楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

10月15日の週の日経平均株価は、大幅に上昇しました。週初15日には相場の持続性に懐疑的な向きもあったため、一時8,500円割れに下落しましたが、その後は大きく戻し、18日終値は8,982.86円となり9,000円台目前となりました。

15日の週は、前週から発表されているアメリカ企業の2012年7-9月期決算や、これから発表される日本企業の2013年3月期2Q(7-9月期)決算への期待が先行し、輸出関連中心に買う動きが広がりました。欧州危機が続く中で、情勢悪化の動きが一服したという観測から対ユーロで円が一時1ユーロ=103円台まで売られたことが、輸出株、景気敏感株を買う動きを支援しました。トヨタ自動車、本田技研工業、日産自動車、富士重工業などの自動車、デンソー、アイシン精機などの自動車部品、村田製作所、京セラ、TDK、日本電産などの電子部品、任天堂、カプコンなどのゲーム株などが買われました。

前週末にスプリント買収の報道で急落したソフトバンクは、会社側が買収のために増資はしない方向性を示したため、株式希薄化への懸念が薄れ、15日の週は戻す展開となりました。KDDI、NTTドコモも含め、通信各社の事業戦略と株価が注目されます。

iPS細胞関連も、筆頭株のタカラバイオ中心に底堅い展開となりました。新しい可能性を持った分野だけに、今後も注目されると思われます。

また、中国の7-9月期実質GDPが前年比7.4%増と未だ高い成長率ながら鈍化が続いていることから、中国政府による景気刺激策が期待されました。小松製作所などの中国関連株や、三菱商事、丸紅などの総合商社が買われました。これも、相場の持続性が注目されます。

総合商社株については、総合商社の事業と株価を見る際の中心テーマが変化しています。中国の影響度が大きい鉄鉱石市況を中心とした視点から、世界中で需要が増えている天然ガスと、高騰している穀物など食料事業への投資と関連市況への視点の変化です。会社予想PERは、会社予想が実現するという前提で、4~5倍台であり割安感があります。三菱商事や三井物産のように、天然ガスの世界的プレイヤーでありながら、これまで下落してきた鉄鉱石、原料炭市況も業績を左右する重要ポイントになっている会社がある一方で、丸紅のように事業の重点が市況が堅調な一般炭、石油、天然ガス、銅、アルミと食料になっており、鉄鉱石の商いがないため下方修正リスクが小さい会社もあります。

19日金曜日前場は、日経平均は一時9,000円台に乗せましたが、さすがにこれまで上昇してきた反動と週末要因から利喰い優勢となっています。ただし、来週22日の週は、もう一段の上げも予想されます。9日の週のソフトバンクの大幅安によって、追証が発生した投資家が増えたようですが、同時に、iPS細胞関連が新しい大テーマとして登場しました。アメリカ景気の堅調、対ユーロ円安という好材料もあります。このため、買い手、売り手が新しくなった、手代わりとなった可能性があります。信用取引評価損益率は、10月12日時点で大きくマイナスになっており、この時点で追証発生や、追証回避のための見切り売りが増えたと思われますが、そこで相場がいったん底入れした可能性があります。

また、22日の週から日本企業の2Q決算発表が本格化します。24日に日本電産、ヤフー、KDDI、任天堂など重要な決算があります。このためこの週は、電子部品、自動車部品、通信・インターネット、ゲーム関連が注目される可能性があります。また、アメリカ景気の底堅さを示す経済指標が継続して発表されているため、自動車、自動車部品、電子部品、ゲーム(任天堂、カプコンのような世界展開している伝統的ゲーム会社)の各セクターが持続的に物色される可能性があります。上述のように総合商社へも注目したいと思います。

表1:マーケット指標

グラフ1 日経平均株価:日次

グラフ2 信用取引評価損益率と日経平均株価

マーケットスケジュール

10月22日の週のマーケットスケジュールを概観します。

日本では、22日(月)に9月の貿易統計(通関ベース)が公表されます。中国、韓国、台湾との貿易がどうなっているのか注目されます。

26日(金)には、9月の全国消費者物価指数(総務省)が公表されます。今後の金融政策を見る上で重要な指標です。

アメリカでは、23日(火)、24日(水)にFOMCが開催されます。政策金利の発表は23日の予定です。

続く24日(水)は、9月の米新築住宅販売件数、25日(木)は、9月の耐久財受注、週間新規失業保険申請件数、26日(金)は、2012年第3四半期のGDP速報値、10月のミシガン大学消費者信頼感指数確報値と、重要指標が続きます。

