頻発する上場企業の粉飾決算

近頃、上場企業の粉飾決算が明るみに出ることが多くなってきたと感じます。
粉飾決算は新興市場銘柄に多いのも特徴です。これは、「新興市場銘柄=成長性が高い=株価上昇」という投資家や株主からの強い期待が経営者へのプレッシャーとなり、粉飾に手を染めてしまうからと思われます。企業規模が小さく、オーナー企業であることも多いですから、コーポレートガバナンスの体制が整っていない企業も少なくないのかもしれません。
最近では、いずれも東証マザーズ上場のエフオーアイとシニアコミュニケーションの粉飾決算が発覚しました。両者は上場する前から粉飾決算をしていたというのですから、それが本当であれば株主や投資家に対しての詐欺的行為と言わざるをえません。
また、粉飾とまではいかないものの、「不適切な会計処理」により、過年度の決算数値を訂正する例も目立ちます。
粉飾決算や不適切な会計処理が明るみにでた企業の株価は大きく下落する原因になります。公表された決算書等を信じて投資した投資家にとっては本当にいい迷惑です。

粉飾決算の兆候は決算書に現れる

粉飾決算は、決算書の数字を不正に操作することですから、自ずと決算書にその兆候が現れるものです。
粉飾決算の多くは、「売上が伸びているように見せたい」、そして「利益があがっているように見せたい」という思いから実行されますから、通常は売上高の水増しが行われます。同時に売上高の相手科目として売掛金を計上します。
すると、損益計算書では売上の水増し分だけ利益が多く計上される一方、その売上はキャッシュの裏付けがありませんので、損益計算書の営業利益の額に比べ、キャッシュ・フロー計算書の営業キャッシュ・フローの額が少なくなります。そして、売掛金が不自然に膨らむことになります。
また、粉飾する企業の多くは実態が赤字であるのに黒字に見せかけるため、本業でキャッシュが稼げていないにもかかわらず納税で資金流出が起こるなどして、キャッシュが次第に不足していきます。それは営業キャッシュ・フローや借入金残高の推移を見ればある程度分かります。
以上より、主にチェックすべきポイントは次のようになります。

  • 売上債権(売掛金・受取手形)が年間売上に比べて大きすぎないかどうか
  • 営業利益に比べて営業キャッシュ・フローが大きく落ち込んでいないか
  • 営業キャッシュ・フローのマイナスが続いていないか
  • 借入金残高が増加していないか

この点については次回以降のコラムで実例を用いて解説します。

個人投資家にとってはまず自己防衛するしかない

私たち個人投資家は、企業が公表する決算書その他資料に基づいて投資判断を行い、その企業の株式を購入します。そこには、公表された決算書等が真実であるという前提があります。
しかし、粉飾決算や不適切な会計処理が行われていたことが発覚すれば、公表された決算書等は誤っていたことになります。誤っていた決算書を信じて投資した投資家は、粉飾決算等の発覚に伴い株価下落による損害を被ってしまいます。粉飾を行った経営者などに対して損害賠償請求の訴えを起こすことは当然可能ですが、仮に勝訴したとしても相手方の資力の問題から損害額の大部分は取り戻せないと考えておいた方が良いと思います。
こうした事実を踏まえれば、個人投資家にとって投資先の企業が粉飾決算や不適切な会計処理を行ったことによる株価下落というリスクに対し、自己防衛をする他ないといえます。

万が一の「事故」に備えて同じ銘柄への資金の集中は避ける

まず、粉飾決算の典型例を過去の事例から学び、投資しようとしている先の決算書をチェックして粉飾の兆候がないかどうか確認することが重要です。しかし、粉飾や不適正な会計処理が行われていることが決算書をみただけでは分からないこともよくあります。
したがって、粉飾決算や不適切な会計処理は、どの企業であっても起こり得るという警戒心を持って投資することが大切です。万が一に備え、同じ銘柄へ投資資金を集中させることは避けるべきです。
特に、新興市場銘柄は過去の事例からみても粉飾決算や不適切な会計処理が多く生じています。そうでなくとも新興市場銘柄への投資は東証1部上場の大企業への投資よりリスクが高いですから、1銘柄当たりに費やす資金の限度を決めておくべきでしょう。
さらに、粉飾や不適切な会計処理が発覚した企業の株価をみると、発覚前から株価が安値を更新し続けていたり、下降トレンドが続いていることがよくみられます。
したがって、筆者が当コラムでも常々主張している「損切りを徹底する」「下降トレンドにある銘柄は買わない、持たない」という点を合わせて対応すれば、さらに自己防衛の効果は高まるものと思います。

次回以降のコラムでは、粉飾があったとされる決算書の数値を具体的に検証して、粉飾決算の兆候がどのように表れていたかを見ていきたいと思います。