私たちの資産は、実質的には「ドル建て資産」に偏っている

 全世界株式のインデックスファンドを持つ方に、改めて確認いただきたいことがあります。この指数は世界中の株式に分散されていますが、その約6割は米国株です。

 加えて、円建ての投資信託であっても、投資対象が全世界株である以上、その価値は為替の動きにも連動します。多くの商品が為替ヘッジをかけていないことを踏まえると、資産の6割前後は実質的にドル建てということになります。米国株式のインデックスファンドであれば、その比率はほぼ10割です。

 つまり、日本の個人投資家の資産形成は、意識せずとも「ドル資産への集中投資」になっている場合が多く、銘柄は世界中に分散していても、通貨という切り口で見ると、驚くほど偏っています。全世界株式は名前が与えるインパクトほど分散されていないのです。

 一方でこの偏りは必ずしも悪いわけではなく、円安局面では強力な追い風になります。図1の通り、実際ここ数年で全世界株式や米国株式に投資していた場合、為替により投資成果は底上げされていました。

図1:直近5年のS&P500種指数(米ドルベース)とインデックスファンドのパフォーマンス推移

図1:直近5年のS&P500種指数(米ドルベース)とインデックスファンドのパフォーマンス推移
※2021年7月末を100として指数化
※データ期間は2021年7月末~2026年7月末
※S&P500は配当込み・米ドルベース、インデックスファンドは基準価額データを使用して作成
※上図は過去の実績に基づく累積リターンの推移であり、将来の投資成果を示唆・保証するものではない
※出所:Bloombergのデータを基に筆者作成

注意すべきは「株安×円高」局面

 海外資産クラスに投資する際、投資成果をその投資対象の実力と為替の影響に分解することができます。例えば、米国株式投資における円建てリターンは、以下の通りに分けることができます。

図2:米国株式の円建てリターンの要因分解イメージ

図2:米国株式の円建てリターンの要因分解イメージ
※各変動幅が十分に小さい場合、株価要因と為替要因の和に近似が可能。変動幅が大きい場合、交差項(両者の積)が無視できない影響を及ぼす
※出所:筆者作成

 こちらの通り、同じ株価の下落でも、為替の動きで円建ての損益は倍近く変わるということが起こり得るのです。

 ここ数年、日米の株価指数が最高値を更新し、円安基調が定着していたことで、私たちは外国株投資に対して少なからず楽観的になっていたのではないでしょうか。今回の円高進行は、株価と為替の両方の変動に備える重要性を再認識させ、自身のポートフォリオと真摯(しんし)に向き合うきっかけを与えてくれます。

株安×円高局面への備え

 では、株安と円高が同時に来る局面では、どのような資産クラスが守りとなるのでしょうか。

 為替ヘッジ付きの先進国債券は、株安と円高の同時進行局面では、理にかなった選択肢の一つです。株式市場が下落する際には市場金利が低下し、債券価格が上昇するため、株式との組み合わせで分散効果が期待できます。

 そしてヘッジをかけていれば為替変動の影響を限定的にするため、債券価格の値動きを素直に受け取れます。ただし後述する通り、現在はいまだ為替ヘッジコストが重く、長期のリターンを押し下げる可能性があります。

 国内債券も、円高局面では素直に効きます。為替の影響を受けず、ヘッジコストもかかりません。かつては超低金利で妙味がありませんでしたが、日本銀行が政策金利を1.00%まで引き上げた現在、円建てで金利を得られる環境が戻りつつあります。

 足元、金利上昇が継続している中では、どうしても今すぐに投資しなければならない、というわけではありませんが、視野に入れるべき資産クラスの一つです。

 金(ゴールド)は、少し性格が異なります。景気後退で株価が下落し、同時にインフレ再燃で金利が上昇するような局面では、債券が株の下落を補えない(株・債券の同時安)リスクがあります。こうした環境下で、金はインフレヘッジ資産としてポートフォリオの防御力を高める役割が期待されます。

 ただし、金は利息を生まない資産であるため、金利上昇がインフレを上回るペースで進み、実質金利が上昇するような局面では、相対的な魅力が薄れ価格の重しとなる点には注意が必要です。加えて、地政学的リスクの高まりや中央銀行による買い支えなど、近年の金価格はかつての「株と逆相関」という単純な枠組みでは捉えきれない動きも増えています。

