楽天証券経済研究所所属のアナリスト今中能夫による今週1週間の国内株式市場の情報がつまった週刊レポートです。
今後の相場の見通し、決算発表情報、個別銘柄の短期株価見通しなどを分かりやすく解説しています。

マーケットコメント

10月1日の週の日経平均株価は、週前半は前週に引き続き軟調な展開でした。中国での日本製品の販売減速を嫌気し、電機、自動車など主力輸出株が売られました。中国経済の減速が、鉄鋼、化学などの素材産業や、鉄鉱石、石炭など原材料に及ぼす悪影響も懸念され、素材、商社なども軟調でした。

しかし、3日水曜日のアメリカADP雇用統計(米国の給与計算アウトソーシング会社ADP(オートマティック・データ・プロセッシング社)が発表する雇用調査レポート)が良好でした。また、木曜日に為替相場が円安に振れました。加えて、アメリカ軍が沖縄から尖閣諸島にかけての軍事力を増強していると報じられました。これらのニュースを受けて、4日木曜日の株式市場では、下げすぎた感のある輸出関連企業、自動車、自動車部品、ゲームなどが反発しました。

この結果、4日木曜日の日経平均は前日比77.72円高の8,824.59円となりました。引き続きWii U(日本では12月8日発売、北米では11月18日発売)に期待して任天堂が続伸し、4月以来の11,000円台に乗せました。10月4日発売の「バイオハザード6」に期待してカプコンが4%高となり、NTTのソーシャルゲーム参入のニュース以来、株価が軟調だったディー・エヌ・エー、グリーは、目先の割安感から買われ、各々5%高、4%高となりました。

自動車株も大手から中堅まで上げました。トヨタ自動車、本田技研工業が各々3%高、日産自動車が5%高となるほか、富士重工業、いすゞなどの中堅自動車メーカー、商用車メーカーも物色されました。自動車部品大手のデンソー、アイシン精機も各々5%、3%高となりました。

このほか、金融セクター(三井住友フィナンシャルグループなど)や、先週の本欄で取り上げたアミューズのような内需系の割安小型株も物色されました。

一方で、イー・アクセス買収を発表したソフトバンクは下げました。大林組などの建設株は堅調ではありましたが、小幅高に止まりました。電子部品は、村田製作所、京セラ、TDKが上げた半面、日本電産が下げるなどまちまちでした。日本電産のように中国生産の比重が高すぎる会社は、中国リスクが目先軽減されても警戒されているようです。

5日金曜日前場は、やや動きが鈍くなっていますが、引き続き堅調です。自動車、ゲームセクターが反落していますが、電子部品が物色されています。

楽天証券の売買代金上位銘柄を見ると、ディー・エヌ・エー、グリーの売買代金は相変わらず1位、2位です。シャープは売買代金は多いのですが、株価の動きは止まってきました。再建計画の中身が注目されるところです。本田技研工業、トヨタ自動車はともに中国リスクを意識して売られましたが、上述のように木曜日に反発しました。三井住友フィナンシャルグループ、三菱商事などの重要セクターのトップ企業は、3日水曜日までの下がったところでは出来高が増えていました。割安感から買い向かう向きが増えたようです。

なお、9月28日付けの信用取引評価損益率を見ると、3市場ではマイナス16.78%と前週比2.07%ポイント悪化しました。楽天証券でもマイナス11.14%と、前週比1.35%ポイント悪化しました。この中で、楽天証券の信用買い残は前週比1.8%増と少し増加しました。

これまでの膠着感の強い相場展開が、今後活性化するかどうか、まだ不透明な部分はあります。しかし、野田政権の内閣改造が終わったため、次のステップである解散総選挙への期待がこれから大きくなっていくと思われます。閉塞感を打破するには解散総選挙が必要という意見に筆者も同意します。先週も指摘しましたが、解散総選挙→自民党政権成立というシナリオが、現実的には最も株高に結びつくと思われます。

また、尖閣問題は、中長期的には武力紛争や戦争の可能性はあるものの、短期的には、この方面に対するアメリカの軍事力増強と、それによる対中牽制によって、一旦終息に向かう可能性がでてきました。その場合、PERが十分安くなった輸出株、自動車、電子部品だけでなく、商社などにも妙味が出てきそうです。ただし、中国に対して日米が軍事力を増強している環境では、偶発的な軍事衝突が起り易くなっているため、引き続き警戒は怠れません。

