「割安」だからといって直ちに買われるものではない

今回は前回の続きとして、株式投資の実践でPERをどのように活用していけばよいか、筆者なりの具体的な考え方をご紹介したいと思います。

株式投資の入門書では、「PERが低いほど株価は割安なので買い」と説明されているのが一般的です。ところが今の日本株をみると、PERが低い銘柄であふれかえっています。

万年低PER株の代表格が商社株です。商社株は商品市況に業績が左右されるため、将来への業績の不確実性からPERが常に低くなっているものと思われます。

それでも商社株の足元の業績は好調なものが多く、例えば丸紅(8002)のPER約5倍の株価はどうみても割安と筆者も思います。

しかし株価チャートをみると、1年間で丸紅株は多少上昇したものの20%程度、今年の夏以降は株価500円~550円付近を行ったり来たりしています。三菱商事(8058)は春先に一時上昇したものの、現在は年初の水準まで戻ってしまいました。

このように、いくらPERが低くても、株価がほとんど上昇しない、投資した時期によっては下手をすると下落してしまう期間が何年にも及ぶことさえあるのです。

どんなに割安でも株価のトレンドに逆らってはならない

このように、前回説明したPERの計算式の前提上、単純に「高PER=株価割高=株価下落」「低PER=株価割安=株価上昇」、とはいかないことをまずはご理解ください。

したがって、PERで判断すればどんなに株価が割高に見えても、はなから無視するのではなく、今後の利益成長が期待でき、かつ株価が上昇トレンドにあるのなら乗ってみるのも一手です。例えばエムスリー(2413)は2010年初めごろから長期的に上昇を続けています。11月30日現在のPERは約45倍と高いにもかかわらず、長期的な上昇トレンドが崩れるような気配は今のところありません。

逆に、PERからみてどんなに株価が割安に思えたとしても、株価のトレンドに逆らって売買してはならない、もし逆らって買うとその後大きな値下がりに見舞われることにもなりかねない、という点は肝に銘じるべきです。

低PERとなっている銘柄には、何らかの理由があります。考えられるものとしては

(1) 今後の業績が会社発表より相当悪くなることを市場参加者が予想している

(2) 景気や商品市況、為替などで業績が大きく変動する企業・業種である

(3) 日本株マーケット全体が低迷しているため買い手不在で割安に放置されている

PERを見ただけでは、低PERに放置されている理由が上記の(1)~(3)のいずれかを見分けることは困難です。時には(1)~(3)の複数の理由が複合していることもあります。

高PER銘柄を高PERという理由で見送った結果その銘柄の株価が上昇してしまったとしても、機会損失にとどまり実際に損失を被ることはありません。

しかし、低PER銘柄を低PERという理由だけで株価のトレンドもチェックせずに買ってしまうと、その後の株価の大きな下落で実際に多額の損失を被ってしまう可能性もあります。

それだけに、低PER銘柄への投資は株価のトレンドを見極めた上で慎重に行う必要があるのです。

投資対象とすべき低PER銘柄の見つけ方と投資タイミング

では、低PER銘柄を見つけた場合、どういうタイミングで投資すればよいのでしょうか。

例えば住宅メーカーやマンション開発・販売業者などは、時にPER2倍や3倍といった極めて割安といえる状態になることがあります。

こんなときは、まず直近の決算期の業績や来期の予想をみて、売上や利益が伸びているかどうかを確認しましょう。

そして、株価チャートをチェックして、できれば上昇トレンドに転換して間もない時点で買いに入ります。

実際、2008年秋のリーマンショックによる株価大暴落時には、業績が大きく落ち込んだ住宅メーカーは、PER2倍、3倍の水準まで株価が叩き売られました。しかしその後業績が回復すると、株価は大きく上昇しました。

それでも株価上昇終盤時のPERはせいぜい7~8倍程度ですから、やはり住宅メーカーは業績が安定しない(不動産市況や景気に業績が大きく左右される)ため万年低PERを余儀なくされているのでしょう。

でも、万年低PER銘柄であっても、しっかり利益をあげ、利益が年々増加しており、かつPERが2倍、3倍という割安な水準になれば、上昇トレンドへの転換を待った上でという条件で、さすがに買っていくべきでしょう。

確かに低PER銘柄への投資は正しいことだが…

実は、過去の株価の動きを検証すると、低PERの銘柄であればあるほど、投資成果が高いというデータもあります。その点からは、低PER銘柄への投資は正しいことではあります。でも、やはり投資にはタイミングがあります。

長期低迷から未だ抜け出せていない今の日本株ではPER1ケタ台の低PER銘柄がゴロゴロしています。まずはご自身で低PER銘柄をピックアップし、その中から今後増益が期待できそうなものを会社四季報などを使って投資対象候補としましょう。そして株価チャートを定期的にチェックして上昇トレンドになったら実際に投資する、これが筆者の考える、大ケガせずに低PER銘柄で成果を上げる方法です。