NISAは「器」であって「ゴール」ではない

NISAの利用方法について整理をしていくことで「なんとなくNISA」にならないよう前回は「投資金額」をベースとした戦略を少し考えてみました。今回は「投資目的」をベースにNISA戦略を考えてみます。

もともと「投資目的」のない資産運用は「なんとなく投資」になってしまうため、おススメできません。どんなに最低でも「老後資産形成」くらいの目標を掲げるべきです。実際に老後資金準備は十分でないことが多いですし、老後資金準備だと考えると損失許容額も現実的に想定できるようになるからです。

投資目的について「余裕資金」と回答するばかりではなく、きちんと「元本割れの最悪のケースを想定し、リスク管理を行いながら老後資産形成を行う」ことを考えてほしいものです。

さて、NISAも同じで「目的のない投資」「余裕資金でなんとなく投資」をすると、具体的な投資戦略も、売却時の戦術も検討することができません。あくまでNISAは資産形成を行う「器」であって、「ゴール」ではありません。金融機関が仮にNISA口座獲得をゴールとしていたとしても、それは個人の問題ではありません。個人にとってはそこから先にゴールがある、つまり「資産を増やし、何かの目的に用いて初めて運用の意義が生じる」ということを忘れないようにしてください。

NISAの利用目的から投資戦略を整理する

さて、利用シーンを具体的に3つほどあげてみます。教育資金準備、住宅購入資金準備、老後資金準備にNISAがどう使えるか、また注意点はどこか考えてみます。

<教育資金準備>
【投資期間】 子どもが高校入学、大学入学する年度を設定する
【目標金額】 子ども1人あたり高校と大学の7年間で1000万円を要すとされており、最大でNISAで元本500万円+運用益の確保が可能(夫婦でNISA口座を開設すれば2倍の枠を設定することも可能)
【投資戦略】 他に預貯金や学資保険がある場合は、NISA内でリスクを取ってもよく全体でリスク管理を行うこと。運用益に過度に依存しないようにする。また、子どもの入学年度をしっかり意識しリスク管理を行うことが重要。翌年が入学年度になる年は市場の下落に巻き込まれないよう注意する(少し早めに利益確定をしてもいい)。
<住宅購入資金準備>
【投資期間】 住宅購入時点までの期間を設定する
【目標金額】 物件価格の3割以上を頭金とできるとローン返済はぐっとラクになる。NISAの元本500万円+運用益の確保を目指すと1~2割ほどの頭金確保につながるイメージ。夫婦のNISA口座活用も検討に入れていい。
【投資戦略】 住宅購入については、何歳に買うという制約がないので時期を自ら選べるところに最大のメリットがあります。好物件の条件を追求したり、運用の状況がさえない場合は回復を待つなど投資期間を延長することも可能です。しかし返済期間を考えると無制限に先延ばしするわけにもいきません。もちろんNISAの運用期限もあります。
住宅取得を希望する時期について目標をたて、そこまでの間に資金の積立をしっかり行っていくことが重要です。こちらも取得が近づいてきたら利益確定等をはかるなどして、市場の急落の影響を受けないようにする必要があります。
<老後資産形成>
【投資期間】 60歳到達までの期間を設定する
【目標金額】 退職金や企業年金を含めて、3000万円の自己資金があると老後の準備額として一安心とされる。NISAの元本500万円+運用益だけでは全額の準備にはならないが、他の資金準備と併せて備えていく。夫婦のNISA口座2つをフル活用する方法もある。
【投資戦略】 老後資産形成については、現役時代にしかなしえない課題のひとつです。老後に入ってから老後のお金は貯められないと考え、積極的に積み立てる必要があります。もし、住宅購入も実現し、子どもの教育費に一定のメドがたったら、残された時間をにらみながらどんどんお金を貯めていきましょう。
NISAのロールオーバーを使えば最大で10年運用が続けられますので、まずは500万円の運用元本を10年で作るイメージを持ち、可能であればその後も資産を証券口座に移管し運用を継続するなどして、できるだけ取り崩さないことが重要です。

目的が明確なら商品選択と投資期間設定がしやすい

その他、NISAにおいて考えたい運用方針として「商品選択」「投資期間の想定」があります。これも投資目的が明確であれば、NISA活用の戦術が自ずと見えてきます。

投資期間についてですが、NISAの譲渡益非課税については売却時点で終了してしまいます。運用期間は最大5年(投資した年から数えて5年目の年末まで)まで利用できます。ロールオーバーを用いるのであれば10年目まで延長できますし、5年目の年末の価格で証券口座に移せばそこまでの含み益は非課税として、いくらでも運用を継続できます。

基本的には時間がたつほど資産が成長する期間を長く取れますので、投資目的に見合うのであれば、できるだけ長く持ちきるほうがいいでしょう(短期的な調整を気にする場合は、最後の年の後半あたりから売却時期を見るといい)。

商品選択についても、投資目的と自身のリスク許容度に応じて決定していくといいでしょう。具体的な資金ニーズがある場合、個別銘柄を保有するよりは同一アセットクラスについて分散投資を行うほうが大きな元本割れを避けることが可能になります。大きく負けてしまう可能性は、具体的な資金ニーズに対する抵抗力を弱めますので、投資信託を使ったインデックス運用等の選択を考えてみてはどうでしょうか。

NISAを通じた投資術については、実際に動き出した来年以降も何度か取り上げてみたいと思います。最初は「とりあえず開設」でもいいのですが(開設しない人より有意義な行動です)、長い目で見て「なんとなくNISA」ではなく「目的があってNISA」にしていきたいところですね。

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