子の教育資金を運用で稼ぐのは一般に定石とされない
今回はFPのセオリーについて再検証してみたいと思います。テーマは「教育資金の運用はアリか」です。筆者は「部分的にはアリ」の立場ですが、一般に教育資金目的の資金についてリスク資産運用を行うのは御法度とされます。
定石は安全性の高い資金のみで資産形成を行うことです。定期預金の積立はおすすめの定番ですし、保険商品もしばしば推奨されます。こちらは年利換算するとたいして利回りがつかないものの、一応預入額が100%以上戻る設計が多く、死亡時などにはそれ以降の保険料が免除され、払込額以上の保険金を得られたりします。
確かに投資未経験の人が、教育資金を資産運用で確保しようとするのは問題ありかもしれません。しかし、自分の証券口座をもってしっかり資産運用と向かい合っているレベルの個人にとって、本当に「教育資金の運用はNG」なのでしょうか。
今回はなんとなく投資からの脱却について考えるキーワードとして、教育資金と運用について考えてみたいと思います。
教育資金を運用で稼ぐ「御法度」パターンは何か
教育資金を運用で、がありかどうかを検証する前に、「教育資金を運用で稼ぐNGパターン」を先に整理してみたいと思います。そのほうが論点が明確になると考えるからです。
NG1:使用する時期が近いにもかかわらず価格変動リスクが高すぎる
受験費用や入学金、初年度学費に用いる額について、来年の受験時期には必要になるとします。仮に100万円はみておきたいとして、その100万円をリスク資産運用に回しているのは確かにおすすめできません。しかも価格変動のリスクが高い商品で保有すると、たとえば20~30%の下落が生じた際に、必要額が不足するため、子の進路をあきらめてもらうことになってしまいます。これは最悪です。
NG2:運用益に大きく依存しているためリスクが高い運用をしている
企業年金運用の大きな問題点は、運用益に過度に依存したことにありました。たとえば、5.5%の年利を想定すれば、勤続38年のあいだに300万円積み立てると運用益込みで1,000万円の退職金が準備できるほどのインパクトがありました(一定額を積み立てたと仮定した場合)。期間も短いため、複利効果もあまり働きません。同様の運用計画を個人が採用し、資産の7割をリスク資産の運用益に求めるような計画は実行が困難です。
NG3:そもそも投資知識が十分ではない
今までの「教育資金を投資ではNG」の前提となっていたのは、ほとんどの人の投資経験が浅いからです。リスク管理もできない投資の理解も経験もない人が、確かに運用すべきではありません。確かにこれは本質的問題ではありますが、だからといって投資の理解がある人も教育資金を運用で準備することを否定するものではないはずです。
なんとなく投資するからNGではないかと考えてみる
「なんとなく投資」からの脱出が本連載のテーマですが、教育資金は投資はNG、という発想もまた、なんとなく投資の発想から逃れられていないコトが分かります。あるいは、「なんとなく預貯金」という安全神話から脱却できていないともいえます。
なんとなく資産運用することは余裕資金でやる場合にのみ許されるやり方であり、目的のある資金(本来、どんな投資も目的があるはず)の運用においてオススメできることではありません。つまり、きちんと投資を向かい合うことのできる投資家については、教育資金であろうと住宅購入資金であろうと投資をしてもいいはずなのです。
また、教育資金準備は「なんとなく預貯金」の発想は資産管理や運用を目的別に小分けする発想にもとらわれています。封筒にラベルを書いて目的別にお金を入れるのは、家計管理ではありかもしれませんが、運用の管理方法としては非合理的です。公的制度、民間の金融商品が「枠」にお金をしばりつけようとするからこそ、個人は「トータルで資産管理」の意識を持つことが重要です。
トータルでリスク資産の保有割合を意識すれば、意外とリスクウエートが低く、目的が教育資金であっても一部を投資することが可能になってきます。
教育資金を運用で稼ぐための条件は
それでは具体的に「教育資金を運用で」の戦術を考えてみます。
