TOBにはどんな種類があるか

 最近、TOBが行われることが多くなったと感じます。
TOBは「テイク・オーバー・ビット」の頭文字をとったもので、公式には「公開買付け」と呼ばれます。買収者が、買付条件等を提示のうえ、買収対象会社の不特定多数の株主から市場外で株式の買付けを行うことをいいます。

TOBには大きく3つのパターンがあります。
(1)親会社によるもの
 買収対象会社がすでに他企業の子会社や関連会社である場合、親会社がさらに持ち株割合を高めたり、100%子会社化を実現するために実施するものです。最近ではパナソニック(6752)による三洋電機(6764)へのTOBや、日清紡ホールディングス(3105)による日本無線(6751)へのTOBが該当します。

(2)オーナー・経営陣によるもの(MBO)
オーナーをはじめとした経営陣がTOBを実施し、最終的には株式を100%取得して非上場化を目指すものです。
この手法はMBO(マネジメント・バイアウト)と呼ばれます。MBOとは、買収対象会社の経営陣が買収資金の全部又は一部を出資して、事業の継続を前提として買収対象会社の株式を取得することです。
最近では、幻冬舎(7843)やサザビーリーグ(7553)のMBOが該当します。

(3)第三者によるもの
それまで買収対象会社の株式を全く持っていないか、持っていても少数にとどまる(支配関係等を有するまでは至らない)者がTOBを実施するケースです。
このタイプのTOBはさらに友好的TOBと敵対的TOBに分かれます。友好的TOBは買収対象会社の経営陣がTOBに賛同していたり、買収対象会社の大株主がTOBへの応募をすることがすでに確約されているような場合のものです。最近では、日立メディコ(6910)によるアロカ(7704)へのTOBや、フリービット(3843)によるフルスピード(2159)へのTOBが該当します。敵対的TOBは、買収対象会社の経営陣がTOBに賛同しておらず、買収対象会社の大株主からも事前にTOB応募への同意を取り付けていないような場合のものです。

上場が維持されるTOBはTOB終了後の株価変動に注意

また、TOBには買収対象会社を100%子会社化することを目的とするケースと、それ以外のケースがあります。三洋電機、幻冬舎、サザビーリーグ、アロカは前者のケース、日本無線やフルスピードは後者のケースです。前者の場合は買収対象会社が最終的に上場廃止になりますが、後者の場合では買収対象会社の上場は基本的に維持されます。
後者の場合は、通常TOBでの買付け株数に上限があり、TOBに応募すれば必ず株式を買い取ってもらえるわけではないため、TOBへの応募に落選した場合のリスクが株価に反映されます。
たとえば、日立メディコが100%子会社化を目指すアロカのTOB買付け価格は1075円であるに対して11月26日の株価は1070円とほぼ同じです。一方、日清紡ホールディングスが持株割合を34.02%から64.30%に高めることを目指す(100%子会社化は目指していない)日本無線の場合はTOB買付け価格300円に対して11月26日の株価は259円とかなり開きのあることが分かります。
なお、上場が維持されるタイプのTOBは、TOB期間が終わると株価が買付け価格に縛られなくなるため株価は通常の値動きに戻ることに注意が必要です。
例えば、フリービットがフルスピードの子会社化を目指して実施したTOBでは、フルスピードの株価がTOB応募期間中は買付け価格(29000円)近辺の27500円前後で推移していました。しかし、TOB期間が終了すると、株価は大きく値下がりし、10月には13500円まで下落してしまいました。

100%子会社を目的としたTOBは「強制的損失確定リスク」も

TOBによる買付け価格は、多くがTOB発表時の株価に比べかなり高い価格に設定されています。しかし、買付け価格は、直近6ヶ月前後の株価などを参考にして決められるため、例えば3年前、5年前など株価が高いときに買った株主にとっては、買付け価格が自身の買値に遠く及ばないことも多くあります。
例えば、アロカの例では、2006年~2008年にTOBの買付け価格1075円より高い株価でアロカ株を購入した株主は、TOBにより実現損として損失が確定することになってしまいます。

もしTOBの後も買収対象企業の上場が維持されるのであれば、TOBに応募せずに塩漬け覚悟で持ち続けることもできるのですが、買収対象会社の100%子会社化を目指すTOBでは、買収対象会社の株主が保有する株式は、例えTOBに申し込まなくとも、最終的に全て買い取られてしまいます。
したがって、たとえ多額の含み損を抱えているから売りたくないといっても、「保有株の強制的買い取り」によって、損失が実現損として確定してしまうのです。
常日頃から損切りを実行している方であれば全く問題ありませんが、損切りがどうしてもできない方は、上場会社の子会社や、オーナーやその関係者が大株主である企業(いわゆるオーナー企業)への投資は、TOBによる「強制的損失確定リスク」が他の企業より高いことを理解しておいてください。

頻発するTOBは株価底入れの兆しか?

ところで、なぜ最近TOBが数多く行われているのでしょうか。買収する側の立場から考えてみると、その答えがみえてきます。
TOBを実施するには、買収対象会社の株式買取資金が必要となります。となれば、できるだけ低い金額で抑えたいと思うのが当然です。
つまり、TOBが頻発しているのは、「今なら買収したい企業を安い価格で手に入れることができる」「今なら少ない資金で子会社を100%子会社化することができる」「今なら少ない資金でMBOができる」とTOB実施者が考えているからに他なりません。買収者は、今がまさにTOBのチャンスと思って実行しているのです。
TOBが数多く行われる現在は、少なくとも買収者は株価が底値圏にあると思っているはずであり、これは「株価底入れ近し」のサインと受け止めてもよいのではないかと筆者は思っています。