「点」より「線」を重視するとは?

世界中の株価が堅調に推移する中、日本株だけが取り残されたような動きが続いています。そんな中で最近よく耳にするのが「日本株は割安だ」という専門家のコメントです。
実際、筆者自身も日本株は割安な水準にあると思います。買いたい銘柄はゴロゴロしています。しかし、筆者はただ「割安」なだけでは本格的に買い出動をしようとは思いません。なぜなら筆者は「点」より「線」を重視しているからです。
つまりこういうことです。「日本株が割安だ」とコメントする専門家は、現時点での日経平均株価の水準やPERなどから割安と判断しています。判断基準が現時点という「一点」だけなのです。
しかし筆者は現時点の「割安」な株価やPERに至ったそれまでの流れ・推移を重視します。たとえ現時点での株価がどうみても割安と判断できても、株価の動きが下降トレンド継続中であれば、まだ手出し無用と考えます。現時点という「点」ではなく、過去から現在に至るまでの株価の推移という「線」を重視しているのです。

「点」だけを見て割安と判断してはならない理由とは?

なぜ「点」ではなく「線」を重視するのか、それは大きな損失を回避するためです。
筆者は以前から本コラムでも「損切りを実行すること」と「株価が下降トレンドにある間は手を出さないこと」の2点の重要性を強調してきました。この2点こそが個人投資家が株式投資で大失敗してしまう要因の大部分を占めるからです。
株価が下降トレンドにある間は、いくら株価が割安な水準にあったとしても、そこからさらに大きく下がることが決して珍しくありません。それでも損切りを適切に実行すれば少額の損失で済みますが、損切りができなければ多額の含み損を抱えてしまうことになりかねません。
したがって、筆者は株価のトレンドを見ずに現時点での株価水準だけをみて「日本株は割安」とコメントする専門家の見解には賛成しかねますし、個人投資家の皆さんには、こうしたコメントを鵜呑みにして株価が下降トレンド真っ只中であるにもかかわらず強気の買いをしてもらいたくはありません。

個別銘柄も考え方は同じ

同じことは日本株全体(日経平均株価やTOPIXといった株価指数)だけではなく、個別銘柄においてもいえます。
株価がすでにピークをつけ下降トレンド入りしているような銘柄にもかかわらず、PERが10倍を切っているから割安だ、という専門家のコメントを、リーマンショックが起こる前にはよく耳にしました。しかし実際には株価はそこからさらに下落を続け、最終的にPER2倍~3倍の水準(専門家の推奨時の半値以下)でやっと下げ止まったという銘柄もあったのです。
確かにPERが10倍を切る水準は割安といえます。でも、株価のトレンドを無視して下降トレンドの途中で買ってしまえば、そこからさらに株価が大きく下げてしまうことも十分に起こりうるのです。
10月に入り、信用評価損益率がマイナス20%近い水準まで悪化しています。にもかかわらず、多くの個別銘柄においては投げ売りによる株価底打ちの気配もなく、ずるずると下げ続けてしまう不気味な相場になっています。これはまさに、多くの個人投資家が、株価が下降トレンドであることを軽視して、株価やPERなどの水準から株価が「割安」とみて買い下がりを続けた結果、含み損が膨らんでしまっていることを表しているのです。
株価は上にも下にも行き過ぎるものです。株価水準やPERなどから判断して明らかな割安の状態から、さらに株価が2分の1、3分の1にまで下がってしまうことは決して珍しくありません。
逆に株価水準やPERからみて明らかに割安であるにもかかわらず株価が下げ止まらないということは、逆に業績の悪化など何か悪材料が隠れていると警戒した方がよいのです。

割安」+「下降トレンド終了」が買いの合図

以上から、例え株価が割安な水準にあったとしても、株価が下降トレンドである間、つまり株価が下げ続けている途中である限りは安易に買いに走るべきではない、というのが筆者の結論です。落ちてくるナイフをつかむなという有名な格言がありますが、まさにその通りです。
では、どうなったら買ってもよいかといえば、下降トレンドが終焉した可能性が高まった段階になってからです。トレンドの読み方については次回以降にご説明するつもりですが、少なくとも日足チャートで株価が25日移動平均線の上に出て、25日移動平均線自体も上向きにならなければ、短期的にも底を打ったことになりません。
「割安だ! 今がチャンス」とばかりに下降トレンド真っ只中で買うよりも、株価の底打ちを確認してからゆっくりと買った方が、結果的に安く買えることが多いものです。
日本株が割安な水準にあるのは確かですから、投資したい銘柄をピックアップしておき、底打ちを確認できた時点で買い始めるのがリスクの少ない方法だと思います。