iDeCoは「どう受け取るか」を考える時代へ

 iDeCo(イデコ:個人型確定拠出年金)とは、2001年に始まった私的年金制度です。自分で設定した掛金を拠出し、投資信託や定期預金などの商品を選んで運用します。

 制度の開始以降、改正を重ねながら加入対象者が拡大され、老後の資産形成を支える制度の一つとして利用されてきました。iDeCo公式サイトが公表している資料では、2026年6月末時点の加入者数は400万人を超え、右肩上がりに増加しています。

  2024年3月末 2025年3月末 2026年6月末
加入者数 328万4,971人 363万856人 400万9,337人
出典:iDeCo公式サイト「iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入者数等について」を参考に筆者作成

 筆者自身、本業のFP相談を行う中で、50代を中心に「iDeCoの受け取り方(=出口戦略)」の相談を受ける機会が増えたように感じます。

 そこで本稿では、筆者がよく受ける「iDeCoはいつ受け取るべきか?」という相談について、具体的なシミュレーションを交えて考えていきましょう。

退職金とiDeCo一時金には「控除」がある

 iDeCoで積み立てた資産は、まとめて「一時金」として受け取る方法と、一定期間に分けて「年金」として受け取る方法があります。このほか、金融機関によっては一時金と年金を組み合わせて受け取ることも可能です。

 今回は、iDeCo利用者のおよそ9割が選択する「一時金での受け取り」を前提に解説します。

 まず、iDeCoの資産を一時金として受け取った場合、税制上は「退職所得」として扱われます。退職所得は、給与所得などほかの所得とは分けて税額を計算する「分離課税」が適用され、原則として次の計算式で求めます。

退職所得の金額=(収入金額-退職所得控除額)×1/2

 ここでポイントになるのが「退職所得控除」です。退職所得控除額は、会社の退職金であれば勤続年数に応じて、次のように計算します。

勤続年数 退職所得控除
20年以下 40万円×勤続年数(最低80万円)
20年超 800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 例えば、勤続年数が35年の場合、退職所得控除額は「800万円+70万円×(35年-20年)」で計算するため、1,850万円です。

 仮に会社から2,000万円の退職金を受け取った場合、退職所得は「(2,000万円-1,850万円)×1/2=75万円」となり、この75万円を基に所得税・住民税が計算されます。

退職金などの税金の仕組み

 では続いて、退職所得にかかる税金を見ていきましょう。

 所得税には、所得が増えるにつれて高い税率が適用される「超過累進税率」が採用されています。退職所得についても、退職所得控除などを反映して算出した課税退職所得金額に応じて、所得税率が決まります。所得税の税率は、以下のとおりです。

 また、退職所得には住民税もかかります。原則として、課税退職所得金額に対して10%が課税される仕組みです。

 例えば、退職所得金額が300万円の場合、所得税は次のように計算します。

300万円×10%-9万7,500円=20万2,500円

 一方の住民税は以下になります。

300万円×10%=30万円

 所得税と住民税を合わせると、50万2,500円の納税が必要になる計算です。

60歳会社員の受取時期をシミュレーション

 ここまで解説してきた内容を基に、60歳の会社員が会社の退職金とiDeCoを同じタイミングで受け取る場合と、iDeCoの受け取りを5年ずらした場合で、税額にどのような違いが生じるのかシミュレーションしていきます。今回の前提条件は以下のとおりです。

項目 条件
現在の年齢 60歳
入社年齢 23歳
退職時の勤続年数 37年
退職金 2,000万円
iDeCoの加入期間 40~60歳の20年間
60歳時点のiDeCo資産 500万円(※)
iDeCoの受取方法 一時金
(※)毎月1.5万円を年利約4%で20年間運用したと想定。この場合、最終資産額は546万円となるが、計算簡略化のためここでは500万円と設定する。

 今回は、次の二つのケースを比較します。

A:60歳で退職金2,000万円とiDeCo500万円を一時金で受け取る
B:60歳で退職金2,000万円を受け取り、iDeCoは5年後の65歳に一時金600万円(※)で受け取る

(※)ケースBでは、60歳以降も毎月1.5万円の拠出と運用を継続。65歳時点のiDeCo資産が600万円になったものとする。

モデルケースAとB…どちらがお得?

 まずは、60歳で会社の退職金とiDeCoを同時に受け取るモデルケースAから見ていきましょう。

モデルケースA

 まず、会社の退職金2,000万円とiDeCo500万円を、退職時(60歳)に一時金で受け取るケースです。

 会社の勤続期間は37年、iDeCoの加入期間20年は会社の勤続期間と重なっているため、退職所得控除は37年を基に計算します。

800万円+70万円×(37年-20年)=1,990万円

 従って、退職所得控除額は1,990万円です。

 会社の退職金とiDeCoを合わせた2,500万円から退職所得控除額を差し引き、2分の1を掛けると、課税退職所得金額は255万円となります。

(2,500万円-1,990万円)×1/2=255万円

 課税退職所得金額255万円の場合、所得税率は10%、控除額は9万7,500円です。

所得税:255万円×10%-9万7,500円=15万7,500円

 また、住民税は課税退職所得金額の10%として計算します。

住民税:255万円×10%=25万5,000円

 従って、所得税と住民税を合わせた税額は、

15万7,500円+25万5,000円=41万2,500円

となります。

モデルケースB

 続いて、60歳で会社の退職金2,000万円を受け取り、iDeCoは5年後の65歳に600万円を受け取るケースです。

 まずは、60歳で受け取る退職金の税金から見ていきましょう。

 勤続年数は37年のため、退職所得控除額はモデルケースAと同じく1,990万円です。

(2,000万円-1,990万円)×1/2=5万円

 課税退職所得金額は5万円となるため、所得税率は5%です。

所得税:5万円×5%=2,500円
住民税:5万円×10%=5,000円

 従って、退職金にかかる所得税と住民税は合計7,500円です。

 続いて、65歳に受け取ったiDeCoの税金を見ていきましょう。

 まず、iDeCoの加入期間は40歳から65歳までの25年間ですが、40歳から60歳までの20年間は会社の勤続期間と重複しています。そのため重複しない5年間が退職所得控除の対象です。iDeCoの加入期間は20年を超えているため、この5年間は1年当たり70万円で計算します。

70万円×5年=350万円

 次に、iDeCo600万円から退職所得控除額350万円を差し引き、2分の1を掛けます。すると、課税退職所得金額は125万円です。

(600万円-350万円)×1/2=125万円

 課税退職所得金額125万円の場合、所得税率は5%となります。

所得税:125万円×5%=6万2,500円
住民税:125万円×10%=12万5,000円

 従って、iDeCoにかかる所得税と住民税は合計18万7,500円です。

 ここに、退職金にかかる7,500円と合わせると、モデルケースBの税額は合計19万5,000円となります。

50代から考えておきたいiDeCoの出口戦略

 今回のシミュレーション結果を比較すると以下のようになります。

  モデルケースA モデルケースB
所得税・住民税の合計 41万2,500円 19万5,000円

 今回の条件では、iDeCoの受け取りを5年ずらしたモデルケースBのほうが、税負担を21万7,500円も抑えられる結果となりました。

 iDeCoを一時金で受け取る場合は、加入期間を延ばして退職所得控除を増やすことで、税負担を軽減しやすくなります。

 多くの人にとって、公的年金は老後の主な収入源です。そのため、年金の受給額や受け取り方を考慮した上で、iDeCoをいつ、どのように受け取るか、50代から早めに考えておきましょう。