多額の含み益を有するならば一旦の売却が税金面では有利か

以前のコラムにて、上場株式等の譲渡益に対する税率が引き上げられることをご説明しました。となると、「含み益のある銘柄を一旦売却して益出しし、再び買い直すのが税金面から有利なのではないか」、という点が頭に浮かびます。

そこで、実際に今年中に「一旦売却→買い直し」をした方が良いのか、簡単な事例を使って考えてみたいと思います。

例えば、100万円で取得した株が今年の年末に500万円まで値上がりし、さらに3年後にその2倍の1,000万円まで値上がりした、というケースを考えます。<ケース1-1>

今年の年末に一旦500万円で売却し、再び500万円で買い直して3年後に売却した場合(1)と、今年は売却せず3年後に売却した場合(2)とで、税金は次のようになります。(注.実際には復興特別所得税も加算されますが、端数が出てしまい説明が分かりにくくなるため、本稿では省略します。)

<ケース1-1>

(1)今年中に一旦売却→買い直し
・今年:(500万円-100万円)×10%=40万円
・3年後:(1,000万円-500万円)×20%=100万円
 合計:140万円

(2)今年は売却せず
・今年:ゼロ
・3年後:(1,000万円-100万円)×20%=180万円
 合計:180万円

このように、含み益がある銘柄で、今後も株価が上昇していくのであれば、「今年中に一旦売却→買い直し」の方が税金面で有利になります。

来年以降株価が大きく下落してしまった場合は?

では、上のケースで、3年後に1,000万円ではなく200万円まで下落してしまった場合はどうなるでしょうか。<ケース2>

<ケース2>

今年中に一旦売却→買い直し
・今年:(500万円-100万円)×10%=40万円
・3年後:ゼロ
 合計:40万円(ただし300万円分の譲渡損失が生じる)

(2)今年は売却せず
・今年:ゼロ
・3年後:(200万円-100万円)×20%=20万円
 合計:20万円

このように、本年中に売却→買い直しをしない(2)の方が税金は安く済みます。ただし、(1)では300万円分の譲渡損失が生じますから、他に譲渡益や配当金があればそれと相殺することで、最大300万円×20%=60万円の節税効果が見込めます。この節税効果を享受することができれば、実質的に(2)よりも(1)の方が有利となります。

売却額と同額を買い直さないと「手取り収入額」が減少する?

実は、1つ問題になりうる点があります。今年中に一旦売却した場合、当然譲渡益に対する税金を支払わなければなりません。買い直しをする際、この分の資金を賄えるかどうかで、「税金」ではなく「手取り収入額」の面からみて異なる結果になることがあるのです。

<ケース1-1>において、今年中に一旦売却して買い直しをした場合、税金として差し引かれる40万円分につき、自己資金を追加することができなければ、500万円ではなく460万円しか買い直せないことになります。

そこで、買い直しの額が500万円でなく460万円で、その3年後に株価が2倍の920万円になったケースを考えてみます。<ケース1-2>

<ケース1-2>

・今年:(500万円-100万円)×10%=40万円
・3年後:(920万円-460万円)×20%=92万円
 合計:132万円

税金の額でみると、<ケース1-1>で、本年中に売却をしない場合(2)の税額180万円より安く済みますから、買い直し時に税金分が目減りしてしまっても問題ないように思います。

ところが、税金を差し引いて手元に残る額で比較してみると、新たな事実がみえてきます。

<ケース1-1>で本年中に一旦売却・買い直しを実行した場合(1)の最終的な手取り収入額は、「1,000万円-140万円=860万円」です。一方、本年中に売却しない場合(2)は「1,000万円-180万円=820万円」です。

これに対し、<ケース1-2>で一旦売却・買い直しを実行した場合、最終的な手取り収入額は「920万円-132万円=788万円」となり、<ケース1-1>で売却をしない場合(2)よりも少なくなってしまうのです。

(結論)今年中の一旦の益出しが有利かどうかは現時点の含み益と来年以降の株価次第

おそらく、ケースバイケースで結果はさまざまだと思いますが、買い直しの際に税金支払いによる目減り分を自己資金から補充することができるならば、一旦売却・買い直しを実行する方が有利、それができないならば、一旦売却・買い直しをしない方が有利となりそうです。

結局、今年の時点での含み益の状況、来年以降に売却するまでの株価の動向などにより結論が異なるため、一旦売却して買い直しをした方が有利かどうかは一概には言えないのが現実です。

したがって、来年以降の税金アップの影響はあまり深く考えずに、いつもどおりご自身で決めたルールに従って売買をしていけばよいのではないか、というのが筆者の結論です。