先週に相場環境が急変しましたので、当初予定と内容を変更しております。第183回コラムの続編(その2)については、次回以降に掲載させていただきます。ご了承下さい。

たった2日間で2,000円の下落をみせた日経平均株価

5月23日、24日の日本株は、それまでの株価上昇から一転、突然の急落となりました。5月23日の下落率7.3%は、歴代10位の記録です。23日は、午前中に15,942円60銭まで上昇したものの、そこから急速に下落に転じ、14,483円98銭まで下がりました。高値からの下落幅は1,458円62銭にもなりました。翌24日も、前場は前日の反動もあり、株価は大きく上昇していたものの、後場に入ると突然下落をはじめ、一時14,000円割れまで下落、その後は600円以上の反発と、ジェットコースターに乗っているような目まぐるしい動きを見せました。23日の高値15,492円60銭から24日の安値13,981円52銭までの下落幅はなんと1,961円08銭に達しました。

ニュースの解説では、株価急落の原因は、中国の経済指標の悪化を受けたものとされていますが、それだけの理由で株価が歴代10位の記録をつけるような下落をすることはありません。実態は、日経平均先物を買い続けていたヘッジファンドの利益確定売りに、裁定解消売りや信用買いの投げ売り、高速自動売買(アルゴリズム)などが加わった結果だと考えられます。

ただ、私たち個人投資家にとって重要なのは、株価急落の原因を知ることではなく、株価急落が起こったとき、できるだけ被害を最小限にして乗り切るように対策・行動をすることなのです。

相場の過熱感は異常なほどに高まり続けていた

実は、今回の株価急落は、「起こるべくして起こった」ともいえます。11月中旬以降、日本株には調整らしい調整がありませんでした。そして、日本株の過熱を示すシグナルがいくつも表れていました。例えば「日経平均株価の200日移動平均線からの大幅な上方乖離」「バブル期をはるかに上回る株価の上昇スピード」「裁定買い残が大きく積みあがる」「信用買い残の増加が続く」「信用評価損益率のプラスが続く」といったものです。

今回の株価急落は、「裁定買い残」と「信用買い残」が大きく影響したものと思われます。

裁定買い残が積みあがると、その後大規模な裁定解消売りが出やすくなります。今回のように、先物主導で株価が急速に下がりだすと、裁定解消売りが誘発され株価の下落に拍車がかかります。それに信用買いの投げ売りやアルゴリズムも加わって、短期間の急落となるのです。

もし、株価がここまで上昇してしまう前に調整局面が訪れていれば、信用買い残も裁定買い残も大きく積みあがっていなかったため、もうすこしマイルドな株価の下げ方になっていたでしょう。とはいえ、筆者としては、株価が大きく下げてくれて良かったと思っています。まともな下落もないまま株価がさらに上昇し続けていたなら、下手をするとバブルとなり、バブル崩壊後の株価下落はこんなものでは済まなくなってしまうからです。

株価急落による個人投資家への影響は?

多くの個人投資家は押し目を待っていたものの全然押し目が来ないため、仕方なく高値を買い上がっていました。そこに突然今回の急落が起きたため、かなりの損失を被りました。

また、信用買いを限度枠いっぱいに行っていた個人投資家の中には、株価急落で追い証発生や強制決済を余儀なくされた人も少なくないようです。

信用取引では、株価下落で含み損が膨らみ、証拠金が足りなくなると、強制決済されてしまいます。そのため、長期戦に持ち込むことができません。一方、現物取引であれば、仮に高値で買ってしまっても、損切りせずに含み損を覚悟で持ち続けることは可能です。
でも、そのような行動をいつまでも続けていると、株価が長期下落相場に転じた場合、含み損が膨らんでしまい身動きがとれなくなりかねません。

