増資を行う企業が増加している

先日、東京電力が数千億円規模の増資を発表したのは記憶に新しいところです。この東京電力をはじめ、最近は増資を行う企業が目立ってきています。
通常の増資だけではなく、優先株の発行、社債の発行など、銀行借入以外のファイナンスを含めればその数はさらに多くなります。
株価が低迷している時期の増資は株式数の大幅な増加を招き、後でご説明する「希薄化」の影響を大きく受けるので、既存株主からはあまり歓迎されないはずです。それでも増資を断行するのには、株価が低迷し、経済も停滞している今だからこそ増資資金を使って積極的に投資をして、将来のための種まきをしようとする経営者の決意があるのかもしれません。

増資により起こる「希薄化」とは

増資を行うと「希薄化」が生じ、これが株価下落の要因であるといわれます。では、「希薄化」とはどのようなものなのでしょうか。
「希薄化」を一言でいえば、「1株当たりの価値が薄められること」を意味します。
株価の割高・割安をはかる指標の1つとしてPER(株価収益率)があります。これは1株当たり当期純利益を用いて計算されます。
増資により発行済み株式数が増加すると、1株当たり当期純利益が減少します。例えば増資前の当期純利益が100億円、発行済み株式数が1億株であれば1株当たり当期純利益は100円です。
これが増資により2,500万株増加して株式数が1億2,500万株になると、1株当たり当期純利益は80円に下がります。
増資前の株価が2,000円、PER20倍であった場合、増資の前後で株価が変化しないとすれば、増資後の株価も同じく2,000円ですが、1株当たり当期純利益が減少したためPERは25倍に上昇してしまいます。
増資前と同じPER20倍になるためには、株価は2,000円から1,600円に下がる必要があります。
このため、増資により株価が変わらないとすれば割高になってしまうPERを適正水準にもどそうとする力が働き、株価が下落するのです。

増資は株価にとってマイナスなのか

確かに増資実施直後は、希薄化により1株当たりの価値が低下するというマイナス面が顕著に表れます。しかし、将来は増資により企業収益が拡大し、1株当たりの利益や純資産が増加していくとしたら、長期的には逆に株価にプラスに作用すると考えることができます。
増資資金の使途によっても異なりますが、手取り資金を将来の利益獲得のための積極的な投資に使うような増資であれば、長期的には企業価値を高めることにつながる可能性も大いにあり得るわけです。そうなれば、増資は目先的にはマイナスであるものの長期的にみればプラスととらえることができるのです。
また、増資の目的が財務基盤の強化である場合は、希薄化によるマイナス効果よりも、倒産リスクの減少というプラス効果が優位になり、倒産リスクを織り込んで過度に下落していた株価が増資発表により上昇する、という効果が期待できます。
借入金返済に増資資金を充当する場合も、財務基盤の強化だけでなく、借入金利息の減少による利益増加という効果があります。
増資は希薄化というマイナス面と、将来の財務基盤の強化や企業収益の拡大といったプラス面を併せ持っているといえるでしょう。

増資に対する株価の反応で相場の地合いが分かる

このように、増資は株価にとってプラスとマイナスの双方の側面を持っていると考えられます。
そこで、増資発表企業に対して市場がどのような反応をするかにより、相場の地合いを読み取ることができるのです。
増資を発表した企業の株価が軒並み下落しているようなときは、増資によるマイナス面を嫌気していることを意味しますから、全体的に相場の地合いは良くないといえます。逆に、増資発表企業の株価が下がらない、もしくは上昇するような状況であれば、増資により将来的に企業業績が向上するという期待が希薄化というマイナス効果を上回っていることになりますから、相場の地合いはかなり良いといってよいでしょう。
個人的には、将来の利益獲得のための積極的な投資に増資資金を充当する企業であれば、増資発表により株価が安くなったところは買いのチャンスではないかと思います(ただしくれぐれも投資は自己責任でお願いいたします)。