「全般相場下落の中の新規買い」というリスクにどう対応するか

前回のコラムの最後で、全般相場が軟調な中においては、空売りを活用するのもリスクヘッジの1つの方法であることをお伝えしました。

全般相場が軟調でも、個別銘柄をみると上昇トレンドが続いているものも少なくありませんし、他の銘柄に先駆けて上昇トレンドへの転換を果たす銘柄もあります。

ただ、全般相場が軟調なときは、上昇トレンドに転換した銘柄を新規買いしても、すぐに株価が下がってしまうことがよくあります。

また、3月上旬のように、日経平均株価やTOPIXが一時的に堅調な動きになっても、個別銘柄ごとに値動きがまちまちである場合は、最終的に相場全体が再び軟調な展開になってしまうことがあります。

とはいえ、新規買いを見送った結果、せっかく安値圏で買えたチャンスをみすみす逃す可能性もあります。

そこで、買い銘柄が下落したときのリスクヘッジとして、空売りを活用するのです。下降トレンドにある銘柄を空売りすれば、買い銘柄は上昇、空売り銘柄は下落、という展開が十分に期待できます。仮に買い銘柄が下落しても、空売り銘柄も下落するため、買い銘柄に対する損失をできるだけ少なくすることができます。

もちろん、「空売り」は信用取引を用いて行うものですから、リスクも相応にあります。そこで今回は、できるだけリスクを抑えて空売りを効果的に活用するために筆者が注意している点を紹介していきます。

注意点1 : 値動きの荒い新興市場銘柄はできるだけ避ける

空売りは、下降トレンドが続く値動きの弱い銘柄に対して実行するのが原則ですが、下落を続けていた株価が底打ちすれば、その後急上昇することもよくあります。

新興市場銘柄は、短期間で大きく株価が下がることが多いため、空売りにより利益を得やすい反面、株価が反発を始めるとあっという間に底値から30%、50%と上昇してしまうこともあります。空売りをしたタイミングによっては、買い戻しをすぐに行わなければたちまち損失が拡大してしまいます。

一方、東証1部上場の大型株は、株価の下落スピードがゆっくりのため、空売りで大きく利益を上げることは容易ではありませんが、株価が底打ちをしても上昇スピードが速くないため、落ち着いて買い戻すことができます。

空売りを「下げ相場で利益を積極的に得る」というより「下げ相場で損失を最小限に抑える」ために使うのであれば、不必要なリスクをとるべきではありません。そのためには、流動性が高く、株価の値動きがそれほど大きくない東証1部銘柄を選択するのが正しい方法です。

注意点2 : 1つの銘柄に集中して空売りをしない

空売りに限らず買いにも言えることですが、特定の銘柄に資金を集中させてしまうと、その銘柄に突発的な大材料が生じた場合、株価の急激な変動により大きな損失を被ってしまう危険性が高まります。

例えば、空売りをしている銘柄の1つが業績を大きく上方修正したり、画期的な新製品の開発を発表したりすれば、ストップ高買い気配が続き、買い戻すことができなくなってしまいます。売り建てた株価の2倍以上の水準になってようやく買い戻すことができた、ということも時にはあり得ます。

このとき、仮に20銘柄に資金を分散して空売りをしていたならば、損失は売り建て額の総額の5%ほどで済みます。しかし、1銘柄のみに資金を集中して空売りをしていた場合は、損失は売り建て額の100%に達してしまいます。

こうしたリスクを避けるために、最低でも10銘柄程度に分散して空売りを実行することをお勧めします。とにかく、空売りでは個別銘柄に起因する株価変動リスクをできる限り小さくしておくべきです。やむを得ず1~数銘柄にのみ空売りを実行する場合は、ポジション(売り建て額)をできるだけ小さくするようにしてください。

注意点3 : 上昇トレンドにある銘柄を空売りしない

これも買いの場合と同じです。トレンドに逆らって買ってはならないのと同様、トレンドに逆らって空売りをするのは禁物です。

空売りで失敗する典型的なパターンが、業績が良くないにもかかわらず株価が大きく上昇している銘柄を、「業績が良くないのだから近々大きく株価も下落するだろう」と思って、上昇トレンドお構いなしに空売りするものです。得てして、その後の株価のさらなる上昇で大きな損失を被ってしまいます。

株価が上昇トレンドにあるということは、もしかしたら、業績が今後劇的に改善することを市場が織り込んでいるのかもしれません。自分の知らない事実により株価が上昇している可能性もあるわけですから、単に「この銘柄の株価が上昇するのはおかしい」という理由でトレンドに逆らって空売りをするのはやめましょう。

また、信用売り残高が多い銘柄は、空売りの踏み上げにより株価が急騰するリスクがありますから、こうした銘柄の空売りも避けた方が無難です。

なお、損切り価格が明確に設定できるという条件付きで、上昇トレンドにある銘柄を空売りしてもよい場合があります。具体的には、2番天井をつけたと思われる銘柄を空売りし、2番天井と思われた株価を超えたら(2番天井が否定されたため)損切りするという方法です。

注意点4 : 損切り価格を設定し、損切りを必ず実行する

これも買いの場合と同様です。損切りさえしっかりと行うことができれば、株式投資で大きく失敗することはまず避けられます。

ただし、空売りは信用買いと違い、損失が無限大に拡大するおそれがある点、損切りにはよりシビアにならなければいけません。

例えば、500円の銘柄を信用買いした場合、損失は最大でも1株につき500円(破たんにより価値がゼロになったとき)です。一方、500円の銘柄を空売りして、その株価が2,000円になれば、損失は1株当たり1,500円になります。株価が4,000円になれば損失は1株当たり3,500円になってしまいます。

銘柄によっては短期間に仕手化し、株価が3倍、5倍に上昇するケースもあります。そんな状況で損切りをせずに我慢しておくと、最後には投資資金全額を失ってしまうことにもなりかねませんので十分に注意してください。

筆者は、空売りの場合の損切りラインは25日移動平均線超えや、直近高値超えとすることが多いです。

注意点5 : 株価が短期間に大きく下がっているところをさらに売り叩かない

株価はいつまでも一方向に動き続けるものではなく、ジグザグの波を描きながら上下します。株価が大きく下がっている銘柄をみると、もっと下がるのではないかと思ってしまいがちですが、株価が下がれば下がるほど、反発のリスクが高まっていると考えるべきです。短期間に株価が大きく下がったところを売り叩くと、結果的に底値で空売りすることになってしまう恐れもありますから十分注意しましょう。

筆者は、株価が25日移動平均線より大きくマイナス乖離している銘柄の新規空売りは避けるようにしています。筆者は25日移動平均線超えを損切りラインに設定することが多いため、損切りとなった場合の損失が大きくなってしまう恐れがあるからです。

また、信用評価損益率がマイナス20%に近づくと、市場全体として近々反発が起こる可能性が高まります。そんなときにまで無理に空売りをする必要はありません。

空売りの利益を得るためではなく、買い銘柄のヘッジのために使うのでしたら、反発により損失が生じるリスクが高い状況でわざわざ空売りすることもありません。そこまで株価が下落しているのなら、逆にその後株価が底打ちした際に買い候補とする銘柄の選定をしておく方がよいでしょう。