投資手法によりNISAへの評価は大きく異なる

 FP(ファイナンシャル・プランナー)はじめ専門家の方々のNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)に関するコラムは少なくありませんが、多くは「諸手を挙げて賛成」というスタンスのようです。

 賛成派に共通するのは、「長期分散投資」「バイ・アンド・ホールド」を是とし、それこそが資産運用の王道である、という考え方を持っているという点です。

 しかし筆者は日本株で「長期分散投資」「バイ・アンド・ホールド」の投資を実践するのはあまりにもリスクが高いと感じています。そこで、長期分散投資賛成派とは異なる視点でNISAのメリット・デメリットを考えていきます。

 実は、筆者が本コラムで一貫して主張し、かつ実践している「トレンドに従った個別銘柄の売買」「必要に応じて損切り」という投資手法では、NISAの非課税メリットを享受しづらく、逆にデメリットの面が目立ってしまうのです。

 NISAが使い勝手の良い素晴らしい制度なのかどうか、それは個人投資家それぞれの投資手法によって大きく異なるというのが筆者の感想です。

 

NISAのメリット・売却益・配当金が非課税となる

 何と言っても、NISAのメリットは、売却益および配当金にかかる税金が非課税となる、この1点につきます。

 ですから、このメリットを最大限生かすような方法を考えるべきでしょう。言い換えれば、売却益や配当金をできるだけ大きくするような方法です。

 配当金の面から考えれば、配当利回りが高い銘柄やREIT(リート:不動産投資信託)などに投資する、売却益の面から考えれば高成長で今後株価の大きな上昇が期待できる銘柄に投資する、といったものです。あるいは、株価2ケタのいわゆるボロ株を仕込み、株価10倍、20倍を狙うという一攫千金スタイルも考えられます。

 突発的な事件・事故などで株価が暴落して明らかに割安になった銘柄を買い仕込む、というのも有効でしょう。ただし、株価暴落は毎年起こるわけではないのでこれだけを狙っていると非課税枠を使えずじまいというリスクもありますが。

NISAのデメリット(1)売却損は切り捨てられてしまう

 NISAは、売却益や配当金・分配金が非課税となる一方、売却損は切り捨てられてしまいます。そして、NISA口座以外の一般口座や特定口座で生じた売却益や配当金などとNISA口座の売却損を損益通算することもできません。筆者がNISAの使い勝手が良くないと感じている理由の1つはここにあります。

 株を買うときは、株価が将来上昇する、という見込みがあるから買うわけです。ところが、現実には見込み違いが結構起こります。業績絶好調、将来性抜群の銘柄や、どう見ても株価が割安と思われる銘柄の株価が下がり続ける、ということも珍しくありません。

 株式投資では、見込み違いが起こったときにどう行動するかで投資成果が大きく異なります。仮に、そのまま保有を続けていれば、もちろん株価が上昇に転じることもありますが、株価の下落が続いて塩漬け株になってしまう危険性が高まります。

 塩漬けを避けるために、適切なタイミングで損切りを実行するのが筆者が推奨する投資手法ですが、NISA口座では損切りによる売却損が切り捨てられてしまう……なんとも悩ましいところです。

 損切りを回避するには、見込み違いをできるだけ少なくする必要がありますが、それにはよほどしっかりしたファンダメンタル分析ができる個人投資家でないと難しいと思います。

 

NISAのデメリット(2)売却しても非課税枠は復活しない

 筆者がNISAの使い勝手が良くないと感じている最大の理由がこの点です。

 例えば、2018年にNISA口座に預け入れた120万円分の株式を2018年中にすべて売却しても、120万円分の非課税枠が復活することはありません。非課税枠の使用は1回限りです。

 筆者が提唱・実践する「トレンドに従った売買」では、上昇トレンド転換で買い、上昇トレンドが続く限りは保有しますが、下降トレンドに転換したら売却します。

トレンドに従った売買では短期(日足)もしくは中期(週足)のトレンドに従うことになりますが、トレンドは結構頻繁に転換します。

 そのため、NISA口座で個別銘柄を買っても、トレンドが転換したら売却せざるを得ないのです。もし買った1週間後にトレンドが下降トレンドに転換すれば、それでも売るしかありません。

 でも、NISA口座で保有する株式は、売却してしまうとその分の非課税枠は復活しません。売却のチャンスは一度きりなのです。

 下降トレンドへの転換による売却が利食いで終わればまだよいですが、損切りで終わった場合は、売却損は切り捨てられ、さらに非課税枠も使用済みになってしまいます。それなら通常の口座で売買した方がよほどまし、ということになりかねません。

 しかし、税制面の優遇措置があることを理由に投資手法をゆがめる(例えば下降トレンド転換や損切り基準に抵触しても持ち続ける)ことには筆者は反対です。

「売却益・配当金が非課税となる」「一度売却したらその分の非課税枠は消滅」「売却損は切り捨て」という特徴から、NISAは長期保有を前提とした制度であることがよくわかります。

 でも、せっかくの税制優遇ですから、できれば筆者も有効活用したいと思っています。そこで、次回は、デメリットをなんとか最小限に抑え、メリットをできるだけ享受できるような投資法を考えてみたいと思います。

※このレポートは、2018年7月18日のレポートをトウシル編集チームがデータなどを一部修正したものです。