前回に引き続き、5月下旬から続いた株価下落につき、筆者自身が思ったことを書き連ねていきます。

株価が急落するとき、最もダメージを被りやすいのは信用買いをしている個人投資家です。今回は、信用買いについて筆者が気になっていることを中心に書いていきたいと思います。

下降トレンド途中での信用新規買いは厳禁なのだが…

5月23日の株価急落の直後は、まだ上昇トレンドが保たれていた個別銘柄も多かったので、押し目買いという選択肢もありました。しかし、その場合でも、その後のさらなる株価下落により上昇トレンドがストップ(株価の25日移動平均線割れ)した段階で、すぐに損切りする必要があったのです。

特に信用取引は、返済期日が6カ月と決まっていますから(制度信用取引の場合)、現物取引のように株価が下がったら塩漬け覚悟で持ち続ける、という選択肢が取れません。ですから、トレンドに逆らった売買は絶対にしてはいけません。

ところが、今回の株価下落局面における信用買い残高の推移をみると、これだけ株価が大きく下落したにも関わらず、ほとんど減っていないのです。

もちろん、信用取引で高値掴みした個人投資家からの投げ売りも相当数出ているはずで、これが株価下落に拍車をかけたのは事実です。その一方で、今回の株価急落を絶好の押し目と思って、下降トレンドにもかかわらず買い向かった個人投資家がかなりいることが分かります。

高値で掴んだ信用買いはまず助けてもらえない

株価が上昇トレンドにあり、株価調整が一時的で下落幅も浅いものならば、高値掴みした信用買いであっても持ち続けることで買値を上回ってきます。昨年11月中旬から今年5月中旬まではそうした状況でした。

ところが、ひとたび株価が大きな調整をみせると、高値掴みをした信用買いが取り残されてしまいます。筆者の今までの経験上、この状態で、取り残された信用買いが助かる(つまり6カ月以内に買値付近まで株価が戻ってくれる)ことはまずありません。

もしプロの投資家なら、株価が上がれば高値掴みの信用買いの返済売りが山ほど控えているという最悪の需給環境の中で積極的に買い進めようとは思わないでしょう。信用買いの投げ売りが済んで需給が大きく改善してから買いたいと考えるはずです。

このため、通常は、高値掴みの信用買いの含み損が膨らみ、投げ売りが出尽くして信用買い残高が大きく減少して初めて、次の本格的な株価上昇が訪れます。

実際、本コラム執筆時点(6月30日)では、日経平均株価こそ6月13日の安値を下回っていないものの、個人投資家に人気の高いバイオ株やゲーム関連株などが多いマザーズ市場の値動きを示すマザーズ指数は、6月26日から6月27日の朝にかけて急落、先の安値を大きく割り込んでしまった銘柄が多数見受けられます。こうした銘柄は、個人投資家が信用取引で買い下がっているためにまともな反発もできぬままさらに下げてしまったのです。彼らがさらなる株価下落で投げ売りして信用買い残高が減るか、誰か大口の買いが出現しない限りは本格的な反発は難しいと思います。

筆者は、このまま信用買い残高が減らない状態が続くならば、信用取引の期日が近づく秋ごろにかけて再び株価が大きく下落して、信用買いが総投げさせられるような厳しい局面がやってくるのではないかと危惧しています。もちろん相場に絶対はありませんからどうなるかは分かりませんが、トレンドに従った売買と損切りの実行さえしていれば何も心配はいりません。

やはり上昇トレンド初期に買うのが圧倒的有利

麻生副総理・財務金融相は6月14日の記者会見で、下落が続く日経平均株価について「政権交代前は8千円台だったのが、今は1万2千円台だから5割も上がっている」と、アベノミクスによる株高効果を強調しました。

4月初めの日銀による異次元金融緩和発表前の水準にまで株価が下がってしまった点については、「もっと上がると思って損したのはその人たちの感性の問題で、その責任までこちらに言われてもどうにもならない」と話しました。

確かにその通りで間違ったことは何も言っていません。でもこの発言を違和感なくやり過ごせるのは、日経平均株価が8,000円台~10,000円程度だった昨年11月中旬~年末に日本株を買うことができた投資家だけでしょう。日経平均株価が14,000円、15,000円になってから日本株を買った個人投資家も大勢いるはずですが、今回の株価下落でそうした人たちは大きな損失や含み損を抱えてしまっています。

確かに、株式投資を始めたのが今年の4月、5月という方は、すでに株価がかなり上昇した状態で買わざるを得なかったわけですから、今回の株価下落は厳しかったと思います。でも、今回の株価下落で、ほぼ全ての銘柄が日足チャートでみて下降トレンドに転じました。ということは、これが再び上昇トレンドに転じて間もない時期に買えば、上昇トレンド初期に買うことができるのです。

政府が意識するのはあくまでも「日経平均株価」

上記の麻生副総理の発言に関連して、1つ覚えておくとよいことがあります。それは、政府が意識する日本株の株価というのは、各個別銘柄ではなく、あくまでも「日経平均株価」であるという点です。また、株式投資を行っていない日本国民にとっても、日本株といえば「日経平均株価」のことです。

先にも少し触れましたが、日経平均株価は6月13日の安値を守っている一方、バイオ関連株を筆頭に個人投資家に人気の高い個別銘柄は安値更新を続けボロボロに売り叩かれているのが現実です。

仮に今後日経平均株価が15,000円、16,000円と上昇していっても、そうした個別銘柄の中には全然株価が戻らないものもあるかもしれません。それでも、日経平均株価さえ上がっていれば、安倍政権は評価されることになります。

個別銘柄に投資するからには、常に銘柄ごとのトレンドを重視する必要があります。今後日経平均株価が上昇トレンドに転じたとしても、個別銘柄が上昇トレンドに転じることのない限り、その銘柄は手出しするべきではありません。ひとたびトレンドが変われば、高値から5分の1、10分の1まであっという間に転がり落ちる、これが株の厳しさです。

アベノミクス相場は終わったのか? -専門家の意見を聞くと逆に混乱する

ここまで大きく日本株の株価が下がってくると、アベノミクス相場による株高は終わったのかどうか、という議論が再び白熱してきます。

参議院選挙を控えた各野党にとっても、足元の株安は、アベノミクスが掛け声倒れだとして安倍政権を批判する格好の材料となります。また、アベノミクスの効果に懐疑的な見解を以前より示しているエコノミストや評論家は、ここぞとばかりに語気を強めるでしょう。一方で、まだまだアベノミクス相場は終わっていない、とする専門家も大勢います。

筆者も、参考にしているエコノミストや評論家の方は何人かいますが、アベノミクスによる日本株上昇が終わったのか、今後も続くのかについては見解が分かれています。

専門家の見解が二分されるような事柄については、複数の見解を聞けば聞くほどかえって頭が混乱してしまいます。

専門家やプロの見解を参考にするのは結構ですが、投資成果は全て自分自身に跳ね返ってきます。最終的にはやはり「株価は株価に聞け」の格言どおり、株価のトレンドに従った投資行動をすることが、失敗を避けるために非常に有効です。

もう1つ、日経ヴェリタス272号(5月26日発刊)の記事によると、日経平均株価が大きく下落した5月23日の直後、市場関係者にアンケートをとったところ、全員が株価下落は一時的で軽い調整にとどまると回答しました。ところが結果はそうはなりませんでした。このように、専門家やプロの意見が一致したときは要注意です。マーケットとは不思議なもので、皆が同じように考えると、それとは逆の方向に向かうものです。こうした特徴も覚えておいて損はないでしょう。