戦時下のレンジ「70~110」の下半分
図1は、2026年の年初以降のNY原油先物価格の推移です。2月28日に中東情勢が急激に悪化した後、原油価格は一時110ドルを超え、その後は70ドル付近まで下落しました。
筆者は情勢悪化以降の原油相場の動きを「戦時下のレンジ」と呼んでいます。その目安は70~110ドルです。足元はその下半分に位置しています。複数の下落圧力と、複数の上昇圧力に挟まれ、レンジを形成しているといえます。
図1:NY原油先物価格(2026年 中心限月 日次平均) 単位:ドル/バレル
図2は、2026年後半の原油市場を取り巻く主な材料です。レンジを形成する下落圧力は、世界景気悪化による需要減少懸念、中東情勢の鎮静化期待、米国の利上げ確率上昇、OPECプラスの自主減産の縮小(≒増産)などがきっかけで発生していると考えられます。
一方、上昇圧力は、米国の利上げ確率低下、中東情勢の悪化懸念、OPECプラスの協調減産継続観測、米国原油在庫の減少、ホルムズ海峡をめぐる輸送コスト上昇懸念などがきっかけで発生していると考えられます。
図2:2026年後半の原油市場を取り巻く環境
原油相場は当面、こうした複数の材料がもたらす上下両方の圧力に挟まれ、「70~110ドル」という中東情勢が急激に悪化した後に形成された「戦時下のレンジ」内で推移することが予想されます。
非西側化する産油国の思惑
今、ベネズエラの動向に注目しなければならないと筆者は考えています。2026年1月に発生した米国による政治・軍事的な介入を経て、同国は米国の影響を強く受けるようになりました。
目下、報じられているとおり、ベネズエラがOPECから脱退する可能性があります(図3を参照)。仮にそうなれば、加盟国が一つ減るだけではなく、OPECプラスの組織としての特性が変化する可能性があります。米国の影響下にある国が脱退することで、組織全体の「非西側化」が一段と進む可能性があると、筆者は考えています。
図3:OPECプラスについて(2026年8月時点)
この点は、2027年以降の協調減産(2026年12月で終了予定)の行方を考える上でも大きな意味を持ちます(図4を参照)。非西側色が強まれば、結束して生産量を管理し、原油相場を下支えする動機が大きくなる可能性があるためです。
図4:協調減産と自主減産のイメージ(2026年8月時点)
さらに、その延長線上で、中東の原油などの海上輸送をめぐる動向にも変化が生じる可能性があります。OPECプラスの参加国の一つで、ホルムズ海峡に面するオマーン(図3を参照)が、イランと同様、地理的な条件を背景に、通行料の徴収を示唆する可能性を否定できないためです。
つまり、ベネズエラの脱退はOPECプラスを弱体化させるどころか、むしろ「非西側化」が進行し、OPECプラスを一枚岩に近づけるきっかけになる可能性さえあります。協調減産の長期化やホルムズ海峡における通行料の徴収が実現すれば、原油相場への上昇圧力は一段と強まる可能性があります。
「ステージ」が変わったイラン戦争
イラン戦争は目下、発生から半年を経て「ステージ」が変わったと考えられます。当初は米国・イスラエルによる攻撃とイランの報復という「軍事戦争」の色が大変に濃い状況が続いていました。しかし足元では、軍事戦争に加えて、相手やそれに関わる国の経済力をそぐ「経済戦争」の様相が急速に強まっています。
米財務省は8月24日、「Operation Economic Outcast(対イラン経済孤立作戦)」を開始し、米国によるイランへの経済制裁を強化しました。イランの石油輸送や金融取引、それらを支える第三国の企業や船舶などを対象に圧力を強め、イランを国際的な経済ネットワークから切り離す姿勢を鮮明にしています。
これに対しイラン側は、世界の原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡の封鎖という「武器」を活用しています。米財務省は、イランが同海峡を通航する商船に保険購入を求める仕組みを構築し、米国はこれを収益策と見なして関連企業を「制裁対象に指定した」と発表しています。
米国はさまざまな制裁でイランの原油による収入を減らそうとしていますが、イラン側(フーシ派を含む)は海峡の封鎖やタンカーの航行の妨害によって、世界のエネルギー輸送を、引いてはエネルギーの価格、さらにはインフレ動向を通じて金融政策に影響力を行使しているといえます。
