まず日本のGPIFの配分を確認する

 日本の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、国内債券、外国債券、国内株式、外国株式の四つに、それぞれ25%ずつを配分しています。2025年度から始まった第5期の計画でも、この構成は維持されました。

図1 主要な年金基金の資産配分
※GPIFは第5期中期目標期間(2025〜2029年度)の基本ポートフォリオ ※GPF-Gは2026年6月末の実配分 ※CalPERSは2024年3月に承認された戦略的資産配分(SAA)であり、後述のとおり2026年7月より、従来の固定資産配分ではなくトータル・ポートフォリオ・アプローチに移行 ※CalPERSは合計105%の資産をレバレッジマイナス5%で調整する構成  ※出所:GPIF、NBIM、CalPERSの各公表資料を基に作成

 ここで、前回お伝えした通貨の視点で見てみましょう。外国債券と外国株式を合わせると、外貨建て資産は全体の50%です。裏を返せば、残りの半分は円建てで持っている、ということになります。

 一方、個人が全世界株式のインデックスファンドだけを持っている場合はどうでしょうか。全世界株式指数に占める日本株の比率は約5%ですから、実質的な外貨建て比率は約95%。米国株式のインデックスファンドであれば、ほぼ10割です。

 図2のとおり、GPIFと比べると、株式への集中度も通貨の偏りも、個人の方が大きくなる場合があると分かります。

図2 外貨建て資産の比率
※出所:GPIF、MSCIの公表資料を基に作成

ノルウェー政府系ファンドは自国資産に投資しない

 次に、対照的なノルウェー政府年金基金を見てみます。石油関連事業から得られる収入を元手に運用しており、運用資産の規模はGPIFと並び世界最大級です。

 資産配分は約7割を株式が占め、残りが債券や不動産と、GPIFよりも大きく株式に傾いています。しかし、本当に注目すべきはそこではありません。

 この基金は自国であるノルウェーの資産に投資していません。世界中の数十カ国、数千の銘柄に投資していますが、その対象から自国は外れています。つまり、外貨建て比率はほぼ100%です。

 これは、基金が石油収入の変動から経済を守るために設立されたという背景が関係しています。もし国内資産への投資ウエートが大きければ、収入源であるセクターとの分散にならなくなってしまうからです。

米国、カナダの基金は別の道を選ぶ

 図1の一番下は、米国の年金基金であるCalPERSです。2024年に決めた方針では、上場株式が37%、債券が28%である一方、未公開株式が17%、私募債が8%と、一般に市場で売買できないプライベートアセットにも多く投資します。

 カナダのCPP Investments(CPPIB)も同様に、2026年3月末時点における長期の基本資産配分では、未公開株式24%や実物資産24%、そのほかプライベートクレジットも一部組み入れるなど、伝統的資産以外の投資対象も積極的に選好する動きが見られます。GPIFのオルタナティブ比率が1%台であることを考えると、その差は際立っています。

 なお、CalPERSはこの配分決定のアプローチ自体を変えつつあります。2025年11月、資産クラスごとに固定された配分にこだわるのではなく、ポートフォリオ全体で最適を考える「トータル・ポートフォリオ・アプローチ」への移行を決定し、2026年7月から適用しています。図1の数値は、その直前まで使われていた目標配分である点にご留意ください。

【再掲】図1 主要な年金基金の資産配分
※出所:GPIF、NBIM、CalPERSの各公表資料を基に作成

 ここで正直に申し上げると、個人がこれらの資産にそのまま投資するのは現実的ではありません。ですから、彼らのまねをしようという話ではありません。

 ここには一つ、個人にとっても意味のある事実があります。世界の大きな年金基金が、株式と債券という二つの伝統的資産だけでは足りないと考え、値動きの異なる資産を探し続けている、ということです。前回、金や現預金といった選択肢に触れましたが、個人にとってのその探求が、同じ方向を向いていることは確かです。

配分の違いは成果の違いとして表れた

 では、これだけ異なる配分は、実際の成果にどう表れたのでしょうか。年度ごとの運用実績を基に、21年間の累積を見てみます。

図3 各基金の累積リターン(2003年度末=100)
※リターンはいずれも現地通貨建てであり、通貨が異なるため厳密な優劣の比較ではない ※出所:GPIF「海外の公的年金の運用状況」を基に作成

 図3のとおり、株式を7割持つノルウェーの基金は21年間で約5.3倍、カナダのCPPIBは約5.2倍になりました。一方、GPIFは約2.7倍です。これだけを見ると、株式を厚く持つ方が良いように思えますが、それは話の半分でしかありません。

図4 最も良かった年と最も悪かった年
※2004年度から2024年度までの各年度リターンのうち、最大と最小 出所:GPIF「海外の公的年金の運用状況」を基に作成

 図4をご覧ください。リーマンショックが起きた2008年度、CalPERSはマイナス29.1%と大きく沈みましたが、GPIFの下落はマイナス7.6%にとどまっています。ノルウェーの基金も、2007年度にマイナス11.4%を経験する一方、2014年度には+34.5%を記録しました。

 つまり、高いリターンを得た基金は、その分だけ大きな振れ幅も引き受けていた、ということです。配分を決めるとは、リターンを選ぶことであると同時に、耐えるべき下落の深さを選ぶことでもあります。

 なお、これらの数値はいずれも各基金の現地通貨建てであり、単純に比べることはできません。ここで見るべきは順位ではなく、配分の違いが値動きの大きさの違いとして表れている、という点です。

なぜこれほど違うのか

 ここまで見てきただけでも、外貨建て比率はGPIFの50%からノルウェーのほぼ100%まで、株式比率も50%から70%超まで、大きく開いています。運用の専門家が、これだけ違う答えを出しているのです。

 なぜでしょうか。それは、それぞれの置かれた事情が違うからです。

 ノルウェー政府系ファンドが自国資産に配分を振り向けないのは、国内の石油関連事業で得られる収入との分散を図るためでした。つまり、運用資産の外側にある事情まで含めて、全体として分散が効くように設計されています。

 GPIFが国内資産を半分持つのは、将来支払う年金が円建てであることと無関係ではありません。支払う通貨が円なのだから、資産の一部も円で持つ。これは負債の通貨に合わせるというまっとうな考え方です。

 オルタナティブを厚く持つ基金は、長い運用期間を生かして、すぐに換金できないという不便さを受け入れる代わりに、上乗せのリターンを狙っています。

 いずれも、その基金の事情とは整合的である一方、他の基金にとっての正解ではありません。

自分の配分を考えるために

 それでも、彼らの配分から学べることがあります。それは、配分の中身そのものではなく、配分の決め方です。

 彼らはいずれも、運用資産の外側にある事情から出発しています。収入がどこから来るのか、将来何をどの通貨で支払う必要があるのか、どれだけの期間運用を続けられるのか。そこから逆算して資産の配分を決めています。

 前回、株安と円高が同時に来る局面が日本の資産形成の弱点だとお伝えしました。その備えをどうするかは、最後は自分で決めるほかありません。世界の専門家でさえ答えが分かれるのですから、今回見た配分を参考にはしながらも、自分の事情から決めていく方がはるかに確かな道であると考えます。