楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

2013年1月21日の週の株式市場は、高値から一旦下落し再度上昇する、行って来いの展開となりました。22日の日銀金融政策決定会合において、物価上昇率2%を目標とする政府との共同文書が公表されたことから、一旦材料出尽くしとなり、週初1ドル=90円台で始まった円ドル相場は、23日に88円台まで円高となりました。この動きを受けて株価も下落し、日経平均は21日に10,900円台で始まったあと、23、24日に10,400円台まで下がりました。

しかしその後は、いわゆる「アベノミクス」の諸政策の内容が相次いで発表され、株式市場に再びアベノミクスに対する期待が広がりました。即ち、23日に政府主導で新市場の創出や製造業の復活を目指す「産業競争力会議」の初会合が開催され、24日には2013年度税制改正大綱が決定され、「教育再生実行会議」がスタートしました。

ドイツのメルケル首相が、24日、日本の円安政策を批判したとされることについては、麻生財務相は25日に為替操作に当たらないと反論しましたが、このことも円安を支援しました。

また、25日に中国訪問中の公明党の山口代表が中国の習近平総書記と会談したことで、日中関係打開の糸口がつかめるのではないかという期待が出てきました。

このため、25日の日経平均は寄付きから高くなり、10,800~10,900円台で推移し、10,926.65円、前日比305.78円高で引けました。為替レートも対ドルが90円台、対ユーロが120円台で、対ドルでは一時2010年6月以来の安値を付けました。

このように、再び強気相場となってきたように見えます。特に円安メリットの大きい自動車(トヨタ自動車、本田技研工業など)、天然ガス価格、鉄鉱石価格の上昇が業績に寄与すると思われる総合商社(三菱商事、三井物産、丸紅など)と一部の機械銘柄(小松製作所、IHIなど)、業績が景気に左右されにくくPERが割安なエンタテンメント系(エイベックス・グループ・ホールディングス、アミューズなど)などは、引き続き株価上昇の期待が高いと思われます。

ただし、セクターによっては、一旦調整してもおかしくない状況と思われます。特に、建設等の内需系銘柄、輸出系でも電機セクターの多くの銘柄のように、為替の円安メリットが利益に対して小さい会社については、一旦利喰いを検討する時期が来たように思われます。

要するに、自動車、電機の一部、機械の一部、総合商社など円安メリットが大きいか、金融緩和のメリットが大きい会社で、PERが今も適正水準の範囲内にある銘柄に、一旦投資を整理したほうがよい時期が来ているように思われます。3Q決算の中味を見たいと思います。

円相場は安倍首相の「口先介入」の前、9月下旬から円安方向に転換していました。これに伴う輸入物価の上昇が1月に入ってから見られるようになっています。今後の円相場が傾向的に円安に向かう可能性は比較的高いと思われますが、その場合、建設、小売などの内需系企業で、顧客に対する値上げが容易ではない場合、輸入原材料、輸入仕入れの価格上昇を吸収できず、減益になる会社が出てくる可能性があります。

また、同じように輸入物価の上昇は、給料がいきなり上昇するわけではないため、消費者の所得を目減りさせます。その場合、耐久財、非耐久財を問わず、消費者が消費を減らす可能性がある商品・サービス群が出てくる可能性があります。住宅などは消費税増税前の駆け込み需要が期待できると思われますが、一方で、家賃が東京の中心部などでは上昇し始めているため、住宅関連も全てよしというわけではないと思われます。

輸出企業、グローバル企業も全て良好というわけではありません。為替感応度が低い輸出企業は電機などに沢山ありますが、これは、5年にわたり続いた円高の中で、ドル売上高にドル仕入れ高を対応させてきたためです。円安になったから大きなメリットが出るわけではありません。電機セクターには利益率が低い事業が多く、ドルで稼いでいる営業利益を安くなった円で換算しても、営業利益が大きくなるわけではないのです。

また、国際競争力や市場構造、事業構造のあり方に問題がある場合は、円安となったり、経営者が見栄えの良いコメントを連発したりしても、業績が良くなるわけではありません。これに関して示唆的なのは、日本電産の決算です。同社の1月24日発表の2013年3月期3Q決算では、営業利益が前年同期の135億円から25億円に急減しました。パソコンに使われるHDD用スピンドルモーターの最大手ですが、ノートパソコンがタブレットPCに押されて売れ行きが悪化しています。また、ノートPCでもタブレットPCのように、フラッシュメモリーを使ったSSDがHDDに替わる記録媒体として使われるようになっています。フラッシュメモリーのビット単価は年率で約半分になっていますので、ノートPC市場でHDDが残るには価格を大幅に下げるしかありません。データセンター向けも同様で、このままフラッシュメモリーのビット単価低下が続けば、PCのみならず、データセンター市場でも近い将来SSDが使われるようになるでしょう。

日本電産はこの動きに対応して、工場の海外展開を進め部材の現地調達率を高め、コストダウンを続けてきました。その結果円安メリットは少ししかでなくなりました。また、新規事業として自動車向けモーターを拡大していますが、この分野は競争相手が多く、利益率を上げるのは簡単ではありません。

要するに、日本電産のように主力事業が大きな困難に直面し、打開の道が見えない企業を円安が救うことは、おそらくないだろうと考えています。

また、一部の銘柄のPERが異常に上昇していることに注意したいと思います。三菱地所が2013年3月期会社予想PER58倍、三井不動産が同33倍、村田製作所37倍、ソニー65倍、大林組28倍などです。来期の大幅増益を予想して高く買い上げられていると思われますが、実際にどうなるか、3Q決算を見極めたいと思います。

一方で、トヨタ自動車19倍、本田技研工業16倍、富士重工業14倍、いすゞ自動車10倍、デンソー22倍、三菱商事9倍、丸紅6倍、小松製作所15倍、IHI 18倍、エイベックス16倍、アミューズ8倍などは、PERが高くても許容範囲か、絶対水準が未だ安いと言えます。

1月28日の週から2013年3月期3Q決算の決算発表が本格化します。相場の動き、先行きの見通しとポートフォリオの中味を、一旦再検討しても良い時期ではないかと思われます。

表1:楽天証券投資WEEKLY

グラフ1 日経平均株価:日足

グラフ2 日経平均株価:月足

グラフ3 信用取引評価損益率と日経平均株価

グラフ4 円/ドルレート:日足

マーケットスケジュール

2013年1月28日の週のマーケットスケジュールを概観します。

日本では、1月28日に12月の企業向けサービス価格指数(速報)が公表されます。30日には、12月の大型小売店販売額(速報)が公表されます。31日には、12月の鉱工業生産(速報)が公表されます。

アメリカでは、28日に12月の耐久財受注、29日はFOMCの政策金利が発表されます。S&Pケース・シラー住宅価格指数も公表されます。30日は、4Q(10-12月期)GDP速報値が公表されます。

28日の週は、日米共に重要データの公表が相次ぎます。統計に注意したいと思います。