8月のドル円は160円台へ。9月相場への影響

 8月のドル円は、月初の介入で155.20円近辺を付けた後は、日本の財政悪化懸念や中東情勢懸念などが円の圧迫要因となり、原油上昇と米金利上昇によって160円へ向かう円安の展開となりました。そして8月28日のジャクソンホール会議でのウォーシュ米連邦準備制度理事会(FRB)議長のタカ派姿勢によって利上げ観測が高まり、ドル円は160円台に乗せました。

 8月の動きによって確認されたことは、下記4点です。

  1. 米国のインフレ抑制に慎重姿勢だったウォーシュFRB議長が、8月28日のジャクソンホール会議での講演で、インフレ率は「より懸念すべきで、FRBが最も重視する課題だ」と指摘し、基調インフレ率がFRBの目標から上振れしたままなら「やるべき仕事がある」と利上げに含みを持たせました。インフレ抑制に前向きな姿勢を示したことから、FRBの9月利上げ観測が一気に高まりました。
  2. 8月27日、日本銀行の氷見野良三副総裁は講演で、今後の利上げについて「しっかりと議論する」と述べましたが、9月利上げへの踏み込んだ発言は見られませんでした。
  3. 米国は長期金利の上昇を警戒していますが、短期的な対応である国債の買い入れでは長期金利の上昇は抑制できないことが確認されました。ベッセント財務長官は抜本的に対応するために、近いうちに「財政健全化策」を発表すると述べています。
  4. 米国・イランの和平協議は進まず、中東情勢の混迷は長期化の可能性があり、ホルムズ海峡は開放されず、原油高止まり状況は続くもよう。ただ、ウエスト・テキサス・インターミディエート(WTI)ベースで100ドルを超えるような原油上昇の動きは今のところありません。

 9月は、これらの動きがどのように展開し、市場にどのような影響を与えるのか注目したいと思います。また、8月31日~9月1日にはG20(20カ国・地域)財務相・中央銀行総裁会議が開催されました。G20開催中にはベッセント財務長官と片山さつき財務相、植田和男日銀総裁との個別会談も行われました。

 9月のドルは、9月米利上げ観測が高まっていることから底堅い展開が予想されます。実際に9月に利上げとなれば、介入警戒感はありますが、ドル円は162~163円を目指す動きになるかもしれません。

 ただ、ウォーシュFRB議長は利上げに前向きな姿勢を示したものの、時期については示唆していないことから9月に発表される雇用、物価指標によっては9月利上げ観測が後退することも予想されるため注意したいと思います。

 9月15~16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)の前には4日の米8月雇用統計、10日の米8月PPI、11日の米8月消費者物価指数(CPI)が発表されます。ウォーシュFRB議長は「米国経済は良好」だと述べていますが、7月の失業率は低下したものの雇用者数の増加が伸び悩んでいるのは気になるところです。

 一方、日銀の9月利上げも市場ではほぼ織り込まれたようです。8月31日、CNBCとのインタビューでベッセント財務長官は「日本政府と日銀が、より強い円につながる措置を講じると確信している」と述べ、改めて日本側に円安是正の対応を求めました。

 また、9月1日に米国財務省は、ベッセント財務長官が8月30日に植田総裁と会談した際、「円安が日本のインフレ圧力を強めている」と指摘し、「過度な円安対処のため日本は断固とした市場・金融政策上の措置を講じることを強く支持する」と述べていたことを明らかにしました。この会談で事実上の利上げ要請をしていたことが分かりました。

 ウォーシュFRB議長の利上げに前向きな発言とベッセント財務長官の発言によって日銀も外堀を埋められたようです。もし、9月に利上げがなかった場合にはかなり失望感が広がり、円安が加速する可能性もあるため警戒したいと思います。

 利上げ決定となっても、9月利上げが市場でかなり織り込まれていることから、追加利上げの示唆がなければ円高は限定的な動きになるかもしれません。

11月の米中間選挙に向けてトランプ政権が動き出す?

 日米長期金利の動きも9月の相場のかく乱要因になりそうです。9月1日、日本の10年物国債利回りは30年ぶりに3%となりました。

 NHKによると、米財務省の高官が、ベッセント財務長官が片山財務相と植田総裁に対して、「日本の次のステップとして財政の持続可能性や利上げに向けた道筋を市場に対して明確に示すことが重要だ」などと伝えたことを明らかにしました。この報道によって日銀の早期利上げ観測が強まり、長期金利の上昇につながったという見方があるようです。

 米国は円安や日本の金利上昇が米金利を押し上げるリスクを警戒してきましたが、協調介入にもかかわらず160円台に乗せた円安や30年ぶりの3%への金利上昇によって、米政府からの圧力は一層強まることが予想されます。先ほどの発言は、日銀への利上げ催促だけでなく、日本の財政の持続可能性についても触れている点には留意しておきたいと思います。

 8月31日、ベッセント財務長官はCNBCのインタビューで「ウォーシュFRB議長とは国債に関して見解を共有している」と述べ、両氏の考え方にずれがあるとの見方を否定し、債券市場を落ち着かせる発言をしましたが、市場は近々発表予定の「財政健全化策」により注目しています。

 市場が納得するような具体策に欠けると市場は失望し、再び長期金利は上昇し、場合によってはトリプル安(米国債安〈金利高〉、株安、ドル安)になる可能性もあるため警戒したいと思います。

 G20会議の開催中、8月31日に日米財務相会談が行われました。会談後の記者会見で片山財務相は、「ベッセント財務長官とは秩序だった円相場は米国を含む世界の金融市場の安定のために不可欠であり、日米の継続的な協調した取り組みが共通の目的に資することを確認した」と述べました。

 7月末の日米協調介入後、初めての会談であり、日米の連携は続いていることが確認されました。

 この会談を受けて、160円以上は、日米協調介入も含めて介入警戒感が高まることが予想されるため、円安局面の動きは抑制的な動きになることが予想されます。ただ、介入が実施されても、米国の利上げが示唆されるような局面では介入効果は限定的になるかもしれません。

 G20会議終了後、片山財務相と植田総裁の記者会見が9月2日の朝(日本時間)に行われましたが、ベッセント財務長官との個別会談の内容についての詳細はノーコメントでした。米財務省側からの会談内容の発言についても発言を控えました。

 ただ、片山財務相はG20会議で協調介入について反対意見はなかった、日本の積極財政と成長戦略についても理解を得られたと述べています。

 8月はあまり動意がありませんでしたが、夏休み相場も終わり、いよいよ11月3日の米中間選挙に向けてトランプ政権が動き出してくることも予想され、9月、10月に市場は大きく動くかもしれません。9月9~10日には、米国共和党全国大会が開催されます。中間選挙向けの全国大会は初めてであり、党勢回復のためにトランプ大統領は何を語るのか、演説に注目したいと思います。