失敗は買ってでもせよ、とはいわないが

「若い時の失敗は買ってでもせよ」という金言を述べる人がいます。失敗は成功よりも人を大きく成長させる可能性があるからです。特にビジネスにおいてはよく言われます。成功体験のみですいすい伸びた人材より、失敗を何度か乗り越えてきた雑草タイプの人材のほうが、最終的には大きく育つし、トラブル時にも落ち着いて対処できたりします。

同じことも投資にいえると思います。好調な運用成績を実現してきたものの、実はたまたま相場の高騰に乗っただけという人がいますが、こうした人はオーバーコンフィデンス(自信過剰)の罠にはまっていることが多く、相場の変調に際してもろいことがあります。騰落のどちらも知る人のほうが、投資において強みがあるのは当然のことです。

しかし、失敗が経験として将来に活かせる範囲であればいいのですが、投資の失敗が致命的な損失をこうむることになっては、経験を活かすこともできません。ただ、市場から退場してしまうことにならないよう、上手な失敗の仕方を考える必要があります。

投資指南書は基本的に成功への道筋をアドバイスしてくれます。投資の成功術について学びたければ、いくらでも類書があります。しかし、上手な失敗の仕方を教えてくれる本はあまりないようです。そこで「なんとなく」投資から脱出しようという本連載としてはあえて他では触れられることのない投資の上手な「失敗術」を考えてみたいと思います。

投資失敗術その1: 何よりも投資金額を控えよ

上手な失敗術の第1のポイントは、「投資金額の抑制」です。同じ割合で失敗したとしても、投資金額が多いほど「実額」としての損失が小さくなりますが、これはとても重要なキーワードです。

「経験」としての失敗は金額が小さくても得られますので、初心者がわざわざ金額的ダメージを大きくする必要はありません。大儲けに目がくらむあまり、自分の全財産を注ぎ込んでしまうから、失敗したときのダメージが致命的なものになってしまうわけです。

10万円しか投資をしなければ、基本的に10万円以上の損失は生じません。むしろ、10万円を全損するような投資のほうが難しいはずです。これも、実際に投資してみなければ理解できません。

具体的には、投資経験が浅い段階において、自身が有している資産の10%以上を投資する必要はないと思います。初心者については100万円の資産があったら10万円くらいで株や投資信託を買ってみればいいわけです。

金額ベースで考えるとしたら、最初は10万円以上投資をする必要はないと思います。おそらく失敗した場合は30%くらい損失することになるでしょうが、10万円の投資なら3万円の「勉強料」にとどまります。「今のうちに失敗をしておこう」「授業料として許容できる金額はいくらぐらいか」と考えられる金額を設定してみてください。

投資失敗術その2: 最初から決めつけず、いろいろ試してみよ

投資経験の最初のうちは、いろいろ試してもいいと思います。合理的に考えすぎるとFXや現物株を避けて、インデックス型のETF(あるいは投資信託)になるかもしれませんが、最初から投資の「楽しさ」をダイレクトに味わうための選択肢を狭める必要はありません。

楽しさを味わいつつ、怖さも味わううえでは、現物株やFXは絶好の入門対象です。値動きが早いので、投資がうまくいったときの快感は格別です。そして同時に失敗もするでしょう。おそらく「自分の思うとおりに世の中(相場)は動かない」ということを思い知らされることになるはずです。しかし、それが大事です。

もちろん、仮に失敗しても「失敗術その1」のルールで提示した金額の抑制が利いていれば、失敗の体験は限定されることになるので、心配はありません。現物株式が1日で30%以上下がることはあまりないですし、10万円以下で買える銘柄なら、金額的ダメージも限定的です。FXもレバレッジを低くしておけば、一日で全損することはまずないでしょう。

自分は投資の神様ではないし隠れた投資の才能があるわけでもない、ということを知ったうえで、また投資のアプローチを考えていくのは、悪くはない学習ステップだと思います。

ただし、ひとつひとつの失敗をしっかり意識することが大切です。初めての自転車で、何度も転ぶとき、何も考えずに転ぶのではなく、「どうしたら転ばないのか」考えながら運転したほうが早く上達するように、自分の失敗をきちんと将来の糧にする心構えが大切です。

投資失敗術その3: ポイントやキャッシュバックで経験を買え

最後の「失敗術」は失敗を何か埋め合わせる方法があるなら使おう、というものです。例えば、楽天証券のFXは、随時口座獲得キャンペーンにつき、楽天市場などで使えるポイントをプレゼントするキャンペーンを行っています。これは口座獲得のインセンティブとして提示されているわけですが、初心者にとっては勉強料の一部負担とみることもできます。

筆者は老後資産形成にFXは不要と考えますが、最終的に判断するのは個人ですし、経験としてのFXはしておいたほうがいいと思っています。そのとき、テレビCMでなんとなく信頼感や親しみを覚えて消費者金融のカードを作ることに比べれば、この手の還元策はユーザーにとってよいアプローチです。

例えば、口座開設でポイントをもらった場合、初心者がFX初体験をしていくらか損をしても、ポイント分は損をしないですむといえるからです。金融機関サイドは口座獲得が実現しますので、お互いメリットがあります。金額を限定してチャレンジしてみるのは一考です。

また、証券口座未開設の方については、口座開設についてポイントバックやキャッシュバックのキャンペーンが実施されていることが多く、これも探してみるといいでしょう。

こちらもポイントを得るために無用の売買を行うのでは本末転倒ですが、もらったポイントを売買手数料の分だけ初心者にプレゼントしてもらえたと考え、投資経験を得てみる方法はアリだと思います。

最後はなんだかPRっぽくなってしまいましたが、おそらく避けることのできない投資の失敗を、いくらか穴埋めできればより投資を続けやすくなるわけです。CM予算の一部があなたの勉強料の割引に回ると考えてみるといいでしょう。

初心者の大事な心得: 初心者レートや教習所はないと心得よ!

3つの「失敗術」を紹介しましたが、ポイントは「初心者に優遇レートもなければ、初心者レーンもない」ということです。実際にマーケットで売買を始めれば、誰も初心者を助けてくれません。初心者にゴルフのハンディのような仕組みもありません。

だからこそ、投資初心者は上手な「失敗術」を考える必要があります。自分の経験の浅さに鑑み、自分は失敗する可能性が高いと素直に考えることが大切です。そのうえでできる限り傷を浅くし、かつ経験は蓄積していくことで、投資家として成熟していく方法を考える必要があります。

今回の投資「失敗術」がひとりでも多くの投資初心者が投資家として成熟するための参考になれば幸いです。

投資「失敗術」を考える