さらには、イランが支援しているとされるイスラム武装勢力の一つで、アラビア半島の南西部のイエメンで活動する「フーシ派」(図5を参照)の存在を考慮すれば、ホルムズ海峡だけでなくバブ・エル・マンデブ海峡、そしてドローンによる攻撃可能な海域(ペルシャ湾ではなくインド洋に面したUAEのフジャイラ付近を含む)など、中東の海上輸送全体が軍事戦争・経済戦争の舞台になる可能性が浮上します。
図5:イランが支援しているとされるイスラム武装組織「フーシ派」
この点に、先ほど述べたOPECプラスの参加国の一つで、ホルムズ海峡に面するオマーンによる通行料の徴収が重なれば、なおのこと、事態を鎮静化させることは困難になります。
目下、中東情勢は軍事戦争に加え、海運、エネルギー安全保障、金融政策などに影響を与える経済戦争の様相を呈しています。こうした状況において、図6が示す、ホルムズ海峡やバブ・エル・マンデブ海峡を航行するタンカーの数が劇的に回復することは、考えにくいといえます。
図6:主要な海上の要衝を通過したタンカーの数(21日間平均 2026年8月23日まで) 単位:隻
原油相場は戦時下のレンジを維持か
図7は、中東情勢の混迷が原油市場に波及する経路を整理したものです。殉教者への責任、国家の威信、体制維持、報復感情など、さまざまな要素が同時進行する中、短期間で情勢を完全に鎮静化させることは難しいと言わざるを得ません。
さらに産油国の非西側化・OPECプラスの協調減産、主要海峡を通過するタンカー数の低迷といった現象も、一度進行すると元の状態に戻るまでに長い時間を要する可能性があります。
もともと2010年ごろから、世界全体の自由度・民主度の低下が進行しているさなかにあることは(スウェーデン・V-Dem研究所の自由民主主義指数は2010年ごろから目立った低下傾向を示している)、こうした事象が継続することを容易にしているといえます。
図7:後戻りすることが難しい事象(筆者イメージ)
さらには、中東情勢の混迷と「殉教者(信仰などのために命をささげた人)」の関わりも、情勢悪化が継続する一因になり得ると考えられます。残された指導者や組織には、その犠牲を無駄にせず、掲げてきた理念や目的を引き継ぐ動きが加速する場合があるためです。
戦闘が長期化して殉教者が増えるほど、国家の威信、体制維持、報復感情に加え、殉教者への責任などの念が大きくなり、停戦や譲歩に踏み出す政治的・社会的なハードルが高くなる場合があります。
殉教者への責任という点で見れば、3月にイランの最高指導者が米国とイスラエルの攻撃によって殺害された出来事は、7月と8月に一部で報じられたように、トランプ米大統領や同大統領の親族の生命を脅かす事態が発生した可能性があることと関連があるかもしれません。
今後、中東情勢をめぐって、経済的な合理性だけを考えれば停戦した方が得策であったとしても、それだけで軍事行動や対立を終わらせない、という判断がなされる場合もあります。
こうしたさまざまな経緯を経て中東情勢の混迷が続けば、産油国の非西側化や協調減産が継続したり、ホルムズ海峡やバブ・エル・マンデブ海峡をめぐる航行リスクが大きくなったり、これらを受けて米国の原油備蓄がさらに減少したりする流れが続くことが予想されます。
原油相場は図8が示す70~110ドルという「戦時下のレンジ」で推移し続ける可能性が高いと、筆者は考えています。
図8:NY原油先物価格(中心限月 月間平均) 単位:ドル/バレル
[参考]エネルギー関連の投資商品(一例)
国内株式(NISA成長投資枠活用可)
INPEX
出光興産
国内ETF・ETN(NISA成長投資枠活用可)
NNドバイ原油先物ブル
NF原油インデックス連動型上場投信
WTI原油価格連動型上場投信
NNドバイ原油先物ベア
外国株式(NISA成長投資枠活用可)
エクソン・モービル
シェブロン
オクシデンタル・ペトロリアム
海外ETF(NISA成長投資枠活用可)
iシェアーズ グローバル・エネルギー ETF
エネルギー・セレクト・セクター SPDR ファンド
投資信託(NISA成長投資枠活用可)
シェール関連株オープン
HSBC世界資源エネルギー オープン
海外先物
WTI原油(ミニあり)
CFD
WTI原油・ブレント原油・天然ガス
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