公的年金がいつまでも65歳からとは限らない

2013年問題といわれる「厚生年金の65歳への完全引き上げ」が4月からスタートします。これは1953年4月2日以降生まれの男性から、60~61歳までの1年間公的年金が無収入となることです。生年月日で2年ずつ、受給開始年齢は引き上げられ、最終的には1961年4月2日生まれ以降の男性から65歳まで無年金の時代に入ります(女性は5年遅れ実施。ちなみに共済年金を受ける女性は男性と同年で実施)。

65歳まで無年金、というと国の失策だと信じている人が多いでしょうが、それはちょっと違います(公的年金に損得をいうのは幼稚な議論なのですが、この話は他所で何度も話しているので今回は略します。興味のある方は「年金破綻」で検索してみてください)。

もともと「老後の最後の10年くらいは国が収入を保証する」というのが公的年金に期待すべき本来の役割なのですが、長寿化が進みすぎた今、65歳からでも20年くらい年金を受けられる時代になりました。1970年の男性の平均寿命が69歳であったことを考えれば、今の時代にふさわしい年金受け取り開始年齢がもっと高くてもおかしくないことが分かります。1970年代の60歳と、2010年代の60歳では元気さもまったく違うわけですし、働ける世代が税金も保険料も納めず年金生活に入ってしまうことは、経済的にも大きな損失です。

もちろん、本欄でお話したいのは年金改正の話ではありません。「なんとなく投資」を脱却するためにがんばっている皆さんに情報提供してみたいのは「70歳年金受取開始時代」とそれに備えたマネープランです。今後も長寿化が進むのであれば、受給開始年齢が65歳のままであるはずがないと容易に予想がつきます。しかし、いつ頃年齢が引き上げられるか、そのときに備えてどう考えておくべきか、イメージがつかめない人が多いと思います。

具体的な目標が分かれば、皆さんの資産運用には具体的な目標や課題が見えてくるはずです。

老後の準備に際して70歳を意識する時期

世界的にみると、日本はトップクラスの長寿国でありながら、世界でも早く年金を受けられる国のひとつです。日本より早くもらえる国もいくつかありますが、ギリシャのように財政破綻状態に陥った国もありますので、あまりにも早く年金支給開始することは国家財政にも影響を及ぼすと考える必要があります。

OECD加盟国についてはすでに67~68歳から受給開始とする法律改正を行う国が増えており、4割に相当する13カ国はすでに67歳かそれ以上に年齢を引き上げているそうです。67歳への引き上げは、アメリカ、ドイツ、スペインなど、68歳引き上げは、イギリス、アイルランドなど、69歳引き上げはデンマークやイタリアなどが該当します。

こうしてみると、日本より平均寿命が短い国でも年金財政の運営を真剣に考え、特に終身年金を超長期にわたって保証することを考慮し、年金受給開始年齢を引き上げていることが分かります。

なお、こうした引き上げ国についても現在実行済みであるとは限りません。法律改正は行われていますが、これから順次実行に移すところも多くあります。少なくとも、日本も同等の支給開始年齢引き上げは十分に考えられると覚悟するべきです。

2025年には、67~68歳引き上げになる?

厚生労働省の社会保障審議会年金部会や社会保障国民会議などの検討課題として支給開始年齢の引き上げは何度も俎上にのぼっており、少なくとも現行の引き上げ計画が終了することになる2025年までには法律改正が行われ、引き続き67~70歳への引き上げに移ると考えるべきでしょう。前倒しして実施する可能性は、国民に与える影響が大きすぎるので考えにくいと思われます。

となれば、1961年4月2日以降生まれの人は(女性は5年遅れで実施されているが、足並みを揃える可能性が高い)、年金が66歳以降になると覚悟してもいいでしょう。つまり執筆時点で52歳以下の人は気にするべき世代、ということになります。しかし、今から覚悟して備えておけば、時間もなんとか確保でき、準備も不可能ではない世代です。

法律改正の際には一定の経過期間を置くのが年金改正の基本なので、本来は現在で45歳より上の人を対象にすべきではないと思いますが、受給開始年齢の引き上げについては何度も議論が先送りされるので(選挙受けしないため政治家は実行したがらない)、「法律改正されたら考えよう」では準備が間に合わない可能性があります。

むしろ「67歳といわず70歳受給開始に備えて、70歳にならなければその分老後の余裕が出る」と考えたほうがいいでしょう。

老後資金準備への影響をどう考えるか

もし、公的年金が70歳になったとしても、70歳までフルタイムで年収も変わらず働ける時代が来れば、受給開始年齢引き上げの影響はほとんど生じません。むしろ70歳まで老後資産形成が可能という見方もできますし、老後の期間ガ5年短くなる分老後の準備額は少なくなるかもしれません。また、70歳へ支給開始年齢を引き上げると、公的年金水準が回復する可能性もあります。国も支払い年数が5年減る分、毎月あたりの年金額を引き上げて国民に還元する余地が生まれるのです。これは試算が示されるまで確約できませんが可能性は十分にあります。年金の下げ止まりは老後にとってうれしいニュースになるでしょう。

しかし、目の前を見る限り安心できるかは微妙なところです。まず、平均寿命の伸びがさらに進むと、やっぱり老後の年数が増えるため準備額も増えます。国立社会保障・人口問題研究所の資料では現在男性の平均寿命が79.4歳のところ、2050年ごろには84.5歳と推計しているようですから、+5年長生き、という可能性がかなりあります。

また、年金受給開始年齢引き上げ=定年年齢引き上げにならないことは明白です。2025年ごろになんとか65歳定年を実現したとしても、67歳や70歳まで働く条件は今の60~65歳までの継続雇用のようになることでしょう。

今現在、60歳に到達しようとする世代に対して、私は「60~65歳は資産形成する期間に使えないと考える」「むしろこの5年間働くことは、個人資産を取り崩さなくてすむことに意義があり、年収が下がっても大きな価値がある」と説明しています。年金70歳においても同様のことをあてはめれば、「65~70歳は資産形成期間とならない」ということになってきます。

読者の皆さんが50歳未満であれば、「60歳までにいかに老後資金を積み立て、増やすか」がポイントになります。老後の準備額については負担が下がるというより今と同じという可能性が高そうです。今の老後資金準備計画をしっかり実現するべくまい進していくことがポイントです。

また「60~70歳をいかに好条件で働き続けるか」が老後の豊かさの差を生み出すことになるでしょう。継続雇用などで嘱託扱いになると大きく賃金が下がりますが、正社員と変わらぬ賃金のまま働ければ大きな違いになります。キャリア形成や人脈形成についてうまく構築しておくと1,000万円の価値につながるかもしれません。ここも大事なポイントです。

いずれにせよ、改正がぎりぎりまで遅れ、いきなり対象者となる可能性が高いのが年金問題です。老後資金準備については「受給開始年齢が今のまま」ではなく「今より引きあがる」を前提に考えておくことが大切です。

2013年問題どころか70歳年金受給開始を考える時代

70歳年金受け取り開始時代への備え方