前回、前々回と、積立投資の王道であるドルコスト平均法を、バリュー平均法や一括投資と比べながら解説しました。

 今回は、将来の積立投資の結果を試算するときに、多くの人が一度は目にする、滑らかな右上がりの曲線について考えていきます。

滑らかな曲線は「毎年同じ」の空想

「年率リターン5%」の積み立てシミュレーションで描かれる資産推移の曲線は、いわば「毎年ちょうど5%ずつ増え続けた世界」を想定したものです。しかし、それは現実的ではありません。ある年は+20%、次の年はマイナス10%といったように、平均すれば5%でも、その道のりは決して滑らかではないのです。

図1:シミュレーション上の滑らかな複利曲線と実際の資産額のブレのイメージ

図1:シミュレーション上の滑らかな複利曲線と実際の資産額のブレのイメージ
※図は期待リターンが年率5%、毎月3万円を積み立てた場合の資産推移のシミュレーションと、資産価格の変動を考慮した場合のイメージを図示 ※試算において手数料、税金などは考慮せず ※上記の条件に基づく試算であり、将来の投資成果を示唆・保証するものではない
※筆者作成

 この問題は、シミュレーションの結果である一本線が、あたかも確定した未来のように見えてしまうことです。こうしたシミュレーションを行うのに必要な入力項目は「積立金額」「想定リターン」「積立期間」の三つであり、証券価格のリターンの源泉でもある「ブレ」は考慮されていません。では、このブレの影響を消さずに将来を描くと、どう見えるのでしょうか。

シミュレーション結果は一本の線から「帯」に変わる

 そこで今回は、モンテカルロ法という手法を用いて、ブレを考慮した積み立ての結果を試算していきます。

 具体的には、毎月のリターンを期待値とブレ(ボラティリティ)に基づいて乱数で発生させる操作を1万回繰り返します。これにより一本の線ではなく、図2のとおり、1万通りのあり得た未来が得られ、運用状況が良かった場合から芳しくなかった場合までを想定した、幅のある帯になります。

図2:資産価格のブレを考慮した場合の積み立てシミュレーション

図2:資産価格のブレを考慮した場合の積立シミュレーション
※図1の条件(年率リターン5%、毎月3万円積み立て)に加えて、年率リスク15%を想定し、リターンのバラつきを考慮した資産額の推移をモンテカルロ法により試算 ※月次の積み立てを確率的な月次リターンのもとで1万通りの資産額の経路を発生させ、資産額の分布を図示 ※試算において手数料、税金などは考慮せず ※上記の条件に基づく試算であり、将来の投資成果を示唆・保証するものではない ※筆者作成

 注目いただきたいのは、赤色の実線で示す従来の「毎年5%」の一本線は、帯の中央ではなく、やや上を通っていることです。数字で見ても、30年後のシミュレーション上の平均は2,450万円であるのに対して、その一方で、中央値は約2,058万円でした。

 図1で見た、資産価格のブレを考慮しない試算では、結果は約2,497万円であり、図2の平均と近しい数値です。つまり、よく見かけるあの一本線は、ブレを考慮した場合の平均近くを描いていることになります。

 そして資産額のブレは上に大きく開きます。これは、ごく一部の幸運なケースが平均をつり上げるためであり、結果として平均は、ちょうど真ん中の成績である中央値より高くなります。「中には一本線を上回るケースもある」の裏側で、実は多数派がたどり着くのは一本線より下の結果なのです。

「20年持てば負けなし」は本当か?

 その他に積み立てでよく語られる通説があります。「長く持つほど元本割れしにくい」や「20年以上持てば、過去はほとんど負けなしだった」というものです。これはシミュレーションでどう見えるでしょうか。図2の帯に、元本割れした割合を重ねてみます。

図3:資産額と元本割れ確率の推移の試算

図3:資産額と元本割れ確率の推移の試算
※図2と同じ仮定、条件を基に試算 ※元本割れ確率は発生させた資産額パスのうち投資元本を下回った経路の割合を算出 ※将来の投資成果を示唆・保証するものではない ※筆者作成

 図3の青色の実線(右軸)のとおり、元本割れの割合は、積み立て年数が延びるほど確かに下がっていきます。10年で約24%、20年で約15%、30年で約10%と、長く続けるほど負けにくくなる、という通説の方向とは、たしかに整合します。

 ただし、二つ注意が要ります。一つは、ゼロにはならないこと。30年でも1割ほどは元本割れする可能性が残ります。もう一つは、より本質的な区別です。通説の「過去は負けなし」は、現実に起きた一本の歴史の結果論です。

 一方、図3が示すのは、あり得た1万通りの分布での確率です。つまり、前者は「たまたまその道だった」のに対して、後者は「どれだけの割合で負け得るか」という、似て見えて全く別物なのです。

同じリターンでもブレが大きいとどうなる?