条件1.早く始めて運用期間を長く取る
重要なのは「早くスタート」して運用期間を長く取ることです。教育資金準備最大の利点は資金を使用する時期が誕生日には確定し、計画に織り込めることです。15年後(高校入学)と18年後(大学入学)の時期が遅くなることがあっても、まず早まらないので、運用計画(積立計画)を容易にたてられます。
また、運用期間(積立期間)を長く取ることにより、年度あたりの期待リターンを無理に高めずにすむ点もメリットです。少なくとも、数年の運用で運用額の半分以上を稼ごうとするような非現実的計画はNGです。
条件2.追加拠出(積立)を前提に計画をたてる
運用益に過度に依存する計画がNGである、ということは期待リターンを抑える(かつリスクを抑えることができる)計画を考える必要があります。となれば必然的に定期的な拠出追加を計画する必要が出てきます。目標額の半分以上を積立元本に頼れば、無理な期待リターンを求めずにすみます。
もともと積立定期預金にせよ学資保険にせよ、毎月の引き落とし額に最終受取額の多くを依存しているわけですから、これよりもやや運用益を高くするぐらいで設定すればいいわけです。
条件3.教育資金の全額をリスク運用しない
全額をリスク資産運用に回し、教育資金を確保しようとするほどに元本割れの際のダメージも大きくなります。公的年金レベルのリスクを抑えたポートフォリオ(3分の2が国債)でも、2008年度のような投資環境では-7.57%を記録しています。できれば避けたい元本割れ比率です。
個人の場合、預貯金というアセットクラスがあるのはとても大きなメリットで、元本割れがほぼ生じない(金融機関の破綻を除く)、資産クラスに一定割合をキープすることは運用戦略として大きな意義があります。仮に半分であっても、高校から大学にかけて1,000万円かかるといわれますから、投資額は500万円になります。十分なウエートではないでしょうか。
条件4.国内債券投資(個人向け国債等)を組み入れる
そもそも「教育資金を現物株で」というようなイメージをもつから投資はNGとなるわけです。同じ株式投資でもインデックス型の投資信託を使えば銘柄に依存したリスクを抑えられますし、債券投資も加味することでさらにリスクは抑えられます。このあたりをしっかり検討すれば、無理なくリスクとつきあい資産形成が可能になってきます。
具体的商品としては個人向け国債の妙味を意識してみるといいでしょう。安全性と利回りのバランスを考えれば悪くない選択肢です。もちろん、満期到来が子の入学年度より未来というわけにはいきませんので、どの個人向け国債を利用するとしても、早期利用することがポイントになってきます。
条件5.資金ニーズの3年前くらいから調整を忘れずに行う
最後のポイントは、子の高校入学、大学入学年度のそれぞれ3年くらい前から運用計画の見直しについて意識を高めていくことです。4月になったら資産形成の状況をチェックし、必要に応じて株式投資信託などは利益確定してもいいでしょう。もちろん資産の一部分であって問題ないレベルならギリギリまで保有してもいいですが、リターンが十分得られたのであれば無理をする必要はありません。
もともと、毎年一度くらいは運用状況のチェックをするべきですが、時期が確定しているからこそ、教育資金準備についてはしっかり安定資産へのシフトを行っていくといいでしょう。
さて、「投資で教育資金」についていくつか実行パターンを考えてきました。
ただし、ここまで述べた「投資で教育資金」というアイデアを実行するには大前提があります。それは、自身が選択した運用方法の理解があり、リスク管理ができる、ということです。
上記の5項目について自分なりに計画を検討したり、具体的な投資商品のセレクションができる投資家であれば、「投資で教育資金」にチャレンジする資格があると思います。ぜひ検討してみてください。
「運用で教育資金」がNGの理由
あえて「運用で教育資金」を準備するための戦術
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