なお、23日(火)は重陽節のため香港市場が休場、26日(金)はハリラヤ・ハジ(メッカ巡礼祭)のためシンガポール市場が休場する予定です。

22日の週は、特に、日本の貿易統計と消費者物価指数、アメリカのFOMC、新築住宅販売件数、耐久財受注、7-9月期GDP速報値が注目されます。この週も株価が動く可能性がある重要指標が多い週となりそうです。

2013年3月期2Qの決算発表予定

今回は主要企業の2013年3月期2Q(7-9月期)決算予定から、2Q決算の見所を探っていきたいと思います。

自動車・自動車部品

自動車、自動車部品は、2Q決算で最も重要なセクターです。アメリカの自動車市場が順調に回復していることが大きな支援材料になっています。アセアンも順調に伸びています。また、海外の自動車メーカーに比べ平均的に経営力が高いことも日本の自動車メーカーの魅力です。トヨタ自動車(決算発表日、11月5日、以下同じ、未記入は未定または不明)、本田技研工業(10月29日)、富士重工業(10月30日)に注目したいと思います。日産自動車(11月6日)については、中国事業の現状がどうなっているのかが注目点です。

自動車部品では、大手2社、デンソー(10月31日)、アイシン精機(10月31日)に注目したいと思います。自動車のエレクトロニクス化とグローバル展開を同時に実行できる自動車部品メーカーは世界でも一握りですが、この2社はその中に入っていると思われます。

電機・電子部品

民生用電機3社、ソニー(11月1日)、パナソニック(10月31日)、シャープ(11月1日)の3社については、ソニーはテレビ事業の損益動向が最も重要なチェック事項ですが、その他のデジタル家電製品の損益がどうなっているのかも、この先どうなるのか、どうするのかという問題につながるため、重要です。同じ意味で、ゲーム、映画、音楽の各事業の動向を確認したいと思います。

パナソニックは、テレビ事業の損益とともに、デジタル家電、白物家電の損益を確認したいと思います。デジタル家電だけでなく、白物家電でもハイアールなど新興国企業の追い上げが急です。

シャープは、年内の資金繰りの目処はついたと報じられましたが、来年の見通しは不透明です。ホンハンとの提携交渉の行方も含めて現状を確認したいと思います。

産業用電機では、日立(10月30日)、東芝(10月31日)のエネルギー関連事業、特に火力発電に関連する事業に注目したいと思います。一方で、このまま脱原発の動きが世界的に拡大するようであれば、原子力事業の減損リスクがクローズアップされる可能性があります。

電子部品は、HDD関連のモーター(日本電産(10月24日))、磁気ヘッド(TDK(10月31日))の動きに注目したいと思います。SSDとの競合、10月26日発売のWindows 8によるパソコンの動きが影響すると思われます。村田製作所(10月31日)、日東電工(10月31日)はスマートフォン向けの動き、京セラ(10月31日)はスマートフォン向けの動きだけでなく、半導体向け、太陽電池の損益が問題になります。電子部品は注目度が高いため、決算の内容次第では株価が動く可能性があります。

ゲーム・エンタテインメント

任天堂(10月24日)の新型ゲーム機(据置機)「Wii U」が11月18日から12月8日にかけて、北米、欧州、日本で順次発売されます。アメリカ景気が回復基調にある中で新型ゲーム機の動きに期待がかかります。ただし、販売環境は厳しいかもしれません。ゲームのライトユーザーは無料のソーシャルゲームや、ジンガやiアプリなどの低価格ゲームにシフトしており、ヘビーユーザーはXbox 360、プレイステーション®3で遊んでいるのが現状です。この状況を覆すには大ヒットしそうな優良ソフトのラインナップを揃えるしかありませんが、それには時間がかかりそうです。Wii Uは期待できなくはないと思われますが、現時点では期待できると言いきることも難しいと思われます。

