手の込んだ本格的な粉飾が見抜けるか

手の込んだ本格的な粉飾が見抜けるか?なかなか難しいことではあります。しかし、不可能ではありません。今回はシニアコミュニケーションの決算書をみてみましょう。初心者の方にはややっこしく、難しいと思います。図表をよく見てゆっくり確認しながら読んで下さい。

(単位:百万円)

(出所:決算短信等。一部数値加工。)

  平成18年3月期 平成19年3月期 平成20年3月期 平成21年3月期 平成22年3月期
第3四半期
売上高 1,160 1,401 1,578 1,326 306
営業利益 231 348 293 △313 △581
売上債権 824 1,192 1,254 1,233 452
借入金 400 500 1,393 1,423 951
営業キャッシュ・フロー △122 △6 △314 106 353
現金同等物残高 608 1,587 1,452 802 208

注.平成22年3月期のみ単独、その他は連結

シニアコミュニケーションは平成22年6月4日付で、「外部調査委員会による調査報告書のご報告について」を公表し、この調査報告書の中に、役員の行った粉飾決算をはじめとした不正行為が詳しく記載されています。
これをみると、エフオーアイの粉飾決算が主として架空売上を計上するという単純な手法であったことと比べると、粉飾決算により決算書にどのような歪みが生じるかという点を熟知した上で、かなり手の込んだ粉飾が行われているように感じます。
そのため、エフオーアイに比べ、粉飾が見抜きにくくなっています。皆さんは、上記の決算書の数値をみて不自然に感じる点はありますでしょうか。

売上高と売上債権のバランスに要注目

やはり一番に目につくのは売上高と売上債権の金額のバランスです。いずれの期も、年間売上高の80~90%程度の売上債権があり、これは通常より明らかに過大であると判断できます。
この点につき、会社側は従前より、最終検収まで長期間にわたるプロジェクトのため、売上代金の回収に時間がかかる旨の説明をしていました。エフオーアイもそうでしたが、売上代金の回収に長期間かかるという会社側の説明には十分に注意をした方がよさそうです。

架空売掛金への入金によりキャッシュ・フロー関連の兆候が見えづらく

では、営業利益と営業キャッシュ・フローの差異はどうでしょうか。平成18年3月期から平成20年3月期は、営業利益がプラスであるのに対して営業キャッシュ・フローがマイナスですが、不自然さを感じるような大きな差異ではありません。平成21年3月期、平成22年3月期に至っては営業利益がマイナスであるのに対して営業キャッシュ・フローがプラスになっていますから、この動きから粉飾が行われていると読み取るのは困難といえます。
報告書をみると、架空売上に伴い計上された架空売掛金の一部は、役員自身で資金を捻出するなどして、回収されたように見せかけています。このように、架空売上に対応する売掛金の入金がなされているため、架空売上の分だけ営業キャッシュ・フローが営業利益より少なくなるべきところ、明確な差異が現れないようになっていたのです。
現金同等物残高と借入金残高の推移をみても、借入金残高は平成21年3月期にかけて増えているものの、現金同等物残高もそれなりにあり、資金面で苦しいというようには見えません。
平成22年3月期第3四半期は現金同等物残高が減少している反面借入金残高も同じように減少しているため、借入金返済のためキャッシュが減少したと読み取ることができます。ここからは明確な粉飾の兆候は見えてきません。

ソフトウェアの架空計上で売上債権が回収されたようにみせかける

実は平成22年3月期に、それまでにはなかった動きがあります。それは、売上債権が781百万円も一気に減少したことです。キャッシュ・フロー計算書をみると売上債権の減少額として714百万円と記載されているため(表1-A)、実際に売上債権が714百万円回収されたものと思ってしまいます。
ところが、キャッシュ・フロー計算書をよくみると、投資キャッシュ・フローに「無形固定資産の取得による支出」として735百万円が計上されています(表1-B)。実はこれが架空計上だったのです。つまり、約700百万円の架空の売上債権を回収したように見せかけ、架空のソフトウェアをほぼ同額計上することで、辻褄を合せていたのです。
ソフトウェアの架空計上を見抜くことは困難といえます。売上債権の回収により営業キャッシュ・フローがプラスになっていることからもキャッシュ・フロー計算書から粉飾の兆候を読み取ることは難しいと思われます。

表1

見抜きにくいが粉飾の兆候に気付けないことはなかった

架空計上した売掛金につき実際に会社に資金を還流させることで回収したように見せるなど、シニアコミュニケーションの粉飾はかなり手の込んだものであり、エフオーアイの事例よりかなり粉飾は見抜きにくいといえます。特に平成22年3月期に売掛金を回収したようにみせかけ、同額を架空のソフトウェア計上によりしのいでいた点は、営業キャッシュ・フローがマイナスだと問題だが投資キャッシュ・フローがマイナスであることは全く不審に思われないということまでわかった上で実行していたのではないかと思うほど、うまい方法と感じます。
しかしながら、売上高に比べて売上債権の額が大きすぎる、という点では粉飾の兆候は出ていたわけですから、この点を重視して投資対象から外す、という選択肢も取れないことはありませんでした。
少しでも粉飾の兆候を感じ取ったら、投資対象から外す、そこまでしなくともリスクを抑えるために投資資金を少なくする、さらにそれに加えて損切りの実行や下降トレンド下での投資を控えることで、粉飾決算による被害を最小限に抑えることができるはずです。

再確認・粉飾決算を見抜くためのチェックポイント

最後に、粉飾決算を見抜くチェックポイントを再度確認しておきましょう。
それぞれ決算書(別紙1~5)のどの部分をみたらよいか示してありますのであわせてご覧ください。

ア.売上高に比べて売上債権(売掛金・受取手形)が過大になっていないか

イ.営業利益に比べて営業キャッシュ・フローが著しく少なくなっていないか

ウ.営業キャッシュ・フローが何年も続けてマイナスになっていないか

エ.現金同等物が恒常的に少なくなっていないか、また借入金が高水準でないか

オ.売上高に比べて在庫(棚卸資産)が過大になっていないか

オ.について補足しますと、利益を水増しする方法の1つとして、在庫の金額を膨らませて売上原価を過少に計上する、というものがあります。売上原価を過少計上した分だけ、利益が増える仕組みです。しかし、これを繰り返していくと、在庫の金額がだんだんと大きくなり、売上高との関係において明らかな歪みが生じることになります。売上高を在庫金額で割った数値(「棚卸資産回転率」)が年々低下している場合、売上高と比較して在庫金額が増加していることを示すため、在庫の水増し計上による粉飾の恐れがあります。

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