等の主要企業の為替感応度
マーケットスケジュール
2013年5月27日の週の日本での注目点は、27日に公表される4月26日分の日銀金融政策決定会合の議事要旨です。また、31日の4月の鉱工業生産指数(速報)も重要です。
アメリカでは24日金曜日に4月の耐久財受注が公表されるため、週明けの為替相場が注目されます
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