上場企業は様々な情報を投資家に発信している

上場企業は、重要情報を適時に公表する必要があります。各企業のホームページをみると、「IR情報」や「投資家情報」として、決算内容をタイムリーに報告する決算短信や四半期決算短信をはじめ、様々な情報が掲載されています。

今回はそうした情報の1つ、公募・売出しにかかるIR情報にスポットを当てて解説したいと思います。新規上場企業は上場にあたり公募・売出しを実施しますが、最近は既上場企業でも公募・売出しが行われることがよくあります。そして、こうした企業の株価が公募・売出しの実施により大きく変動するケースが目立つのも投資家として見逃せない事実です。こうした状況に個人投資家として適切に対応するには、公募・売出しに係るIR資料に目を通し、かつその内容を理解する必要があります。

多少難解な部分もあるかもしれませんが、知っておけば他の投資家より有利であることは間違いありませんので、ぜひ読み進めてください。

「公募」と「売出し」の違いとは?

まず「公募」と「売出し」の意味について知っておく必要があります。両者は「公募・売出し」という言葉でセットになって使われることが多いのですが、明確な違いがあります。

「公募」とは、新株を発行して、その株式を投資家に販売することをいいます。「公募増資」と同じ意味ととらえて結構です。「売出し」は、既存の株主が保有しているまとまった数量の株式を、他の投資家に販売することをいいます。

デジタルガレージ(4819)の公募・売出しにかかるIR資料 をご覧ください(出典:デジタルガレージホームページ)。(現在は掲載を終了しております)
2ページ目の「1.公募による新株式発行(一般募集)」が公募、「2.株式売出し(引受人の買取引受けによる売出し)」が売出しについての説明です。

売出しについての説明に、株式を売却する既存株主の氏名と売却数量の記載があることがお分かりいただけると思います。

売出しでは発行済株式数の増加による希薄化懸念こそないが…

新株発行を伴う「公募」は、その実施により発行済株式数は増加しますが、既存株主の持ち株を他の投資家に販売する「売出し」では発行済株式数は増加しません。これが大きな違いです。

そのため、公募の実行は、1株当たり利益や1株当たり純資産の額が目減りする、いわゆる「希薄化」により、既存株主にマイナスの影響を与えますが、売出しではそうした影響はありません。ただし、市場に流通する株式数という観点からみれば、発行済株式数の増加につながる公募のみならず、大株主がそれまで安定的・長期的に保有していた持ち株を他の投資家に販売する売出しも同様に増加要因となります。このことが需給の悪化につながり、株価下落の要因になる点は注意が必要です。

公募・売出しのIR情報を理解するために欠かせない3つのキーワード

さて、「公募」と「売出し」について大体ご理解いただけたら、次は「売出し」の応用編です。キーワードは「オーバーアロットメント」「グリーンシューオプション」「シンジケートカバー取引」の3つです。

既存の大株主が持ち株を売却する通常の「売出し」は実はそれほど頻度は高くありません。「売出し」の中で圧倒的に多いのは、「オーバーアロットメントによる売出し」と呼ばれるものです。

公募による新株発行や通常の売出しによる販売株式の数量よりも投資家の需要が高いときには、同条件により追加で株式を販売する場合があります。このことを「オーバーアロットメント」と呼びます。オーバーアロットメントの販売分については、主幹事証券が既存株主から株式を借りてきて、それを販売するため、「公募」ではなく「売出し」という形式になります。

オーバーアロットメントにより売り出す株式は、主幹事証券が既存株主から借りることになるため、その後返却しなければなりません。その主な方法として「第三者割当増資」「グリーンシューオプション」「シンジケートカバー取引」の3種類があります。

第三者割当増資で追加的に新株発行が行われることも

「第三者割当増資」では、主幹事証券に対して増資による新株発行を行います。主幹事証券はその新株を、既存株主から借りた株式の返却に充当します。

「グリーンシューオプション」とは、主幹事会社がオーバーアロットメントによる売出しの引受価格と同額で既存株主から株式を取得できる権利をいいます。

第三者割当増資が行われる場合は、発行済み株式数が増加しますのでその分だけ株式の希薄化を招きます。グリーンシューオプションの行使は新株発行を伴わず、既存株主から新しい株主に株式が移るだけですから一般の売出しと同様、株式の希薄化はありません。

先ほどのデジタルガレージのIR資料3~5ページをみると、オーバーアロットメントによる売出しを6,000株実施し、これにより既存株主から主幹事証券が借り受ける株式を返済するために、4,000株は第三者割当増資により、残り2,000株はグリーンシューオプションにより調達することが読み取れます。

このことから、公募増資による28,000株増加に加え、第三者割当増資により最大4,000株が追加的に増加する可能性がある、ということが分かります。

公募・売出し後株価が下がればシンジケートカバー取引を実行

上記2種類の返却方法は、公募・売出しが実施された後の株価がオーバーアロットメントによる売出しを引き受けた主幹事証券の引受価格よりも高く推移した場合に、主幹事証券が返済に必要な株式の調達時に損失を被ることのないようにするために用いられます。

逆に、もし公募・売出しが実施された後の株価が主幹事証券の引受価格よりも低く推移したならば、主幹事証券は株式市場から株式を買い付けることで調達すればよいのです。借りた株式を返済するために主幹事証券会社が株式市場から株式を買い付けることをシンジケートカバー取引といいます。

もし、このシンジケートカバー取引だけで借り入れ株式の返済に必要な数量を調達できたならば、上述の第三者割当増資やグリーンシューオプションの行使は不要となるため実施されません。

デジタルガレージIR資料では、4ページにシンジケートカバー取引の記載があります。

いかがでしょうか。「公募」「売出し」「オーバーアロットメント」「グリーンシューオプション」「シンジケートカバー取引」の意味を理解したうえでIR情報を読めば、一見難解な内容もすんなりと頭に入ってくるのでないでしょうか。

次回は、実際に公募・売出しが行われた企業のIR情報や当該企業の株価推移などから、投資戦略上注意すべき点を探っていきたいと思います。