今後の相場展開が注目されます。

表1:マーケット指標

グラフ1 日経平均株価:日次

グラフ2 信用取引評価損益率と日経平均株価

マーケットスケジュール

10月9日の週のマーケットスケジュールを見ます。

まず9日に、日本で9月の景気ウォッチャー調査と8月の国際収支が発表されます。景気ウォッチャー調査は株価を見る時の参考になるため注意が必要です。

10日は、アメリカのベージュブック(アメリカ地区連銀経済報告)が発表されます。これもアメリカ景気を詳しく見るために欠かせない資料です。

11日は、日本で9月18、19日分の日銀金融政策決定会合の議事要旨が公表されます。また、9月の消費動向調査と8月の機械受注が発表されます。アメリカでは、8月の貿易収支と、9月の月次財政収支が発表されます。

12日は、アメリカで10月のミシガン大学消費者信頼感指数(速報値)が発表されます。8月のユーロ圏鉱工業生産も発表されます。

特に、日本の景気ウォッチャー調査、アメリカのベージュブック、ユーロ圏鉱工業生産に注目したいと思います。

セクター分析:自動車セクター

今回は、自動車セクターのレビューをしたいと思います。

日本では9月に日産自動車「ノート」が登録車3位に

9月の日本の新車販売台数は、前年比3.7%減の37万7,737台でした(登録者+軽、乗用車のみ)。東日本大震災による在庫不足の反動で、今年に入って急速に自動車生産が増えてきましたが、その反動があったこと、9月に受付を終了した今回のエコカー補助金の効果が一巡したことなどによります。10月以降は、これまでに比べ国内販売が厳しくなる可能性はあります。ただし、今回のエコカー補助金は、登録者10万円、軽自動車7万円の補助金であり、前回の各々25万円、10万円に比べ少なくなっています。そのため、10月以降は新車投入効果である程度マイナス部分を相殺できると思われます。

日本では登録車の車種別ランキング上位に変動がありました。これまでは、トヨタのプリウスが首位で、トヨタのアクア、ホンダのフィットが2、3番を争う構図でした。それが、9月は1位プリウス2万2,091台、2位アクア2万2,039台に続き、3位が日産のノート(9月に新車発売)になりました。ノートの販売台数が1万8,355台、4位のフィットが1万2,511台(8月は1万2,249台)ですので、フィットがノートに喰われたわけではないと思われます。

これはノートの新車効果が表れたためと思われます。9月に発売されたノートの新車は、欧米やアジアで流行っている「ダウンサイジング」という設計思想を取り入れています。即ち、1,200~1,300CCの小型エンジンにターボチャージャーを付けて、低燃費と高出力を両立させ、かつ低価格を実現するものです。特に独フォルクスワーゲンが全車種にこの技術を取り入れています。日本ではエコカーとしては、ハイブリッドカー、超低燃費車、電気自動車が一般的ですが、日産がいよいよダウンサイジングを搭載してきました。

日本の自動車市場は、国別にみると中国、アメリカに続く世界3位の市場であり、年間400~500万台(乗用車、商用車含む)の比較的安定した市場です。国内生産車にとっては円高リスクが無く、輸入車にとっては高い円で売れる良い市場です。エコカー補助金後の販売環境の中で、ノートがどの程度のシェアを占めるか注目されます。

アメリカはトヨタ、ホンダの好調続く

アメリカは好調です。9月のアメリカ新車販売台数は、前年比12.8%増の118万8,865万台(オートデータによる、商用車を含む)と前月に引き続き順調でした。特に、トヨタ自動車、本田技研工業が好調で、前年比は各々41.5%増、30.9%増でした。現代自動車も23.4%増でした。一方で、日産自動車1.1%減、ゼネラル・モーターズ(GM)1.5%増と、足元で好不調の差が出てきました。

トヨタの北米における好調の要因の一つは、プリウスシリーズが主力車種に育ってきたためです。継続的なガソリン高が低燃費車とハイブリッドカーの需要を刺激したと言えます。昨年までは、カローラ、カムリの2車種が北米におけるトヨタの主力車種でしたが、今年に入ってプリウスC(日本名アクア)を北米で発売してから、カローラ、カムリ、プリウスの3車種が主力になりました。トヨタはグローバル市場で新車投入を活発化させているため、今後も新車効果が期待されます。

本田技研工業も北米での好調が続いています。9月の販売台数は、アコード56.6%増、シビック57.0%増でした。アコード、シビックともに新車効果が出ています。高級車の「アキュラ」ブランドも43.5%増でした。昨年4月に北米で発売した新型シビックは当初は低評価でしたが、マイナーチェンジもあり、今は高い評価を得ています。