 図3では年率リスクを15%としていました。では、年率リターンは5%のまま、ブレだけを大きくすると、どうなるでしょうか。

図4:想定リスクを大きくした場合(右側)の資産額と元本割れ確率の比較

図4:想定リスクを大きくした場合(右側)の資産額と元本割れ確率の比較
※いずれも年率リターン5%、毎月3万円を積立投資する場合を仮定し、想定リスクは左図が年率15%、右図が年率25% ※その他シミュレーションに係る仮定や条件は、図2と同様 ※将来の投資成果を示唆・保証するものではない ※筆者作成

 図4のとおり、年率リスクが15%から25%に引き上がると、帯は上下に大きく広がります。ここで見落とせないのが、想定のリターンは同じにもかかわらず、中央値はむしろ下がるという点です。

 30年後の中央値は、リスク15%の約2,058万円に対し、25%では約1,551万円となり、同じ平均でも、上下を繰り返すほど幾何的な増え方は鈍ることが示唆されます。つまり、資産価格のブレそのものが、複利の効きを弱めてしまう可能性があるのです。

 また、元本割れの割合も増加します。リスク25%では、30年たっても約33%と高止まりし、期間を延ばしてもなかなか下がりません。つまり「長く持てば大丈夫」という安心が、ブレの大きい資産では通用しにくくなるということです。

 こうした、期待リターンが同じでもリターンのブレが結末を左右するというのは、よくある一本線のシミュレーションでは決して見えない事実です。

積み立てならではのわな―「順番」が効く

 もう一つ、一本線のシミュレーションが消してしまう重要な要素があります。リターンの順番です。

 一本線では、毎年同じリターンなので順番という概念がありません。しかし実際には、同じリスク・リターンでも、暴落がいつ来るかで結末が変わります。序盤の大幅下落は、資産がまだ小さい上に、その後を安く仕込めるので、むしろ追い風になり得ます。

 逆に、資産が大きく育った終盤の暴落は、失う金額が大きく、取り返す時間も足りません。モンテカルロ法ではこの「順番のあや」を自然に含んでいますが、滑らかな一本線は、それを全て平らにならしてしまうのです。

シミュレーションそのもののわな

 とはいえ、モンテカルロ法によるシミュレーションを万能の水晶玉のように扱うのも、また別のわなです。シミュレーションの結果は、想定のリターンやリスクをいくつに置くか、リターンの分布をどう仮定するかなどの前提次第で大きく変わります。

 今回の試算は、金融実務の現場で広く採用されている標準的な手法に基づいていますが、現実より穏やかすぎるきらいがあります。実際の相場は、データ上ではまれとされる極端な下落(テールリスク)が起きやすく、暴落は固まって連続しがちです。ナイーブなシミュレーションは、そうしたまとまった危機を過小評価することがあります。

 一本線のわなを別のわなで置き換えないためにも、数字は前提の上に乗った「もっともらしさ」にすぎない、という距離感を保つことが大切です。

まとめ:線ではなく幅で捉える

 以下は、一本線の積み立てシミュレーションを見る際に気を付けたい点です。

  • 示されているのは平均値であり、ちょうど真ん中を指す中央値とはズレがある
  • 長期で元本割れ確率は下がるが、ゼロにはならず、しかもブレが大きいほど下がりにくい
  • リターンの順番が考慮されない

 一本の複利曲線が示すシミュレーションは、分かりやすく便利です。しかし、上記の課題があることから、将来の姿は一本線ではなく、資産価格のブレをふまえた、幅があるものとして捉えておくことが重要です。そして、リスクや資産配分について解説した回でお伝えしてきたとおり、資産額のブレは資産の組み合わせ方の工夫で、一定程度下げることができます。

 ぜひ本稿とあわせて、ご自身の積立投資の振り返りの際にお役立ていただけますと幸いです。