3回にわたってお伝えしてきた「小規模宅地の特例」も今回で最後です。この特例は、実は遺産分割のトラブルを招きやすいことでも有名です。その理由や対策について考えていきたいと思います。
「小規模宅地の特例」の適用を受けるための条件とは?
小規模宅地の特例の適用を受けるには、要件さえ満たせば何もしなくてもよいかといえば、そうではありません。
特例の適用を受けるためには、相続税の申告書を提出する必要があるのです。たとえ、小規模宅地の特例によって、相続税額がゼロになるとしてもです。
ただし、法定の申告期限である、相続開始から10カ月以内に申告書を提出しなければいけない、ということにはなっていません。申告期限を過ぎてから提出した場合でも特例の適用を受けられます。
いずれにせよ、相続税の申告書を提出することが要件です。非常に多いのが、小規模宅地の特例を適用した結果相続税額がゼロになっている、という方で、「税額がゼロだから申告は必要ないと思って申告していない」というケースです。そんな方は、早めに相続税の申告書を提出するようにしてください。
遺産分割が10カ月以内にできなかったときはどうする?
小規模宅地の特例の適用を受けるには、もう1つ要件があります。それは、小規模宅地の特例の適用を受けようとする土地について、すでに「遺産分割が終わっている」ということです。
相続財産は、遺産分割によって、誰が相続するかを決める必要があります。しかし、遺産分割の話し合いがまとまらないと、遺産分割が1年、2年経っても終わらないことも珍しくありません。
でも、相続税の申告・納税は、相続があってから10カ月以内にしなければなりません。そのとき、遺産分割が終わっていなければ、小規模宅地の特例の適用を受けることができないのです。
ただ、相続後10カ月以内に遺産分割ができなければ、絶対に小規模宅地の特例の適用が受けられないかといえば、そんなことはありません。
相続税の申告の際、「申告期限後3年以内の分割見込書」という書面を一緒に提出しておけば、それから3年以内に遺産分割が終わり、更正の請求をすることで小規模宅地の特例の適用を受けることができます。
そして、3年以内に遺産分割協議がまとまらなかった場合も、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、所轄税務署長の承認を受けた場合は、さらに延長することができます。
小規模宅地の特例を加味した遺産分割がされないケースも多い
実は、遺産分割にまつわるトラブルになりやすいのが、この「小規模宅地の特例」がからむケースなのです。
いま、「相続の専門家」として活動している人たちはたくさんいます。筆者は公認会計士・税理士ですが、そのほか、弁護士、司法書士、行政書士、さらには公的資格を持たない人が民間の資格や相続のアドバイザリーという立場で、相続で困っている人たちの相談にのっています。
ところが、「小規模宅地の特例」は非常に難解かつ奥が深いルールであり、公認会計士・税理士以外の専門家で詳しい知識が備わっている方はほとんどいないのが現状です。
こうした中、税理士以外の専門家が遺産分割についてのアドバイスをすると、「小規模宅地の特例」の観点からの検討がされていないものが多々見受けられます。小規模宅地の特例の適用を受ければ相続税額が大きく減少するにもかかわらず、それを考慮しない遺産分割のアドバイスをしてしまうのです。
相続税の申告書を提出した後に小規模宅地の特例を使うことはできない
例えば、ある土地について相続人A・B・Cのうち、小規模宅地の特例の適用を受ける要件を満たすのは相続人Aがその土地を相続した場合のみだったとします。でも、遺産分割協議により相続人Bがその土地を相続し、相続税の確定申告書を提出した場合、これを撤回することはできないのです。
後になって、Aがその土地を相続する方が税額が1,000万円以上安くなったことが分かっても、相続税の申告をやり直すことはできません。小規模宅地の特例は、納税者の「選択」により適用できるものだからです。
当初の相続税申告を、小規模宅地の特例を「選択しない」という内容で提出してしまえば、それまでなのです。
相続税の軽減か、円満な遺産分割か
もちろん、上記の例で、相続人Aが土地を相続しないと小規模宅地の特例の適用ができない場合であっても、相続人間の話し合いによって、「それでも良いから円満な遺産分割のために、相続人Bがその土地を相続する」と決めるケースもあります。遺産分割は、税額を最小にするために行うのではなく、相続人間で円満に相続財産を引き継ぐことが最大の目的だからです。
それでも、筆者をはじめ専門家としては、考えられる様々なパターンごとにシミュレーションをおこない、税額がどうなるかをお客様にお示ししたうえで、最終的にはどのような遺産分割をするかをお客様ご自身で決定していただくのが正しい姿と思います。
そのとき、どうしても「小規模宅地の特例」の影響を加味しなければ、お客様に正確な判断をしてもらうことができないのです。
適用できるかどうかは必ず公認会計士・税理士に相談を
実は、「小規模宅地の特例」は、非常に奥が深いもので、これだけを取り上げた分厚い1冊の本もたくさんあるくらいです。
しかし、一般にネット等で出回っている小規模宅地の特例についての情報は、そのうちのほんの一部分、代表的なものにとどまります。
そのため、そうした情報をもとにご自身だけで小規模宅地の特例を適用できるかを判断すると、非常に危険です。適用できるものと思っていたはずが、後日税務署から指摘を受け、莫大な税金を払うはめになった、というケースも少なくありません。
無用なトラブルを回避するためには、公認会計士・税理士に相談し、土地を誰が相続するかで税額がどのくらい変わるのかを、シミュレーションしてもらい、それを参考にしながら遺産分割協議をすることを、強くお勧めします。
なお、税理士登録をしている専門家以外が、小規模宅地の特例をはじめ、税金に関する個別的な相談に応じることは、法律により禁じられていますのでご注意ください。
<おしらせ>
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