日経平均株価15,000円乗せの裏で個人投資家好みの新興市場銘柄は軒並み急落!

今年初めのコラムにて、2013年の日経平均株価の高値予想を15,000円としました。当時、そこまでの高値予想をしていた専門家はほとんどいませんでしたから、私自身、なかなか思い切った予想をしたと思っていましたが、何と5カ月足らずで日経平均株価は15,000円の大台に達してしまいました。これ以上日経平均株価が上昇すると、私の超強気予想もあえなく撃沈と相成ってしまいます。

しかし、先週(5月13日~17日)は、日経平均株価こそ15,000円乗せで堅調だった一方、新興市場銘柄やその他金融株など、個人投資家好みの銘柄が軒並み急落しました。マザーズ指数は5月15日と16日のたった2日間で、一時20%以上も急落、なかには信用取引で大きな損失を被った人もいたようです。

この新興市場銘柄等の急落の原因となったのが、Jトラスト(8508)が発表したライツ・オファリングであるとされています。

5月14日の日本経済新聞朝刊に、Jトラストのライツ・オファリング実施観測記事が掲載、同日の大引け後に会社側も正式にライツ・オファリング実施を発表しました。

5月14日は新聞記事を受けて朝方から株価は軟調に推移、一時ストップ安まで下落しました。翌15日は会社の正式発表を受け再びストップ安、16日も一時大きく値下がりし、結局5月13日の終値からたった3日間でJトラスト株は一時40%以上も下落しました。

ライツ・オファリングを一言で言えば「株主向けの有償増資」

ライツ・オファリングについては、本コラムでも以前説明しましたが、まだまだなじみが薄い制度のため、個人投資家の多くが仕組みもわからず混乱しているようです。詳しくは該当回のコラムや、ライツ・オファリング実施企業のHPなどをご覧いただきたいのですが、簡単には「株主を対象とした有償増資」です。

増資の多くは、個人投資家が割り当て対象となっていないため、発行済株式数の増加により、持ち株割合が希薄化してしまうのがデメリットでした。ライツ・オファリングでは、既存株主に対し、持ち株数に応じて均等に新株を割り当てるため、新株の権利行使さえすれば持ち株割合の希薄化が起こらないというメリットがあります。

今回のJトラストのライツ・オファリングは、5月30日時点の株主に対して1株につき1個の新株予約権を付与し、1株当たり1,800円を払い込むことにより新株が取得できる、というものです。新株を取得したくない場合、新株予約権を市場で売却することも可能です。逆に、5月30日時点の株主でなくとも、新株予約権を市場で購入して権利行使することもできます。

1株当たり利益の希薄化の懸念は増資資金をどう活用できるかで異なる

ただし、新株発行により発行済株式数は増加しますから、1株当たり利益はどうしても減少してしまいます。Jトラストの場合、新株予約権全てが行使されれば発行済株式数は2倍になります。そのため、希薄化により1株当たり利益が半分になってしまうことを懸念した投資家の投げ売りが殺到した結果、株価が急落したと考えられます。

しかし、よく考えてみれば分かることですが、1株当たり利益が半分になってしまうのは、増資により集められた資金が何も利益を生み出さない場合です。会社側は、増資により得られた資金はM&Aなどに使うとされていますから、これにより得られる利益を考えれば、1株当たり利益が半分になってしまうことは恐らくないと想像できるはずです。

ただ、増資により得られた資金によって、どれくらいの利益を得ることができるかを、正確に予想することができないのが非常に悩ましいところです。

現在(増資前)の利益の2倍の利益をあげられるなら、1株当たり利益の希薄化はないことになりますし、3倍の利益をあげられるとすれば、1株当たり利益は希薄化するどころか逆に増加します。そのように考える投資家からすれば、今の株価急落はまさにバーゲンセールということになるのでしょう。逆に、現在の利益の1.5倍程度の利益しかあげられないなら、1株当たり利益は25%希薄化することになるため、足元の株価下落は納得のいくものとなるはずです。

いずれにせよ損失の拡大を防ぐ手立ては常に必要

こうしたことから、会社が増資により得る資金をどれだけ有効活用して、利益をあげることができるかを株主や投資家自身が考えて、投資判断をしなければならないといえます。本来なら上記の他、1株当たり純資産に与える影響や、ROE(自己資本利益率)に与える影響なども加味した上で判断する必要があり、個人投資家にとっては正直言って超難解です。

通常時であれば、将来の業績を予想して株価が上昇するかどうか判断するとともに、株価チャートから他の投資家の動向をさぐり、株価のトレンドが弱いようなら一旦撤退、という行動も可能です。

ところが、今回のJトラストの場合は、個人投資家自身、ただでさえ適切な判断が非常に難しい中で、株価の下落スピードが速すぎたこともあり、半ばパニック的な売りが生じてしまったのでしょう。それでも、筆者としては、下降トレンドに転換するなどして売却・損切りルールに抵触したなら一旦売却し、その後上昇トレンドに再び転じたら買いなおすなど、損失を不用意に拡大させないための方策は常に必要だと思っています。

ライツ・オファリングで信用取引の買い建て玉の扱いはどうなる

ところで、信用取引の投げ売りが急落の一因となったといわれていますが、これもライツ・オファリングによって、信用取引の建て玉にどのような影響があるかわからない個人投資家からの売りが膨らんだためと思われます。そこで、特に信用取引を行う個人投資家の方は、いざというときパニックにならないよう、ライツ・オファリングによる影響につきあらかじめ頭に入れておくべきでしょう。

まず、制度信用取引における買い建て玉については、権利落ち後も引き続き保有が可能ですが、新株予約権の付与は行われず、証券金融会社が行う権利入札による新株予約権の売却代金が建て玉の価格から差し引かれます。

一般信用取引(無期限信用取引)の買い建て玉の扱いは、証券会社により異なりますが、権利付最終日までの決済を求めるケースが多いようです。この場合、決済時に現引きをすれば、新株予約権が付与されることになります。通常の決済では当然ながら新株予約権は付与されません。

銘柄や証券会社により取り扱いが異なる場合があります。詳しくは、お取引されている各証券会社へお問い合わせされることをお勧めします。

限度枠いっぱいの無理をした信用取引は株価急落時には命取り

なお、今回の新興市場銘柄等の急落は、Jトラスト株のライツ・オファリングにより、1株当たり当期純利益などの希薄化をはじめとした悪影響を懸念した投資家の売りによる株価急落が、Jトラスト株を信用買いしていた個人投資家の損失拡大を招き、それがJトラスト株のみならず、彼らが信用買いをする他の銘柄への投げ売りへとスパイラル的に発展したのが一因と考えられます。

株価が大きく上昇していればするほど、株価が下落に転じた時の下落幅は大きくなる傾向にあります。特に、新興市場銘柄など、値動きの大きさで個人投資家に人気の高い銘柄は、軒並み株価が大きく上昇していましたから、いつ短期間での急落が起こっても不思議のない状況にありました。

したがって、信用取引を行う個人投資家の方は、今回のような株価急落がいつ起こってもおかしくないことを肝に銘じ、もし株価急落が起こったら速やかに損切りするなど、損失の拡大を抑えるようにしましょう。その上で、取引限度枠一杯に信用取引をするような無理をしないよう、十分に注意してください。