大赤字の決算発表後ストップ高に駆け上がった日本写真印刷株

前回のコラムでは、四半期決算では「累計額」ではなく「四半期ごとの数字」が重要であることをお話ししました。今回はその点を踏まえた「事例研究」として、四半期決算短信で開示される業績データの活用法をご紹介したいと思います。

具体的な銘柄として日本写真印刷(7915)を取り上げ、この会社の株価がなぜ決算発表を受けて大きく上昇したのかを探っていきます。

まず、第3四半期決算短信で発表された、日本写真印刷の売上高・各利益をご覧ください(単位は百万円、△はマイナス。以下同じ)。

  当期 前期
売上高 64,367 63,415
営業利益 △5,033 △6,665
経常利益 △4,272 △6,861
四半期純利益 △4,869 △22,176

この数字をみて皆さんはどのように感じますか? 「売上高は前期と比べて横ばい、利益は前期より赤字額が減ったとはいえ、まだ50億円近くの赤字が出ている。この業績を見る限り、とても投資対象にはできないな。」というのが実感ではないでしょうか。

ところが、この決算が発表された2月8日の翌営業日である2月12日、株価はストップ高にまで駆け上がったのです。

大赤字の決算なのになぜ? と不思議に思う方も多いでしょう。でもその疑問は、第1四半期から第3四半期の各四半期決算短信を少し読みほぐすことで解消していきます。

第1四半期決算から順にチェック

四半期決算短信に掲載されている業績の数値は、期首から四半期決算日までの「累計額」です。したがって、上記の日本写真印刷の第3四半期決算短信の業績数値は、平成24年4月~12月までの累計です。

でも、企業は四半期ごとに決算発表をしているわけですから、各四半期ごとの業績がどのようになっているか、知ることができます。

ただし、各四半期決算短信では累計額が表示されていますから、少し加工が必要になってきます。

まず、第1四半期決算短信では、4月~6月の3カ月間の累計額が記載されていますので、そのまま使うことができます。

第1四半期決算短信で発表された4~6月の業績をみてみましょう。

  当期 前期
売上高 16,336 22,504
営業利益 △2,923 △1,911
経常利益 △3,304 △1,936
四半期純利益 △3,484 △1,432

売上高は前期より大きく減少、赤字額も前期より拡大しており、いいところがありません。業績面からは、投資対象とするにはちょっと厳しそうですね。

第2四半期決算からは「累計額」ではなく「3カ月間」の数字を求める

次に、第2四半期決算短信で発表された、4月~9月の6カ月間の業績の累計額をみてみましょう。

  当期 前期
売上高 36,486 44,087
営業利益 △5,080 △4,181
経常利益 △5,870 △4,808
四半期純利益 △6,320 △19,603

相変わらず、売上高は前期より減少、営業損失や経常損失も前期より拡大し、投資対象にはなりにくい感じです。

では、7月~9月の3カ月間の業績はどうだったのでしょうか。それには、第2四半期決算短信の数値から第1四半期決算短信の数値を差し引いたものを計算すればよいのです。計算した結果が下記です。

  当期 前期
売上高 20,150 21,583
営業利益 △2,157 △2,270
経常利益 △2,566 △2,872
四半期純利益 △2,836 △18,171

この数値をよく見ると、第1四半期より売上は増加、赤字は少し縮小しているのが分かります。また、前年同期と比べても、売上の減少は小幅にとどまり、営業損失や経常損失は少しだけですが改善していることが読み取れます。

第3四半期の「3カ月間」の業績はどうか

そして、10月~12月の3カ月間の業績です。これは、第3四半期決算短信の数値から第2四半期決算短信の数値を差し引けば求められます。

  当期 前期
売上高 27,881 19,328
営業利益 47 △2,484
経常利益 1,598 △2,053
四半期純利益 1,451 △2,573

どうでしょうか。第2四半期に比べて売上は大きく増加、そして利益は黒字に転換しています。前期と比べても同様に売上大幅増、利益は黒字転換となっています。

つまり、日本写真印刷は第3四半期になって業績が大きく改善していることが読み取れます。ここまで分かれば、第3四半期決算発表を受けて同社がストップ高の株価まで買い進まれたことも納得がいくのではないでしょうか。

株価が買われやすくなる要因 ~空売りの買い戻しによる「踏み上げ」

ただし、日本写真印刷には株価が上昇しやすい特殊事情があったことも事実です。それは、信用売り残(=空売り残)が多く残っていたという点です。

同社の信用買い・信用売り残高の推移は以下のようになっています。

  売り残(株) 買い残(株) 信用倍率(倍)
11月9日 425,600 632,700 1.49
11月16日 1,336,100 554,700 0.42
11月22日 1,662,800 549,400 0.33
11月30日 1,754,400 600,100 0.34
(途中省略)      
2月1日 1,154,300 564,800 0.49
2月8日 1,146,200 462,300 0.40
2月15日 1,189,700 441,600 0.37

(出典:ヤフーファイナンス)

これをみると、11月16日以降急激に信用売り残が増え、その後は信用買い残より信用売り残が多い状態が続いていることが分かります。

確かに多少業績回復の芽は出てきたとはいえ、この株価はちょっと高すぎるのではないか、と思う投資家もいるようで、彼らの中には将来株価が下落すると見込んで実際に空売りを仕掛ける投資家も少なくないのです。

一方、空売りは将来買い戻しをする必要があるため、「潜在的な買い需要」となります。日本写真印刷には大量の信用売り残が残っていましたから、第3四半期決算発表により業績回復が鮮明となったことを受け、空売りの買い戻しに加え、「踏み上げ」を狙った買い仕掛けも入ったことにより、株価がストップ高になるまで買い進まれたというわけです。

4月下旬から5月中旬には、3月決算企業の本決算が発表されます。その際も、年間の累計額だけでなく「1月~3月」の売上や利益を計算して、その前の四半期や前年同期と比べて業績がどのように変化しているのかをチェックするとよいと思います。