グリー(11月14日)、ディー・エヌ・エー(11月6日)などの日本型ソーシャルゲームも、月間数万円から10万円以上の高額課金がいつまで続くのか不透明です。日本でもジンガやiアプリがゲームユーザーの間に流行り始めていることに注意したいと思います。

一方で、本格的なゲームへのニーズには根強いものがあります。カプコン(10月31日)の「バイオハザード 6」(10月2日から北米、欧州、日本で順次発売)は会社側の初回出荷が450万本になりました。仮に会社目標の700万本が達成できなくとも、カプコンにはゲームのグローバルプレーヤーとしての実力があることが実証されました。決算で詳細を確認したいと思います。

ゲーム以外のエンタテインメントでは、音楽(エイベックス・グループ・ホールディングス(11月8日))、アミューズ(11月13日))、映画(ソニー、東映)、キャラクターグッズ(サンリオ(10月30日))などの決算に注目したいと思います。映画、音楽のような伝統的エンタテインメントの人気にはこれも根強いものがあります。また、ライブ、舞台などリアル系エンタテインメントへの回帰が起こっているようです。

総合商社・建設機械・プラント関連

総合商社の注目点は上述したとおりです。資源株としての面と、PER、PBRで見た割安さに注目したいと思います。市況が下落している鉄鉱石を扱っていない丸紅(11月1日)と、天然ガスの大手プレイヤーではあるが、鉄鉱石、原料炭の比重が大きいため中国経済減速の影響を受けやすい三菱商事(11月2日)、三井物産(11月2日)、資源と非資源のバランスがよい伊藤忠商事(11月2日)、住友商事(10月31日)の各社で、業績トレンドに変化が現れるかもしれません。

また、鉄鉱石、原料炭の開発が注目されていた時期は、小松製作所(10月30日)、日立建機(10月25日)のような大手建設機械会社、鉱山機械会社が注目されていました。それが、資源開発の重点が天然ガス開発に移っていくにつれて、日揮(11月12日)、千代田化工建設(11月7日)、IHI、三菱重工業(10月31日)のような、プラント会社、プラント関連機器の会社に株式市場の注目が移っています。

ここでも三菱重工業のように原子力事業を抱えている会社は、減損リスクに注意する必要があるでしょう。ただし三菱重工業もIHIも、一方で防衛産業の一角を担っているため、中国との武力紛争の可能性が高くなってきた今、防衛産業での注目度が高くなる可能性があります。

建設・不動産

復興需要が、大手から中堅までの建設会社にどう影響しているのか、2Q決算の一つの焦点です。大林組(11月12日)、大成建設(11月12日)などの大手建設会社、五洋建設(11月9日)、NIPPO(11月5日)、コムシスホールディングス(11月9日)などの中堅建設会社の決算に注目したいと思います。

不動産も重要です。オフィスビル、優良住宅(マンション)の取得に投資家が積極になっています。三菱地所(10月31日)、三井不動産(11月1日)の決算を確認したいと思います。

iPS細胞関連、医療・薬品関連

iPS細胞は医薬や医療機器のあり方を一変させる可能性があります。

タカラバイオ(11月5日)は、2009年3月から独自開発のヒトiPS細胞作製用試薬を販売していますが、2011年7月に京都大学iPS細胞研究所と、臨床試験での使用を目指したiPS細胞作製用プラスミドベクターの製造供給に関する契約を締結しました。また、同研究所にiPS細胞作製に必要なDNAを提供しています。

ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(10月30日)は、iPS細胞を使った人の目の網膜の再生医療のための理化学研究所の研究に参加しています。

医療機器では、島津製作所(11月8日)がiPS細胞から作った治療用細胞の培養装置を開発しました。ニコン(11月1日)は良質なiPS細胞の選別技術をそれぞれ開発しました。

iPS細胞関連ではありませんが、ソニーはオリンパス(11月12日)へ出資します。ソニーにとっては、医療分野拡大の道筋、オリンパスにとっては再建の道筋を確認したいと思います。

医療分野は人の命に関わるだけに参入障壁が高い分野ですが、今後の成長が期待できます。iPS細胞関連事業が本格化すると、大きな変化と成長が期待できるかもしれません。各社とも注目度の高い決算になりそうです。

表2 主要企業の2013年3月期2Q決算発表予定日

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