配当をもらっただけなのに突然多額の損失が発生!

前回は資本剰余金からの配当につきその概要を説明しました。今回はその続編として、資本剰余金からの配当を行った会社の中で際立って特徴的な1stホールディングス(3644)の事例をもとに、注意点をご説明していきたいと思います。

1stホールディングスが実施した資本剰余金からの配当はかなりの驚きがありました。なんと純資産減少割合が「0.736」、つまり純資産の73.6%相当を配当金として支払ったのです。純資産減少割合は0.1未満であるケースがほとんどなのですが、本例はダントツに高い値です。

これによりどのようなことが起こるかといえば、「多額のみなし譲渡損の発生」です。

1stホールディングス株の事例で確認

1stホールディングス社のホームページに掲載されている事例をもとに確認してみましょう。

1stホールディングスが実施した資本剰余金からの配当は、配当金が1株当たり11円58銭、純資産減少割合は0.736です。

1株500円で1,000株購入していた場合、取得価額は500円×1,000株=500,000円ですね。

資本剰余金の配当があったことによる純資産減少割合が「0.736」ですから、この割合だけ取得価額を減額しなければなりません。

500,000円×0.736=368,000円を減額しますから、新しい取得価額は500,000円-368,000円=132,000円となります。

次に、みなし譲渡損益を計算します。1株当たりの配当金は11円58銭なので、保有株1,000株ならば11,580円が配当金、これが収入金額です。これに対する取得価額は、上記で減額した368,000円ですから、みなし譲渡損益は11,580円-368,000円=△356,420円、つまり356,420円の譲渡損になります。

以上から、1,000株500円で買った取得価額500,000円の1stホールディングス株は、資本剰余金からの配当があった後は以下のようになります。

新取得価額:132,000円 (368,000円減少)
みなし譲渡損:356,420円 (配当金11,580円-減額した取得価額368,000円)

500円で買った株を500円で売ったのに多額の譲渡益が!

仮に1,000株500円で買った当株を、資本剰余金からの配当があった後の平成23年12月に当初の取得価額と同じ500円※1で売却したとします。特定口座の場合はすでに取得価額の減額が行われ、500,000円ではなく132,000円になっているので、500,000円-132,000円=368,000円の譲渡益が発生します。買った価格と売った価格が同じはずなのに368,000円の譲渡益が生じてしまうのです。

そのため、確定申告時にみなし譲渡損について何もしないと、上記の368,000円の譲渡益がまるまる課税対象となってしまいます。

そこで、特定口座の譲渡損益につき確定申告するとともに、みなし譲渡損356,420円を一般口座による譲渡所得として申告します。これにより課税対象を368,000円-356,420円=11,580円とすることができます。

ただし、源泉徴収ありの特定口座の場合は、特定口座の譲渡益を確定申告したことにより、他の税金や社会保険料等に影響し、かえって損をするケースもありますのでご注意ください。

一般口座の場合もみなし譲渡損を譲渡所得として申告すれば同様の結果になります。なお、一般口座ではみなし譲渡損の計算だけでなく取得価額の調整も自身で行う必要があります。

※1 実際には平成23年12月には500円の株価はついていませんが、説明の便宜上取得価額と売却額を一致させる必要があるため500円で売却したものとしています

売却時期によってはみなし譲渡損が譲渡益と相殺できないことも

譲渡益とみなし譲渡損が相殺できるうちに売却するケースはまだ良いのですが、譲渡損の繰り越しは期間が3年間と決まっています。平成23年に生じたみなし譲渡損を譲渡益と相殺できるのは平成26年までです。そのため、例えば4年後の平成27年に500円で1,000株売却したような場合は、みなし譲渡損と譲渡益が相殺できないため、368,000円の譲渡益全額に課税されてしまうことになります。

このように、売却時期によっては、みなし譲渡損をその後の譲渡益と相殺することができず、結果として株主が余計な税金を払わざるを得ないことにもなりかねません。

利益剰余金が潤沢にある会社なら資本剰余金からの配当はまずない

以上からお分かりのとおり、資本剰余金からの配当が生じると株主としては結構面倒なことになってしまいますし、場合によっては余分な税金を払うはめにもなってしまいます。

こうしたことを避けるためには、資本剰余金からの配当が生じる可能性のある銘柄をできるだけ投資対象から除外すればよいのですが、完璧にそれを実行するのは難しいかもしれません。しかし、これまでの傾向からすると、同じ会社が何度も資本剰余金からの配当を行っているようなので、そうした会社を避けることも一策と思います。また、利益剰余金が潤沢にある会社はそもそも資本剰余金から配当をする必要性がないため、決算書で利益剰余金の額をチェックするのもよいでしょう。なおその際は連結ベースではなく個別の決算書を見るようにしてください。なぜなら配当金の支払いは会社が個別に行うものだからです。連結ベースでは多額の利益剰余金があっても、個別ベースだとほとんどない、ということもありますから注意してください。

また、本コラムの記述とは異なる取り扱いとなるケースも想定されます。疑問点があれば税務署や税理士にご相談されることをお勧めします。