楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

4月8日の週も株式市場は堅調

2013年4月8日の週の株式市場は、前週からの好地合いを引き継ぎ、堅調に上げる相場となりました。

8日の週は、これまでの相場を牽引し、前週に急騰した三菱地所、三井不動産、住友不動産などの不動産株が高値持ち合いとなりました。また、REIT株の中には株価が伸び悩むものも出てきました。一方、為替レートが1ドル=99円台、1ユーロ=130円台に入ってきたことを評価して、トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業、デンソーなどの自動車、ソニー、パナソニック、村田製作所、京セラなどの電機、三菱重工業、IHIなどの造船・プラント、三菱商事、丸紅など総合商社など、円安メリット株、輸出・グローバル関連株が評価される展開となりました。物色の方向性が変化し始めている可能性もあります。

また、株式市場の活況を映して証券株、中でも野村ホールディングス株が大商いとなりました。一部の原発が再稼動する運びとなりそうなことから、東京電力、東北電力、九州電力などの電力株が、特に12日に出来高を伴って上昇しました。

日経平均の上値の目処は

日経平均は、4月12日は前日比64.02円安の13,485.14円で引けました。4月18、19日の開催される予定のG20で、日本の金融政策や為替政策にどのような対応が出るかを不安視する向きがあり、また週末ということもあって12日の日経平均は下げました。

しかし、先週見たような1980年からの日経平均月足と各種の長期マクロ指標を見比べると、大勢上昇相場は続いていると思われます。

グラフ6を見ると、日経平均は1989年12月高値38,915.87円から2008年10月安値6,994.90円まで下げました。単純にチャートの戻りを考えると、3分の1戻しが17,635円、半値戻しが22,955円になります。グラフ2の日経平均月足を見ると、目先は14,000円前後に節目がありますが、その上には16,000~18,000円に節目がありますので、中期的には17,000円台が目標になると思われます。また、その上になると、20,000~23,000円のレンジに節目があります。

このように、金融政策と為替レートの動きに大きな変化がなければ(例えば円高への大きな揺り戻しが無ければ)、日経平均が14,000円台をクリアした後は、17,000円台、22,000円台へとチャレンジすると思われます。ただし、この動きは(もちろんですが)日本経済のファンダメンタルズと日本企業の業績動向にも左右されるでしょう。

マネタリーベース(市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と「日銀当座預金」の合計値)と金利の動きを見ると(グラフ7、8)、過去最大規模の金融緩和が行われていることがわかります。マネタリーベースと消費者物価上昇率を比べて見ると(グラフ7)、日銀が目標としている今後2年間での2%の物価上昇率の達成は大きな挑戦であることがわかります。そのため、大幅金融緩和が長期化することが予想されます。こうなると、円安も長期化し、さらなる円安となる可能性もあります。

ただし日本の証券市場は、日銀のいわゆる「異次元」緩和に踊らされているわけではありません。最近の国債利回りを見ると(グラフ9)、急低下してきた利回りが最近反転してきました。金利が低くなりすぎて、債券投資家はとりあえずこれ以上は買わないということです。このことは、将来行き過ぎた金融緩和、それによる行き過ぎた円安、さらにそれらによる1~2%以上の物価上昇が起こった場合、長期金利が急上昇する可能性が否定できないということです。

また、金利が極端にさがっていない(少なくとも現時点では)ことから、株式市場でバブルが発生するには一定の歯止めがかかっていると思われます。

実際、三菱地所のようにPERが80倍を越え、従来の見方では株価が説明できない銘柄が出てきてはいますが、トヨタ自動車のように、円安だけでなく、コストダウン、ハイブリッドカーや新車販売の増加などによって、2014年3月期営業利益が2013年3月期の2倍近くまで拡大することが見込まれるにもかかわらず、それが十分に株価に織り込まれていないと思われる銘柄も少なからずあります。株価を見ても、内需関連が先行し、それを輸出・グローバル関連が追っている傾向が見られます(グラフ11、12)。

大幅金融緩和は、不動産、土地持ち企業、金融などの内需関連の株価を押し上げると思われます。一方、大幅金融緩和がもたらす円安は、グローバル企業にとって大きな業績改善要因になっています。また、大幅金融緩和では、時価総額の大きな大型株、超大型株が物色の対象になりやすいと思われます。これらを総合して考えると、不動産等の金融緩和関連、内需関連はこれから値動きが高値圏で荒っぽくなるかもしれません。一方で、グローバル企業は、円安で得た巨額資金を今後の成長にどう生かすかという、投資家にとって実に興味深い課題を持っています。

例えば、トヨタは今の為替レートが続くならば、営業利益は2013年3月期1兆2,000~3,000億円、2014年3月期2兆1,000~2,000億円に拡大すると思われます。また、今後為替レートが1=105円を下回る円安になれば、2015年3月期営業利益は3兆円が見えてくると思われます。世界シェアが高く、日本で工場を持って生産、輸出している企業の円安メリットは実に大きいのです(トヨタで今の為替レートで年間6,000~7,000億円の円安メリットがあります。この規模の現金が企業の中に入ってくるのです)。

このように考えると、グローバル関連で円安メリットが大きな自動車(トヨタ自動車、本田技研工業、富士重工業、マツダ、日野自動車、デンソーなど)、電機(ソニー、村田製作所など)、造船・プラントなど(三菱重工業、日揮など)の株価は、今後も着実に上昇する可能性があります。また、総合商社は、鉄鉱石価格の下落が見込まれるため、各社ともPER、PBRが低い位置にありますが、アジアで需要が多いLNGの生産、販売で最大手の三菱商事、食料、LNGなど資源関連を拡大しつつある丸紅などの株価は水準訂正が期待できると思われます。

G20には注意が必要ですが、円高への揺り戻しがたとえあったとしても小規模ならば、輸出・グローバル関連の収益拡大ペースが遮られることはないと思われます。12日の株式市場では、後場になって、自動車株に押し目買いがありましたが、15日の週はこの動きが他の業種にも出てくる可能性があると思われます。

表1:楽天証券投資WEEKLY

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:月足

グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ4 ドル/円レート:日足

グラフ5 ユーロ/円レート:日足

表2:自動車、電機等の主要企業の為替感応度

マーケットスケジュール

2013年4月15日の週の日本での注目点は、17日公表の3月の消費動向調査、18日公表の3月の貿易統計です。貿易赤字の額が注目されます。

アメリカは、16日公表の3月の住宅着工件数、鉱工業生産指数、17日公表のベージュブックが注目点です。また、18、19日にワシントンでG20が開催されます。

G20で日本の金融政策と為替に対してどのような意見が出るかが注目されます。それと合わせて、来週の指標とベージュブックからアメリカの景気が読み取れます。為替レートの動きに注意が必要です。