筆者自身、アベノミクス上昇相場がこれで終わるとは思っていませんが、相場に絶対はありません。上昇相場がいつ終わっても良いように行動することが重要です。

筆者はこの株価急落にどう対処したか

さすがに筆者も2日間の株価急落で、安く買った持ち株の含み益は減少しましたし、最近買った銘柄については買値より株価が下がってしまったものもありました。

筆者は、今回の急落が起こるより前に上昇トレンドが終了していた一部の銘柄は、すでに半分をヘッジ目的の空売りないしは売却(空売りのできない銘柄)していました。

それ以外の、急落前に上昇トレンドだった銘柄のうち、急落により上昇トレンドが終了した可能性のあるものについては半分をヘッジ空売りもしくは売却しました。急落後も上昇トレンドを維持しているものはそのまま保有しています。

また、最近買った買値の高いものについては、損切り含め一旦売却し、買いポジションを縮小しました。

上記の結果、株価急落前のピーク時に比べると、ヘッジ空売りをネットした実質的な持ち株は40%程度にまで減らしました。

なお、上昇トレンドがストップした銘柄の持ち株全部ではなく半分のみをヘッジ空売りもしくは売却したのは、筆者個人的にはまだまだこんなところではアベノミクス相場は終了しないと思っているからです。基本的には強気なのですが、もしものことを考えて、半分は守っておこう、という意図です。

今後も起こりうる突然の急落を乗り切るために

株式投資を続ける限り、突然の急落はこれからも何度も訪れます。したがって、株価急落を乗り切るために、次のような点に注意したいものです。

  • できるだけ上昇トレンドの初期に安く買うようにする
    今回の株価急落でも、上昇相場の初期に買ったものであれば、含み益が減る程度で、損失を被ることは少なかったはずです。急落しても損失が生じなければ、冷静に対応することができます。精神面から考えても、やはり株はできるだけ安く買うのが有利です。

  • 相場に過熱感があるときに買いポジションをどんどん積上げないようにする
    今回の株価急落に至る直前には、様々な指標が過熱感を示していました。強い相場であれば、過熱感をものともせず上昇を続けるものなのですが、それでもいつかは調整局面が訪れます。やがてくる調整局面に備えて、ある程度の買い余力は残しておくべきです。

  • 損切り、ポジション調整の徹底
    株価急落が起こったら、特に高値で積み増したような持ち株は一旦売却し、身を軽くしておき、さらに株価が下がってもダメージが大きくならないようにしておくのが有効です。
    また、信用取引の買い建て玉はできるだけ小さくしておくべきですし、損切りも徹底して行う必要があります。短期間の株価急落で最も被害を受けるのは、限度枠一杯に信用買いをしている個人投資家だからです。

  • 突発的な下落にはプットオプションの買いも有効
    今回の株価急落は、場中に大きな値下がりが始まりましたから、損切りやポジション調整はしやすかった方です。しかし、大地震や海外発の突発的悪材料などが生じた場合、日本株は値がつかず、損切りやポジション縮小しようにも売るに売れない、ということも起こりえます。
    そんな時に備えて、保険としてプットオプションを買っておくのも有効です。

急落後の新規買いはどうするか?

実は、筆者とは別の意味で、今回の急落を待ち望んでいた個人投資家も多かったようです。それは、今までの半年間続いた上昇局面で日本株を買い遅れたり、買い損なっていた人たちです。今までろくな調整局面がありませんでしたから、やっと買うチャンスが巡ってきたのです。

また、上昇初期に持ち株を売ってしまい、その後のさらなる株価上昇をただ眺めているしかなかった方も、安く買い直すことができると喜んでいることでしょう。

ただ、新規買いのタイミングについてはくれぐれも注意すべきです。ひとたび株価が急落すると、「ボラティリティ(変動率)」の高い状態がしばらく続き、株価は乱高下しやすくなるからです。下手をすると、新規買い→損切り→新規買い→損切り・・・と株価の激しい変動に完全に翻弄されてしまうことになりかねません。

筆者であれば、基本的に新規買いは株価の乱高下が収まってからと考えています。そして、今回の株価急落を経てもなお上昇トレンドにある銘柄は新規買いの対象、上昇トレンドがストップしてしまった銘柄については再度上昇トレンドに戻ってから新規買い、とします。仮に下降トレンドの中を買い向かうことがあれば、直近の安値を下回ったら損切りとするなど、損失を限定するように心がけます。

緊急レポート掲載により、5月30日の連載は休載いたします。次回は6月6日配信予定です。