ETFでもリスクヘッジができる?

3月11日金曜日、日本において観測史上過去最大の地震が発生しました。被災されました皆さまには心よりお見舞い申し上げます。

さて前回ご説明したように、トレンドに応じた株式への投資資金の増減調整や、プットオプションの買いはリスクヘッジの方法として有効なものです。

これらとは別に、最近になり、買うだけでリスクヘッジができるという興味深いETFが登場しました。それが「VIX短期先物指数」に連動するETF(1552)です。

VIX指数・VIX短期先物指数とはなにか?

「VIX指数」は投資家が予想する今後の株価変動の大きさを指数で表したもので、株価が急落して投資家が恐怖心を覚える状態になると数値が急上昇することから、恐怖心の度合いを示すものとして別名「恐怖指数」と呼ばれたりもします。

端的にいえば、株価が安定的に上昇しているときはVIX指数が低くなり、株価が急速に下落するとVIX指数は高くなります。

VIX短期先物指数はこのVIX指数の先物指数であり、VIX指数と同様に株価急落時には急上昇し、株価が安定的になると下落します。

VIX指数はアメリカ株を対象にしたものであり、直接的には日本株とは無関係です。しかし、ここ数年、世界中の株価が高い連動性を有しており、アメリカ株が大きく下がれば日本株も同様に大きく下がることが多いので、アメリカ株が下がれば価格の上昇が期待できるこのETFのリスクヘッジ面からの有効性は高いといえます。

ただこのETFは、以下のようにいくつか注意すべき点があります。これを踏まえた上で有効活用するようにしてください。

注意点(1) 長期保有には不向き

VIX短期先物指数はその特性上、時間の経過と共に下落する傾向にあります。株価が安定的でVIX指数が低い期間が続くと、VIX短期先物指数は大きく下落してしまいます。

このETFを運用している国際投信投資顧問が作成した販売用資料「「VIX短期先物指数」に関するQ&A」 PDF (現在は掲載を終了しております)の1ページ目に掲載されている「VIX指数とVIX短期先物指数の比較」というグラフをご覧ください。

VIX指数とVIX短期先物指数は短期的には似たような動きを示すものの、長期的にみるとVIX短期先物指数は下落していることがグラフから分かります。

例えば2008年10月の世界的な株価急落時にはVIX指数、VIX短期先物指数とも大きく上昇しましたが、もしそこから今までVIX短期先物指数に連動するETFを保有し続けていたとしたら、株価急落前の水準よりはるかに低い価格まで下落してしまっていることが見て取れます。

「「VIX短期先物指数」に関するQ&A」にも、「当ファンドは長期保有には適さない商品です」とはっきり書いてあります。

つまり、このETFは売買のタイミングを的確に把握して短期的なVIX指数の変動により利益を得る目的の商品といえます。VIX指数が低い時に買い仕込んで長期保有を続けるのではなく、例えば株価が下がり始めてVIX指数が上昇をはじめた初期段階で買い、株価の下落がおさまりVIX指数の上昇が止まったら早めに売却をする、というのがこのETFの正しい扱い方といえるでしょう。要するに、それほど長くない期間のリスクヘッジ目的に有効な商品と考えられます。

注意点(2) 突発的な出来事に対してのリスクヘッジにはなりにくい

もし、アメリカやヨーロッパなど海外で金融危機や大規模テロをはじめとした大事件が起こって海外株式市場の株価が急落したとすると、翌日の日本株も同様に株価が大きく下がることが予想されます。

しかし、その際このETFを買おうとしても、おそらくストップ高買い気配で買うことができないでしょう。

2~3日経って、かなり価格が上昇したところでやっと買えたとしても、そこが天井でその後価格は急速に下落してしまう、ということも大いに考えられます。

一方、突発的な大事件にそなえてこのETFを持ち続けようとすると、注意点(1)で述べたように、大事件が起こらずに株価が安定的に推移していった場合にはETFの価格は大きく値下がりしてしまうため、大事件に備えた長期保有といった手法は使えません。

突発的な大事件に備えるためのリスクヘッジとしては、前回ご紹介したプットオプションの買いが最も効果的といえます。

注意点(3) 日本株独歩安の際にはリスクヘッジの効果が低くなる

VIX指数およびVIX短期先物指数は、アメリカ株の将来の株価の予想変動率をもとに動くものです。

したがって、アメリカ株は上昇しているが日本株は下落、というように、日本独自の要因で日本株が下がるような局面ではこのETFを買っても日本株のリスクヘッジとしての効果は期待しにくいといえます。

日本株独自のリスクへのヘッジ手法としては、前回ご説明したように持ち株自体を売ったり減らしたりする、プットオプションを買う、もしくは次回以降ご説明する空売りや先物売り、といったものを用いる必要があります。