なんとなく余裕資金を入れるだけが証券口座ではない

本連載のタイトルに「なんとなく」からの脱出が掲げられていますが、老後資産形成を軸に資産運用を考えることで、何となく資産運用するのではなく、目的にもとづいたステップアップしたものにしていきたいと考えています。

そもそも、あなたの証券口座に入っているお金はどんな理由で入金したものでしょうか。「余裕資金、投資資金を得たので、まとめて入金した」という人が多いのではないかと思います。しかし、なんとなく余裕資金を入金して、ただ運用するだけが証券口座ではありません。

老後資産形成をにらんだとき、証券口座とのつきあい方はどのような方法が考えられるでしょうか。

老後資産確保は「おろさない」ことが必要

老後資産準備に意識を高めて実行していくための条件をいくつか示してきました。毎月定期的な拠出を行うことは重要です。また、リスク商品も活用しながら期待リターンを高める努力もしていかなければなりません。同時に、過度のリスクにならないよう運用方針をコントロールする必要もあります。
「そこまではしっかりやってますよ」という人もいるかもしれません(あまり多くないと思いますが)。

ここまでの条件が整っているのなら、「なんとなく」どころかしっかり運用と向かい合っており、目的意識にあった運用方針を選択しているように見えます。まったくすばらしい生存戦略ですが、実はまだ落とし穴があったりします。

それは「おろすリスク」です。
一般に余裕資金で運用する資産運用においては、「もうかったら、おろして買い物する」という行為がよく行われます。投資をする側にも「これはあぶく銭」という感覚があるのでしょう。家族や恋人にご馳走するためにおろすこともあるでしょうし、高い時計を買うなど自分にご褒美を与える買い物をすることもあるでしょう。

しかし、老後資産形成は「おろさない」ことが重要です。これは「なんとなく」運用から脱皮する際にしっかり考えるべきテーマです。

老後資金は「おろさない」ことで育てていく

老後資産の目指す金額は大きなものです。以前、3,000万円プラスマイナスで自分の老後資産目標を考えるヒントを紹介しましたが、資産形成の途上で1,000万円を超えてくることは当然考えられます。そのとき、これだけの資産を下ろさずになんとなく増やし続けることができるでしょうか。

もちろん用事がない限りはおろすこともないでしょうが、「ボーナス返済の住宅ローン引き落としが近いが、夏のボーナスで車も買ってしまった」「子の教育費が思ったよりかかったが準備が十分でない」「いきなり医療費や介護費用がかかった」などのライフプラン上の事情があったり、「想定以上の値上がり益を手にした」気の緩みからおろすこともあるでしょう。

ライフプラン上の資金ニーズだからと無制限におろしていては、老後資金はそのたびゼロに戻ります。思ったよりペースがいいからと解約をしてはこれも運用環境の悪化時に困ることになります。

老後資産形成は「おろさない」ことで育てていくように仕掛けを考えておきたいところです。

運用口座を分けるか? 商品で分けるか?

それでは具体的なやり方を考えてみます。
老後資産を守り育てていく方法としては「口座そのものを分けてしまう」方法と「同じ口座内で商品を分けていく」方法が考えられます。

A)「口座そのものを分ける」
最初の「口座そのものを分ける」方法は、A証券口座は余裕資金運用、B証券口座は老後資産形成と証券口座そのものを分けてしまう発想です。証券口座を複数もっている個人投資家は多いことと思いますが、売買手数料等の有利だけで口座を選んで、その他は未使用のまま、というのはもったいないと思います。
このとき、売買頻度が少ない老後資産形成用に、証券口座をひとつ区分してしまうのは一つの方法です。
できれば、振込手数料がかからない自動引き落とし(カード決済)で定期的に手元から資金を移動して買い付けができるといいでしょう。積立投資信託などは積極的に検討してみたい商品といえます。
B)「同じ口座内で商品を分けていく」
次の「同じ口座内で商品を分けていく」方法は、証券投資用の口座をいくつも持つことはしないが、一つの口座内で投資目的ごとに商品カテゴリーを分けてみる発想です。
ネット証券の口座をもって、個人の資産運用を行う人は、個別株式やETFをメインに運用を行っている人が多いと思います。もし、投資信託についてあまり利用していないのであれば、「投資信託残高は老後資産作り」として入金・購入すれども解約しないものとするのです。

楽天証券であれば「資産状況-総合ポートフォリオ-商品別資産残高」を見れば、各商品カテゴリーごとの残高が分かります。リスク商品の保有残高はきちんと全体でチェックしつつ、「崩さない、おろさない」カテゴリーとして老後資産枠を作ってみてはどうでしょうか。

非合理的な自分を逆手にとって、口座を使いこなす

目的別に口座を分けたり、資産管理、リスクコントロールを分けてしまうことはメンタルアカウンティングと呼ばれ、非合理的な投資行動のひとつとされます。保険や預貯金とリスク資産とを一体として考えないのは賢い行動とはいえません。

しかし、「トータルでの資産額や資産配分状況」は留意しつつも、口座を分別するのはアリではないかと思います。逆にいえば自分が非合理的な人間、弱い人間であることを認めて、メンタルアカウンティングを資産管理に応用していると考えるのです(私は勝手に「良いメンタルアカウンティング」と命名しています)。

老後資産は取り崩しの誘惑との戦いです。「自分は株を800万円もってるけど、350万円分は老後資金」という管理は難しいのではないでしょうか。
完全に崩せない口座にしてしまう方法もありますが(個人型401kなどは原則60歳まで取り崩し不可)、何があっても崩せないことはやはり使いにくさもあるでしょう。

あえて手元の証券口座で老後の準備を行うためには一工夫が必要だと思います。
自分が非合理的であることと向かい合いつつ、上手に老後資産形成を続けていくために、口座管理の方法を検討してみてはいかがでしょうか。

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