粉飾決算企業の決算書から兆候を読み取る

今回と次回は、実際に粉飾決算があったとされる、エフオーアイとシニアコミュニケーションの2社について、決算書の数値から粉飾の兆候について探ってみたいと思います。
なお、この2社につきましては、会社側が自ら粉飾決算が行われていたことを公表しており、(ただし、シニアコミュニケーションは「粉飾」という表現ではなく「不正会計処理」「不適切な会計処理」という表現を用いています)粉飾決算があった旨の報道もなされていることから、粉飾決算が実際に行われたものとして当コラムでは扱うこととします。

今回はエフオーアイです。決算書中の主要な数値は以下のとおりです。(単位:百万円)

(出所:決算短信等)

  平成21年3月期 平成22年3月期第3四半期
売上高 11,855 8,563
営業利益 2,474 1,991
売掛金 22,895 26,621
借入金・社債 12,811 8,991
営業キャッシュ・フロー △2,768 △3,314
現金同等物残高 2,546 2,529

本当なら数年分の決算書を比較できればより検証しやすいのですが、上場からわずか半年で破たんしてしまい、データの入手ができませんので、上記の数値から読み取れることを探っていくことにします。

まず売上と売掛金のバランスをみる

目を引くのは売上高に比べて売掛金の金額が異様に多いことです。売掛金が年間売上高の約2倍もあります。
これは粉飾決算の典型的なパターンです。粉飾決算を続けていくと、架空売上計上により同時に計上される架空売掛金が回収されず売掛金がどんどん積み上がっていくからです。
会社側は売掛金残高が多額である理由につき、半導体製造装置という特性上納品から代金回収まで長期間を要するという旨の説明をしていましたが、これは粉飾決算の歪みが売掛金に表れていることを必死に取り繕うための苦し紛れの説明だったのです。
業種・業態により多少異なるものの、通常売掛金は多くても年間売上高の20~30%程度でしょう。年間売上高の2倍もの売掛金というのは、どう考えても異常です。もちろんこの事実だけをもって粉飾をしていると断言することはできないものの、十分な警戒が必要な事象であることは間違いありません。
同業他社の決算書とくらべて、売上と売掛金の金額のバランスが明らかに異なっている場合は要注意といえます。

営業利益と営業キャッシュ・フローを比べてみる

次に気になるのは、営業利益と営業キャッシュ・フローの金額に大きく乖離が生じていることです。収益・費用の計上時期とキャッシュの流れは一致しないことがあるため、営業利益と営業キャッシュ・フローの乖離自体は珍しくありません。
しかし、平成21年3月期の営業利益2,474百万円に対して営業キャッシュ・フローがマイナス2,768百万円、平成22年3月期第3四半期の営業利益1,991百万円に対して営業キャッシュ・フローマイナス3,314百万円というのは差が大きすぎます。
したがって、このような場合、ここまで差異が生じる理由をよく調べる必要があります。すると、この差異の大部分は、売上債権の増加によるものであることが分かります。
つまり、キャッシュの裏付けのない架空売上を計上して売掛金が増加した結果、損益計算書では利益が出ているように見える反面、キャッシュ・フローは大赤字になっていたのです。営業利益は見せかけで、営業キャッシュ・フローの大幅なマイナスというのがこの企業の実態といえます。
架空売上の計上という粉飾はキャッシュの出入りを伴いません。そのため、損益計算書とキャッシュ・フロー計算書を見比べると不自然な点が浮かび上がってくるのです。

借入金残高とキャッシュ残高もチェック

また、粉飾決算を行うような企業は、実際の企業内部は大赤字で火の車ということが多いのに加え、黒字決算にするため納税資金も必要ですから、慢性的にキャッシュが不足する傾向にあります。
そのため、現金同等物の期末残高が恒常的に少なかったり、借入金残高が高水準であるケースが多く見られます。
粉飾決算ではキャッシュまで操作することは難しいため、キャッシュに関連した数値に着目することは大いに有用です。
エフオーアイの平成21年3月期は、借入金・社債が12,811百万円となっていて粉飾により実態より膨れ上がった売上高よりも大きな金額です。粉飾により実態は相当な資金不足に陥っていたことが想像できます。平成22年3月期第3四半期は8,991百万円まで減少していますが、これは株式公開による収入を借入返済に充てたためです。

このように、決算書に粉飾の兆候が現れているケースは珍しくありません。投資する前にその企業の決算書をチェックすることは、自らの資産を守ることにもつながります。

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