 当社のコモディティアナリスト・吉田哲の連載記事では、金を始めとするコモディティの投資戦略や価格の変動要因が整理されていますので、ぜひあわせてご覧ください。

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 そして忘れてはならないのが現預金です。リスク資産が下落しているときのクッション役として機能するだけでなく、機動的に買い増しを行うための原資ともなります。また、外貨建て資産とは異なり、円高局面でも価値が目減りしないという点は、円ベースで生活する投資家にとって、地味ながらも重要な視点です。

日本株の中でも明暗が分かれる

 日本株を保有している方にとっては、セクターごとの明暗も重要です。

 円高で不利になりやすいのは、輸出セクターです。自動車・輸送機、機械、電機・精密といった業種は、海外売上比率が高く、円高は円換算の利益を押し下げることになります。

 一方、円高で相対的に恩恵を受けやすいのは、内需セクターです。食品、小売、電力・ガス、陸運・空運、情報通信、不動産などが該当します。国内売上高比率が高く、為替変動の影響を受けにくいためです。

 加えて、原材料や商品を輸入している企業にとっては、円高が仕入れコストの低下につながるというメリットもあります。輸入品を扱う小売や外食の一部が、円高メリット銘柄と呼ばれるのはこのためです。

 ただし、ここに落とし穴があります。「内需セクターだから安心」と思って買った銘柄が、実は売り上げの相当部分を海外で稼いでいるケースは珍しくありません。食品や医薬品のように一般には内需・ディフェンシブとされる業種でも、海外展開が進んだ企業は同様に為替の影響を受けます。業種の名前だけではなく、海外売上高比率の確認が欠かせません。

為替ヘッジという選択肢とその落とし穴

 為替の影響を抑えたいとき、為替ヘッジ付きの商品を選ぶという選択肢もあります。ただし、これには相応の代償があります。

 ヘッジコストは、おおむね投資対象国の通貨と円の短期金利差(今回の場合は日米の金利差)で決まります。その方向性や大まかな水準を測るのに政策金利を比較すると、日銀が政策金利を1.00%まで引き上げたとはいえ、米国は3.50~3.75%の水準にあり、差は2%を優に超えます。つまり、ヘッジをかけると年数%のコストが確実に差し引かれる計算になります。

図3:為替ヘッジの有無による投資リスクの違い、ヘッジコストのイメージ

図3:為替ヘッジの有無による投資リスクの違い、ヘッジコストのイメージ
※上図は実際の価格変動要因の網羅性を保証するものではなく、また、将来の投資成果を示唆・保証するものでもない
※日本より短期金利の低い国の資産に対して為替ヘッジを行う場合、金利差相当分がヘッジプレミアム(収益)として期待される
※為替ヘッジにより為替変動リスクは低減されるが、ヘッジコストや市場環境などの要因により、その影響を完全に除去できるものではない

 2022年以降、各国が急速な利上げを実施すると、金利上昇による価格下落に加え、内外金利差の拡大によるヘッジコストの上昇が重なり、その収益率は為替ヘッジをしていない資産に大きく劣後することとなりました。

 ゆえに為替ヘッジは万能の解決策ではありません。全額をヘッジすれば円高には強くなりますが、円安の恩恵は受けられず、コストだけが確実に残ります。金利差が縮小すれば、ヘッジの妙味は改善しますが、現状ではフルヘッジはせずに、一部に対してヘッジするかどうかを選択肢として持っておく、という位置付けがより現実的な整理です。

今回の局面から学べること

 介入があったから何かを変えるべきだ、と申し上げたいのではありません。むしろこうした局面こそ、あらかじめ決めた方針で良かったのかを振り返り、点検しておくことが重要です。

 そして、確かに為替の動きは円建てリターンに影響を与えますが、常に円安であれば良い、円高であれば悪い、という単純なものでもありません。円安は海外資産の円建て評価額を押し上げる一方で、円の購買力の低下も意味します。重要なのは、為替の方向性の良しあしではなく、それがポートフォリオにどのような影響を与えるかを理解し、リスク管理に生かすことです。

 数年続いた円安は、私たちの資産形成にとって大きな追い風でした。この追い風が止まったとき、あるいは向きが変わったとき、自分のポートフォリオがどう振る舞うのか、ぜひこの機会に確認しておきましょう。