何割くらい元本を積み立て、何割くらい運用に求めるか
老後資金準備については、数千万円を必要とする、そんな話を前回にしました。自分用にカスタマイズしていくと、「私は4500万円くらい欲しい」というような人もいるでしょう。退職金・企業年金を差し引いても結構な金額です。
楽天証券に口座を持っている読者は、全額を積み立てて、せいぜい定期預金の金利しか頼らない、ということは考えていないと思います。
一方で、何割くらいを元本として積み立て、何割くらいを運用益に期待すればいいのか、考えたことのある人はあまり多くないのではないでしょうか。
今回は、老後資金準備という具体的イメージを作る過程で、どれくらいの運用を見込むか検討していきたいと思います。
10万円の元手を1000万円にするような期待はしない
株式投資のスタンスは投資家の自由ですから、どのように高いリスクを取ってもかまいません。しかし、あまりに高い目標リターンを設定すると、その実現性は低くなります。余裕資金で余暇としての運用を楽しんでいるのであればそれでもいいでしょうが、老後資産形成は確実性も必要とします。
例えば、10万円の元本を運用だけで1000万円の老後資金に増やしたいと考えるようなパターンは、目標額の1%を拠出すれば目標が達成できる、ということになります。仮に30年かけてこれを実現しようとする場合、年率で12.9%の利回りを稼ぎ続ける必要があります。「できる」、という人もあるでしょうが、38年間継続するためにはかなり真剣になる必要がありますし、市場環境の問題もあります。これはなかなか難しそうです。
それでは100万円の元本を最初に投下し、30年で1000万円に増やしたいと考えてみます。なんとなく100万円も投下したのだから夢も実現できそうな気がします。目標額の10%を拠出している計算です。しかし、同じ30年で到達することを考えれば、年率6.3%の利回りを稼ぎ続ける必要があります。これもなかなか大変そうです。ただ期待リターンを高めるのではなく、大きく元本割れする事態(例えば資産が半減するような下落)を避けられる運用方針を考えなければならないので、真剣に考えるほど実現は難しいことがわかります。
企業年金運用であれば、4~6割積み立てて、6~4割を稼ぐ
まず、発想の転換を一つしてみます。「運用の原資は運用開始時に一括で出し、その後は追加入金しない」というルールにとらわれない、ということです。むしろ積極的に追加入金することを運用計画上考えてみます。実は追加入金こそが老後資産形成では現実的選択肢になります。
国の年金運用も、企業年金運用においても、運用だけでその目標額を確保していくわけではありません。実はかなりの部分を毎月拠出する保険料や掛金に頼っています。
たとえば、従来の企業年金の予定利率5.5%で、22歳から60歳定年退職まで38年間積立をするとします(実際には若いうちは掛金が低く、中高齢で掛金が高くなるがここでは略す)。その会社の退職金が1000万円であったとすれば、毎月の掛金は6900円、累計でも314万円で1000万円が用意できることになります。つまり、3分の1弱を用意し、3分の2を運用で稼いでいる計算です。
近年では企業年金の予定利率は低めに設定されており、年率2.5~3.5%程度の例が増えていますが、2.5%の場合で先ほどの38年1000万円のモデルであったとすれば、毎月の掛金は13400円、累計で611万円を用意し、1000万円の確保を目指すことになります。この場合は、6割を用意し、4割を運用で稼いでいる計算になります。
いずれにせよ、老後資産形成においては、「いきなりまとまった元本を拠出しにくい」ことと「期待リターンを高めすぎるとリスクも拡大する」ことのバランスを取った計画が必要になります。
元手を運用開始時に一括拠出する必要はない
個人の老後資産形成においても、いきなり200万円くらいを元本拠出して老後資産形成枠を作るのは難しかろうと思います(目標が3000万円以上であれば元本の必要額も増える)。そうなれば、毎月少しずつ拠出して運用元本を追加することが重要です。
また、運用の損失は、単年度で最大でも10~15%にとどめておかないと、その後の運用ノルマが過重なものになります。偏ったリスクテイクには注意が必要です。
であれば、運用に期待する部分を控えめに設定し、毎月の積立で確実に原資を追加し、その実現可能性を高めていくことが重要になります。
どちらも、住宅ローンや教育資金準備などの現役時代の資金ニーズをこなしながら、老後資産形成を同時並行的に行っていくために、必要となってくる運用手法なのです。
資産運用といえば、最初に投入した投資資金をいかに売り買いしながら増やすか、という部分に注目が集まります。しかし、資産運用の選択肢はそればかりではないと考えてみてはいかがでしょうか。
■○年で毎月いくらなら1000万円貯めるか早見表
最後に、積立期間の違いと運用利回りの違いによる、定期積立額を概算した表を掲載して、今回のまとめとしたいと思います。いずれも1000万円の目標を実現するための数字ですから、目標額を2000万円とする場合は2倍に置き換えるように読み替えてください。
当たり前ですが、運用利回りの高いほど、毎月の負担は下がります。また運用期間が長いほど、毎月の負担が下がるわけです。仮に40歳スタートで20年を想定し、2.5%の運用益を考えるなら、1000万円の準備に毎月32000円ほど必要というわけです。
大卒すぐに老後資産形成を始め38年の積立ができれば、負担はずいぶん楽になりますが、実際には30歳あるいは40歳になってからスタートすることが多いと思います。こういう場合は毎月の負担が増えますが、ボーナス拠出の合わせ技を使えば実行可能な場合があります。
例えば前述の「毎月32000円」は無理でも「毎月1.5万円+ボーナスごと10.2万円=年間38.4万円(32000円×12月相当)」というような案配です。運用利回り向上ばかり考えず(それはもちろん重要ですが)、いろいろ工夫してみるといいでしょう。
老後資産準備を「元本」+「運用益」で考える
毎月いくらで1000万円まで増やせるか
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