楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

10月29日の週の日経平均株価は、週初は(ハリケーンの被害も含めた)アメリカ景気、中国景気への不安から軟調に推移したものの、週後半は中国の製造業購買担当者景気指数の改善を材料に円/ユーロが円安に振れ、NYダウが上昇したことで、日経平均は強含む展開になりました。2日金曜日前場の日経平均は100円を越す上昇となっています。

銘柄を見ると、大幅赤字に陥ったパナソニックが、1日にはストップ安にも関わらず買い物を集めました。赤字決算と同時にリストラ策を打ち出したため、それに期待した投資家が多かったようです。東証でも楽天証券でもパナソニックは1日の売買代金1位でした。

同じく売買代金2位のソフトバンクは、上期でNTTドコモを営業利益で抜き、利益で業界首位になったことが評価されたようです。

このように、大幅赤字→大規模リストラ→業績改善と株価反転を狙った買いと、好業績を素直に評価した買いが混在する市場になっています。

信用取引評価損益率を見ると、三市場については、26日段階で13%台となっていますが、楽天証券のそれは、11月1日で7%台を維持しており、前週末よりやや悪化したものの、10月前半に比べれば、個人投資家の投資余力は増加していると思われます。楽天証券の信用買い残は10月19日の直近ボトムから約5%増加しており、個人投資家は慎重に物色を進めていると思われます。

また、30日に日銀の金融政策決定会合で金融緩和継続が発表されました。今回の緩和策の中に、銀行融資の増加分を日銀が長期間低利融資するという基金の創設が盛り込まれており、これが円高修正を可能にするのではないかという観測もあります(11月2日日経2面)。

これまでに出てきた2Q業績はばらつきはありますが、決定的に悪いものよりも、多少下方修正したとしても、将来を評価すべきものが多々含まれています。日経平均の一段高が期待されるところです。

表1:マーケット指標

グラフ1 日経平均株価:日次

グラフ2 信用取引評価損益率と日経平均株価

マーケットスケジュール

11月5日の週のマーケットスケジュールを概観します。

この週の最大のトピックスは、11月6日のアメリカ大統領選挙です(一般有権者による投票日)。現職のオバマ大統領(民主党)か共和党のロムニー氏か、接戦と言われています。新政権成立後の経済政策と対日政策が注目されます。経済対策や増税に対する対応では、似通った面はありますが、正反対の政策も多くなりそうなので、新政権の姿勢が注目されます。また日本は、中国と尖閣諸島を巡って、近い将来武力紛争ないし局地戦争になる可能性もあるため、新政権が中国に対してどういう態度を示すかが注目されます。

これ以外の重要指標は、日本では、6日に9月の機械受注と10月の景気ウォッチャー調査が発表されます。日本の景気の足元が確認できます。

アメリカでは、5日にISM非製造業景況指数、9日に11月のミシガン大学消費者信頼感指数が発表されます。

ユーロ圏では、8日に、イングランド銀行と欧州中央銀行の政策金利が発表されます。

特集:2013年3月期2Q決算速報 2

10月29日の週は、2013年3月期2Q決算のピークでした。先週に続き注目すべきセクターと銘柄を速報します。

自動車、自動車部品

本田技研工業が中国での販売減少などを理由に、通期業績見通しを下方修正しました。営業利益は当初見通しの6,200億円(2012年3月期は2,313億円)から5,200億円に減額されました。ただし、当初見通しがトヨタ自動車や日産自動車に比べて強気過ぎた感があります。アメリカが好調で、アコードの新車が良く売れています。修正後の業績見通しのほうが、こなれた予想という印象を受けました。

ただし、中国に対して、来年になれば中国での販売が回復するという見方は楽観過ぎるでしょう。ホンダは、2010年の中国の反日デモの時に真っ先にターゲットになった会社です。今年1月のタイの洪水では、トヨタ、日産など他社の工場が無傷であったにもかかわらず、ホンダの工場は水浸しになりました。洪水被害にあった地域は毎年中小規模の洪水が起こる地域ですが、ホンダは立地を深く検討しなかったようです。そして今回の中国問題です。ホンダには、複雑な国際情勢を読み解く力が欠けているのかもしれません。

日本、アメリカの四輪車、新興国の二輪車に加え、アメリカで小型ジェットを来年から発売するビジネスモデルには注目すべきものがありますが、中国は今後もホンダにとってネックとなりそうです。

富士重工業も決算を発表しましたが、通期業績予想の上方修正を発表しました。営業利益は期初予想の670億円から820億円に上方修正されました(2012年3月期は440億円)。日本とアメリカでインプレッサが絶好調です。運転支援システム「アイサイト」を搭載した上級車種が良く売れており、利益に貢献しています。また、トヨタと共同開発した「BRZ」の事業が推定で粗利益の10%強を占めるに至っています。

アメリカでのインセンティブ(販売奨励金)が低水準なので、通期ではもう一段の上方修正の可能性がありそうです。

自動車部品では、デンソー、アイシン精機が通期業績見通しを下方修正しました。トヨタの中国販売が9月以降、前年比40%以上減少しているためです。ただし、中国以外の地域は欧州を除き順調なので、早晩中国リスクを克服できると思われます。

民生用電機

ソニー、シャープ、パナソニックが決算を発表しました。パナソニックは、営業増益だったものの、構造改革費用、のれん、無形固定資産の減損、繰延税金資産の取り崩しで2Qの最終赤字が6,980億円となりました。通期でも営業利益は1,400億円の黒字ながら、最終損益は7,650億円の赤字となる見通しです。今は再建の行方を見守るしかありません。

シャープも、2Qは2,491億円の最終赤字となり2Qの1,384億円の赤字から拡大しましたが、これは在庫処分等の構造改革を追加したためです。1Qから2Qにかけてテレビの赤字が大幅に縮小し、液晶の赤字も縮小しており、再建途上ながら、成果が出てきたようです。IGZO技術を使った中小型液晶パネルの亀山第二工場の稼働率も、未だ低水準ながら上昇しているようです。来年以降の社債償還資金を調達する必要がありますが、下期の黒字化が実現できれば、現在協議中のホンハン以外にもスポンサーが現れる可能性もあるでしょう。

ソニーは、税金費用が多かったため(前期までに繰延税金資産に引当金を計上したため、今期は税効果が使えなくなる)、2Qの最終損益は401億円の赤字でしたが、営業利益は365億円(前年比41%増)の黒字でした。テレビの赤字が1Q67億円、2Q101億円と、前年度に比べ大幅に減少したこと、イメージセンサーが好調だったこと、金融部門が好調だったことなどが寄与しました。反面、ゲーム部門が黒字ながら低水準、スマートフォンの普及でデジカメが大きく採算悪化していること、ソニーモバイル(旧ソニー・エリクソン、スマートフォン部門)の赤字が続いていることが今後の課題です。民生用電機の他の2社に比べ、今回は大幅な業績悪化は避けられた格好ですが、今後の成長をどの分野で獲得するかはまだ不明です。

表2 主要企業の2013年3月期2Q決算発表予定日