株価は「業績」ではなく「需給」で決まる

株式投資を始めたばかりの個人投資家の方は、株価が「業績」で決まると思っている方も多いのではないでしょうか。つまり、業績の良い会社の株価は上昇し、業績の悪い会社の株価は下落する、というものです。でも、それは半分正解、半分不正解です。

世の中値段のつくものは、すべて需要と供給の力関係で成り立ちます。買いたい人(需要)が多ければ値段は上がりますし、逆に売りたい人(供給)が多ければ値段は下がります。

ただ、株式の場合は、値段(株価)がある程度業績とリンクします。その結果、好業績の会社の株は多くの投資家が欲しがるために株価が上昇し、業績の良くない会社の株は投資家から敬遠されるため株価が下落するのです。

ですから、金融不安など株式市場にとって大きなマイナスとなる出来事が起こり、「株式など危なっかしくて持っていられない」、と多くの投資家が思えば、いくら業績がよい会社の株でも株価が上がるどころか逆に下がってしまうこともあります。

需要には2種類ある

株式市場において、需要には大きく分けて2種類あります。それは「実需(じつじゅ)」と「仮需(かりじゅ)」です。

実需は、その株が欲しい、長期間持っていたいという理由からの需要です。長期保有目的での買いや、企業支配目的での株の買い集め、企業間の株の持ち合いなどは実需によるものです。そして、実需は基本的に「買ったら長期間持ち続ける」という傾向があります。

一方、仮需は、価格の変動により利益を得るための手段としてその株を買う、というものです。ですから別にその株がどうしても欲しい、というのではなく、極論をすれば株でなくとも為替でも債券でも商品先物でも、利益が得られそうなものであれば何でもよいのです。そして、仮需は「保有する期間が実需よりもかなり短い」という特徴があります。

個人投資家の株式売買でいえば、現物取引が「実需」、信用取引が「仮需」に該当します。

個人投資家がフォローしておきたい2つの「仮需」

仮需の中でも最も株式市場に与える影響が大きいのが「裁定買い」と「信用買い」です。どちらも、比較的短期間で反対売買による決済が行われるため、将来の売り圧力となります。

「裁定買い」は、いわゆるサヤ取りのことで、先物が現物株より割高になったとき、現物株を買い、先物を売ることをいいます。裁定買いが行われた後、先物が割高である状態が解消されると、利益確定のため現物株を売って先物を買い戻す「裁定解消売り」が行われます。株価が下落する局面ではこの裁定解消売りが生じやすくなり、これが株価下落に拍車をかけます。

「信用買い」は、主に個人投資家が信用取引を使って株を買うことです。信用取引を分かりやすく言えば、証券会社からお金を借りて株取引をすることです。信用取引には期日があり、原則6カ月以内に反対売買で決済しなければなりません。特に株価が下落して含み損が膨らんでくると、それ以上の損失拡大を防ごうと信用買いの返済売りが集中し、これも株価下落に拍車をかける要因の1つです。

「信用買い」や「裁定買い」が積みあがると、将来の反対売買によって短期的に株価が大きく下がる恐れがあります。ただし、反対売買による売り圧力を吸収できるだけの実需買いがあれば別です。株価の長期上昇局面では、裁定買いや信用買いが積みあがっても株価が大きく下がらないことが多いのは、そうした理由によるものと考えられます。

5月23日に起こった株価急落の際は、信用買い残高や裁定買い残高が大きく積みあがっていました。また、過去の株価の値動きをみても、信用買い残高や裁定買い残高が積みあがると、その後株価が大きく下落することが良く起こります。信用買い残高や裁定買い残高の動向はぜひフォローしておきましょう。

長期のトレンドが下降トレンドに転換したら実需売りを警戒

仮需は比較的短期間のうちに反対売買をして決済する必要がありますので、仮需が株価に影響を与える期間はそれほど長くありません。そのため、仮需は日足チャートや週足チャート(特に前者)に大きな影響を与えます。

一方、実需は基本的に長期間保有する目的で株を買うので、その株価への影響は長期間に及びます。よって、実需は月足チャートに大きな影響を与えます。

もう少し分かりやすく言えば、例えば昨年11月以降のアベノミクス相場では外国人が10兆円以上買い越していますが、このように実需の買いが続いているようなときには、月足チャートは上昇トレンドが続きます。その中で、仮需の影響により、5月下旬以降の急落時のように、週足チャートや日足チャートでは一時的に下降トレンドになることがあります。

注意すべきは、足元で下落が起きたときです。それが仮需によるものなのか、実需によるものなのか、その時点ではまだ分かりません。ただ、実需は長期の株価に影響を及ぼしますから、例えばそれまで月足チャートでみて上昇トレンドだったものが、下降トレンドに転じたならば、実需の買いが弱まり、逆に実需の売りが増えてきたサインと考えて、十分に警戒すべきといえます。