海外メーカーでは、韓国の現代自動車(起亜を含む)の高い伸びも続いており、日本メーカーの有力な競争相手になっています。

一方日産自動車は、昨年トヨタ、ホンダが在庫不足の時に伸びた反動が出ています。新車不足の問題もあります。年末から来年にかけて新車がでてくるはずですので、それに期待することになります。

中国問題の行方は不透明

中国の自動車市場は8月までは前年比8%台の成長が続いていますが、シェアの低いメーカー、特に中国の地場メーカー中心に値引きの動きが広がっています。この値引きの動きが日産のような上位メーカーにも広がりつつあります。

このような販売環境で起こった今回の「尖閣紛争」が、自動車販売、ひいては日本製品全体の売れ行きに対して与える悪影響が懸念されます。どの分野でも、中国では競争相手が多いことも影響すると思われます。ちなみに、トヨタの8月の中国での新車販売台数は7万5,300台(前年比15.1%減)でしたが、10月5日付け読売新聞オンライン版は、9月の販売台数が8月の約半分になったと報じました。中堅ではマツダの9月の中国販売台数が前年比34.6%減になりました。

今後、中国リスクの影響を最も受ける可能性がある会社は日産自動車でしょう。2012年1-8月の累計販売台数342万0,523台のうち中国での販売台数は87万1,280台(構成比25.5%)です。同じく累計生産台数は334万8,590台、うち中国は86万7,297台、生産比率は25.9%です。利益への貢献度は生産、販売比率よりも高いと思われます。

次は、本田技研工業です。2012年1-8月の累計生産台数284万0,382台のうち中国生産は46万9,697台(16.5%)です。ただし、中国でホンダ車がヒットしているわけではないため、利益貢献度が生産比率を大きく上回るとは考えにくいです。

トヨタ自動車の場合は、1-8月累計のグローバル生産台数608万4,102台に対して、同時期のトヨタの中国新車販売台数59万6,100台を比べると、比率は9.8%となります(グローバル販売台数は不明)。中国リスクの影響は軽微と言えます。

このように見ると、中国比率の高い日産自動車への投資に対しては、当面は慎重になったほうがよいかもしれません。一方、トヨタは中国リスクの問題は軽微、ホンダも2輪事業を含めて考えると問題はそう大きくはないと思われます。トヨタ、ホンダについては、北米に加えて、アセアン諸国、インド、南米などの中国以外の新興国向けの伸びに期待したいと思います。

自動車部品と、電子部品会社の自動車向け

自動車部品では、デンソーとアイシン精機に注目したいと思います。

デンソーは、ハイブリッドシステム、エンジン制御用のマイコン、上述のダウンサイジング用に開発した小型直噴エンジンなど、新しい分野の製品開発に注力しており、業績への寄与も出ています。トヨタとともに世界展開しているため、日系、外国系問わず、自動車メーカーからの注文にはグローバルで対応できる態勢を持っています。また、富士通セミコンダクター岩手工場(マイコン工場)を買収しました。車の中身が高級車、またはエコカーになるほど、自動車は、半導体、電子部品、モーターの塊になっています。機械的な駆動部品が少なくなっているのです。デンソーはこの動きに早くから対応しています。

アイシン精機も自動車の電子化への対応を急いでいます。日出ハイテックという未上場の半導体設計会社に資本参加しました。また、アイシン精機はオートマチックトランスミッション(AT)の大手ですが、日本とアメリカでは自動車のAT搭載率が95%程度あるのに対し、新興国は5%前後とまだ低いため、今後新興国でAT搭載率の上昇が期待できます。

電子部品メーカーで自動車向けの比率が高い会社にも注目したいと思います。TDKは、HDD向け磁気ヘッドが収益源で、それの属する磁気応用製品がほぼ全ての営業利益を稼ぎ出しています。ただし、自動車向け製品を育成しており、1Qでは売上高の17.5%になっています。まだ構成比は低いですが、今後伸びが期待できます。

また、TDKは希土類(レアアース)磁石の大手ですが、これもレアアースを大量に産出する中国の輸出制限に対応して、レアアースを少なくした高性能磁石の生産を今期末から開始する予定です。また、レアアースを使わない高性能磁石も2~3年後に生産開始すると思われます。いずれも、3~5年後には自動車への搭載が始まると思われます。

表2 TDKの分野別売上高

表3 銘柄データ